最終話:幸せでありますように

 ――――――――――後日談。


 ザカライア様はわたくしと婚約したことで、ウェステリウス王家に近い大貴族の後ろ盾を得たと考えられたようです。

 すぐに立太子されました。

 わたくしは貴族学院卒業後に異国であるホリキアに嫁ぐことになりましたが、全然寂しくなんかないんです。

 何故なら時々転移魔法を使ってウテナさんが遊びに来てくださるから。


 ネルタ・コルラ連邦救国の勇者の義理の姉という扱いで、ホリキアでも大変待遇がいいんです。

 仲良くしてくださる方も増えました。


 ホリキアはウェステリウスと勇者ウテナに関係の深い国として認知されるようになり、ネルタ・コルラ連邦盟主国としての地位を不動のものとしました。

 ゴタゴタが常態だった連邦が却って安定するようになり、これもまた勇者の恩恵だと言われています。

 ウテナさんの影響力はすごいですねえ。


 ウテナさん自身がどうかですって?

 あの舞踏会の日以来、皆の見る目が変わりましたね。

 またウテナさんがニコラス様の婚約者であると外国にも公式に発表されたことから、ウテナさんと関わりのあった国や宗教団体、冒険者ギルドなどから、ひっきりなしに挨拶が来てました。

 もう誰も平民などとバカにする人はおりません。


 ホリキア~ウェステリウス間の貿易は、連邦~ウェステリウス間の貿易に拡大するだろうと言われ、中継地点となるホリキアは大変な恩恵を受けるだろうと予想されています。

 ウェステリウスはこれまで魔の深き地として敬遠されてきた辺境開発に、ウテナさんを中心に乗り出しています。

 また冒険者や魔法使いの育成に力を入れることにしたようです。

 ウテナさん、まだ学生ですよね?

 どうなっているんでしょう。


「エルシー」

「あ、ザカライア様」

「体調は問題ないか?」

「はい、お気遣いありがとうございます」


 今、わたくしのお腹の中には赤ちゃんがいます。


「ウテナさんとザカライア様のおかげを持ちまして、わたくしは幸せです」

「ウテナか」

「ザカライア様も思うところありますか?」


 妃に欲しがってたくらいですからね。 


「正直惹かれるものはあるがな。ウテナは我には靡かぬであろう」

「そうですか?」


 ザカライア様は素敵ですのに。


「あれは愛を欲しがっているのではないかと思うのだ」

「あ……」

「エルシーも心当たりがあるか?」

「わたくしのことを『お姉ちゃん』と呼ぶのも、身内との縁が薄いせいかと思っていたのです」

「間違いなかろう」

「愛を求めていたのだとすると説明がつきますね」

「だからニコラス殿のような体当たりの愛に弱いのだ。おそらくな」


 『真実の愛』と呼ぶニコラス様の情熱がウテナさんを動かした。

 ウテナさんはあれほど現実的な感覚を見せつけてくるのに、即物的でない精神的な愛を求めているのですね。

 腑に落ちた気分です。


「ニコラス殿の強引さ、率直さは我にはないものだ。悔しいがウテナとはお似合いと思わざるを得ない」

「そうですね……」

「もっともネルタ・コルラ連邦には我以外にもウテナを狙っていた者は多い。ウテナが姿を消さねばいらぬ争いが起きていたという認識は、おそらく正しい」


 ウテナさんがニコラス様の婚約者で。

 ウェステリウスと親密なホリキアが連邦の盟主国である現在の体制が、多分最も平和なのでしょう。

 どこまでウテナさんの計算なのかはわかりませんが。


 今から思うと、ニコラス様の公開婚約破棄宣言。

 あれは暴走なんかではなく、ニコラス様の一途な思いだったのでしょう。

 ウテナさんとウェステリウス王国への。


 ニコラス様は魔物学選択者の課外実習以前に、ウテナさんの信じられないような実績を知っていたのではないでしょうか?

 実際に噂に違わぬ魔物退治の腕前を見て、ウテナさんこそが自分の伴侶としてウェステリウス王国を支える者だと信じた。


 しかし当時はわたくしと婚約していて、王家内部でも婚約者交代に賛成する者がいなかった。

 だからこそ廃嫡の危険も顧みず、公開婚約破棄に踏み切った。

 そう考えるとしっくりきます。


 ザカライア様と目が合います。

 ザカライア様は鋭い目付きでいらっしゃいますが、わたくしを見る目はとても優しいのです。

 わたくしの愛はここにあったのだなあと思います。


「エルシー」

「元気な子を生むのだ。愛しているぞ」

「……はい」


 いずれにせよわたくしにとって満足すべき結末なのは間違いないです。

 ウテナさんの作り出した理想に拍手です。

 そしてニコラス様とウテナさんも幸せでありますように。

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婚約破棄されましたけど、殿下の真実の愛のお相手はスーパーガールなので仕方がないです uribou @asobigokoro

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