男の俺が『勇者』ではなく、なぜか『聖女』だった件

なつきコイン

プロローグ

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本作は動画化して、YouTubeのショートで配信しています。

https://www.youtube.com/@Natsuki_Coin

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「はあー(怒)?! なんで勇者の剣が勇者の俺を拒絶するんだよ」

 金髪青眼の美青年であるユウトは、王座の前に置かれた剣の柄を握ろうとしたが、電撃のような痛みが走り、思わず手を放した。剣は、まるで彼を嫌っているかのように、その場に落ちた。


「まあまあ、落ち着いてユウト君。ユウト君は私たちと同じ救世主の刻印があるんだから、勇者であることは間違いないわよ」

 アイリスは、ユウトの腕を優しく引っ張り、彼を宥めようとした。彼女は、自分の頭に乗せた聖女のティアラを直しながら、心配そうに彼の顔を見た。彼女は、銀髪赤眼の美少女で、清楚な白いワンピースに身を包んでいた。彼女は、ユウトと同じく、異世界から転生して来た救世主の一人だった。


「ぷぷぷぷぷ(笑)。アイリスったら、ユウトのことを心配するなんて随分と余裕じゃない。自分だって聖女のティアラが頭からずり落ちているわよ」

 セリアは、ユウトとアイリスの様子を見て、嘲笑した。彼女は、自分の手に持った賢者の杖をくるくると回しながら、得意げに笑った。彼女は、赤髪金眼の美少女で、貴族の娘らしく華やかな緑色のドレスに身を包んでいた。彼女も、二人と同じく、異世界から転生して来た救世主の一人だった。


 救世主である、勇者と聖女と賢者の三人は、三種の神器である、勇者の剣と聖女のティアラと賢者の杖を賜るため、王城の謁見の間で、国王陛下と謁見を行なっている最中であった。

 この世界は、常に魔王とその配下による侵略の危機にさらされており、救世主たちは、魔王を倒すために異世界から転生させられたのだった。


「神官よ。あの二人が勇者と聖女であることは間違いないのか?」

 国王陛下は、高い玉座から三人を見下ろし、神官に尋ねた。彼の声には、不安と怒りが混じっていた。彼は、この国の統治者であり、堂々とした王冠と王服に身を包んでいた。


「はい、国王陛下、それは間違いありません。お二人にも賢者であるセリア様と同じ、救世主の刻印があることを確認しております」

 神官は、三人の左手にある、救世主の刻印を指さし、答えた。彼の顔には、困惑と恐れが浮かんでいた。彼は、白髪白眼の老人で、神聖な白いローブに身を包んでいた。彼は、この国の最高の神官であった。


「だがな、勇者が勇者の剣を使えなければ魔王を倒すことはとても無理じゃろ」

「そうですね。聖女様も聖女のティアラを持て余しているようすですし、賢者様の賢者の杖だけではとても無理かと」


「困ったことになったの。世界の命運はあの三人にかかっているというのに」

「魔王たちによる被害がもう出ているのですか?」


「いや、まだだが、四天王が魔王城に集まっているとの情報を掴んでいる。近いうちに何か動きがあるはずだ」

「そうですか、そうなると何がなんでもあの三人に三種の神器を使いこなしてもらわなければなりませんね」


「そうなのだが、あの様子ではな。はぁー(落)」


 ユウトとセリアがいがみ合いを始め、それを止めようとアイリスがあたふたしていた。


「三人とも静かにせい!」


 国王陛下に一喝され、三人はお偉いさんの前であったのを思い出し、恐縮して静かになった。


「勇者が勇者の剣を使えないのでは、戦力的にとても魔王に対抗できない。なんとかせねばならないが、セリアよ、賢者であるそなたなら何か良い案を思いつくのではないか」

「そうですね。私の刻印が共鳴していますから二人が勇者と聖女であることは間違いがないでしょう。ただ、ユウトが勇者で、アイリスが聖女であると決めつけるのはいかがなものかと」


「それはどういうことだ。アイリスが女勇者の可能性はあるとしても、ユウトは男であろう。ならば、聖女である可能性はないであろう。それともユウトは女なのか?」

「俺はどこからどう見てもれっきとした男ですよ。見てくださいこの筋肉。俺が勇者に決まってます」

 ユウトは、着やせするタイプで、実は細マッチョであった。筋トレが趣味で、着ている服を脱ぎ捨てると自慢の筋肉を披露した。


「あわわわわ」

「なにこんなところで脱いでるのよ」

「別に上着だけなら問題ないだろう」

「国王陛下の御前なのよ」

「まずかったか?」

 アイリスは恥ずかしそうに慌てて目を手で覆い、セリアはユウトに文句を言った。ユウトはそんなことは気にしていないようだ。


「わかったから服を着ろ。話が進まぬではないか」

「申し訳ございません。ほら、ユウトは早く服を着て」

「しかたねえな」

 国王に窘められたが、謝罪したのはセリアだった。ユウトは仕方なく服を着た。


「それで賢者よ。先ほどの発言の真意はなんだ」

「言葉にしたとおりです。男だから聖女にはなれないという固定観念は捨てるべきです」


「そう言われてもな。仮にユウトが聖女だとしてどうやって証明する」

「俺は勇者だ。聖女のわけがないだろう」


「証明するのは簡単です。ユウトに聖女のティアラを被せてみればいいのです」

「そうか。それもそうだな」

 国王陛下は、それは盲点だったと大きく頷いた。


「ちょっと待て、俺はそんなもの被るのは嫌だぞ」

「そんなものって。こんなに奇麗なティアラなのに。(涙)」

 ユウトはそれを拒否したが、ティアラをけなされたと思ったアイリスが涙目になる。


「あ、いや、アイリス。奇麗だからこそ俺に似合わないと言っただけだ」

「そんなことない。きっとユウト君にも似合うわよ」

「ユウト、アイリスもそう言ってるし。どうよ、一度つけてみれば」

「セリア、お前、俺を笑いものにしたいだけだろう」

 ユウトは慌てて言い訳をするが、そこをセリアに付け込まれた。


「でも、それを一度つけてみれば聖女ではないと証明できるのよ。(もちろん私は笑うけど)アイリスもユウトが聖女でないとわかれば安心できるでしょ」

「そうね。ユウト君が聖女でないと証明されれば、私が聖女だと証明されたようなものだものね」

「だが、俺は……」

 セリアがアイリスも巻き込み、ユウトを説得しようとするが、ユウトは煮え切らない。


「ユウト、一度被ればすぐに証明できるのだ。さっさとせい」

 業を煮やした国王陛下が、ユウトに決断を迫った。

「うううう。一度だけだからな」

 国王陛下から命令されてしまってはユウトには断れない。

 ユウトは仕方がなくアイリスから聖女のティアラを受け取ると、それを頭の上に載せた。


 それを見たセリアは笑いをこらえることができず笑い出した。

「ぷぷぷ。ユウトがティアラを付けてる(笑)」

 まあ、元々、笑いをこらえる気はなかったようであるが。

「セリア! 貴様、やっぱり笑いたいだけだったんだな」


 ユウトはセリアに笑われて、急いでティアラを外そうとした。しかし。


「あれ、取れない?」


 アイリスがいくらしっかり頭に載せても、すぐに落ちてしまった聖女のティアラが、ユウトの頭からは落ちるどころか外すこともできなくなってしまったようだ。


「あははっは。ユウトの頭からティアラが取れない。(爆笑)」

 笑いが止まらないセリアに対して、アイリスはそれどころではなくなっていた。

「あわわわわ。それじゃあユウト君が聖女なの。なら私は……」


「おめでとう。アイリスが勇者よ。はい、勇者の剣」

 アイリスの様子に目を止めたセリアは、そばに置いてあった勇者の剣をアイリスに渡した。

「えー。そんなことってあるの?」

 アイリスは、戸惑いながらも、セリアから渡された勇者の剣を受け取った。

 アイリスが勇者の剣を握ると明らかに力がみなぎってきた。そのまま、アイリスは勇者の剣を抜いた。


 勇者の剣は神々しい程の光を放った。


「おお。これは」

「まさに、勇者の剣ですな」

 国王陛下と神官が目を見張った。


「えー。私が本当に勇者なの」

「そんな馬鹿な。俺は、俺は、聖女なんかじゃ」

「ユウト、そのティアラを付けたまま何を言っても無駄よ。がははっは(大爆笑)」


「セリア。貴様、こうなると知っていたな」

「さあ? なんのことかしら」

 詰め寄るユウトにセリアはとぼけた返事をした。


 そんなセリアをユウトが睨む。睨まれたセリアは仕方なく言葉を続けた。

「私が領地で静かに暮らしていたのに、無理矢理ここに連れてきたのはユウトたちでしょ」

「セリア、俺たちを恨んでいたのか」

「セリアちゃん」

「恨んでなんかいないわ。どうせ逃げられない運命なのだもの」

 セリアは左手の刻印をまじまじと見る。


「ただちょっと憂さ晴らしをしたかっただけよ」

「やっぱり、お前、知ってたんじゃないか(怒)」


「予め言ったら、あなた、絶対にティアラを装備しなかったでしょ。それじゃあ魔王に勝てないのよ」

「それは、そうかもしれないが」

「セリアちゃん、魔王を倒してしまっていいいの?」

 二人はセリアが魔王と戦いたくないことを知っていた。


「負ければこちらが殺されるのよ。少なくとも互角以上。できれば、相手を圧倒するだけの力があれば、戦わずに済むかもしれないわ」

「そうよね」

「そうだな。そうなのだが、このティアラだけはどうにかならないか」


「それは無理ね」

「男の俺がティアラをしていたらおかしいだろ。このままだと、外を歩けないんだが」

 ユウトにとってこれは笑い話で済むことではなかった。


 それはユウトだけではなかったようだ。

「それは確かに困った事態だな。勇者パーティを国民にお披露目せずにはおけんからな」

「そうですね。教会としても聖女様が男だというのはいささか……」

 国王陛下と神官は聖女が男だと都合が悪いようだ。


「もういっそうのこと、ユウトが女装してしまえばいいんじゃない」

「あー。女装! 無理無理」

 ユウトは全力で否定したが、周囲の反応はそうではなかった。


「賢者よ、それは良い考えかも知れん」

「そうですね。ユウトさんは女顔ですしいけますよ」

「ユウト君が女装。それもありかも」


「どうしたんだみんな。そんなの無理に決まってるだろう」

「ユウト、諦めなさい」

 ユウトは慌てて否定するが、セリアが諦めろと彼の肩を叩く。

「セリア」

 ユウトが情けなくセリアを振り返る。

 それを見たセリアがまた笑い出す。

「ユウトが女装。ブハハハハ(大爆笑)」

「セリア、貴様(怒)」

「セリアちゃん、あんまりユウト君のことを笑ったら悪いよ」


 ユウトの女装が国の方針として決定するまで、セリアの笑いとユウトの怒り、そして、アイリスの心配は続くのだった。


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