魔力7ステータスオール1の最弱無能ユニーク探索者の叛逆
御峰。
第1話
外に出ると、少しずつゲートの光が空の上に散っていく。
何度見ても幻想的な光景だが、それを楽しむ心の余裕はもう残っていない。
僕と一緒にゲート討伐に参加した探索者達が集まって楽しそうにしている。
「今回はお疲れ~打ち上げにでも行くか~」
「「「いいっすね!」」」
全員ではないが打ち上げに参加しない者もいる。けれど、ほとんどの人は参加する。
しかし……その誘いが僕に向くことはない。
「おい見ろよ。あいつだけ激闘を繰り広げたみたいで笑えるぜ!」
「汚れた無能ユニーク様だぜ! がはははっ!」
服一つ汚れていない彼らは、僕を嘲笑いながら去っていく。
十年前、世界にゲートが出現し、能力を覚醒した人達は探索者になる資格が与えられ、ゲート内でモンスターとの激戦を繰り広げたが、今ではゲートも研究し尽くされランク付けされ、その強さに応じて探索者に仕事が割り振られるようになった。
今回のゲートは最低ランクのFランクゲート。戦う術がない僕は囮となってモンスターの注意を引き、彼らが殲滅していく戦いだったが、正直、僕が注意を引かなくても彼らだけでも殲滅できたと思う。
彼らの後ろを追いかけるだけで報酬をもらうわけにもいかず、僕は必死に囮になっているのが現状だ。
今回討伐隊のリーダーがスマホを取り出し、ゲートクリアを報告すると、僕も支給されている探索者スマホにクリアと報酬入金の連絡が届いた。
「
「こちらこそありがとうございました」
だが、その表情はどこか酷く冷たく、僕に送った言葉は労う言葉ではなく、形だけのものだとわかる。
挨拶を終えて、僕は消えていくゲートを背にその場を去った。
◆
都内のとある病院。
綺麗に保たれた個室の病室の中。
置かれたベッドには一人の少女が静かに眠っており、その隣には彼女の心拍数を映した機械、そして、不思議な赤い水晶が浮かんでおり、少女を照らしていた。
僕はゆっくり彼女に近付き、眠っているその手を握った。
「
しばらく眠っている結月の手を握ってあげた。
◆
「ただいま」
家に入ると薄暗いリビングでボーっとテレビを見ていた中年男性の視線が僕に向く。
その表情は――――まるで汚いものを見るかのようなものだ。
男は何も言わず、その場にあった空のペットボトルを僕に投げつけた。
「どうしててめぇが元気で俺の娘が“魔欠症”なんだよ!」
僕はペットボトルを避けることなく、それに当たった。避ければもっと酷いことを知っているから。
僕はすぐに汚れた服を着替えて、流し台に向かい、溜まった皿を洗い、夕飯の準備をする。
「おい! 酒!」
すぐに冷蔵庫に入っている缶ビールをお父さんに持っていくと、座ったまま僕の太ももを蹴りつけた。
「もう少しで夕飯ができます」
「さっさとしろ! のろま! てめぇみたいなゴミを育ててやるんだ!」
「はい」
またいつもの家事に戻る。
リビングでは酒を飲んで「結月ぃいい」と自身の愛娘の名前を呼びながら泣く声が聞こえた。
お父さんの夕飯を作り、自分の夕飯はこっそりと部屋に残しておく。
夕飯をテーブルに持っていくとすぐに皿を僕に投げつけてきた。
「この無能めが! ユニークジョブがあるんだからさっさと結月を治してこい! てめぇがこの家にいたからあの子が魔欠症になったんだ!」
それからはいつもと変わらない行動が続いた。
眠りについたお父さんをリビングにある布団に運び、テーブルの上に残った夕飯を置いては、投げられた皿や散らかったものを掃除する。
時間は有限だ。もう流す涙も残っていない。
掃除が終わり、すぐに風呂に入り、僕は部屋に籠って食事を簡単に取った。
探索者ギルドから提供されているスマホを開いて、探索者情報を見つめる。
一番最初のページには、綺麗な金色の長髪で顔が整った女性の写真が目に入る。
『高校二年生Sランク探索者、
同じ年齢だというのに自分とは住んでる世界が違うんだな。
◆
翌日。
朝早くに昨日作っておいたおかずを入れておいた弁当を速やかに持ち、お父さんが起きる前に家を出る。
まだ外は少し暗いが、これ以上家にいると起きたお父さんによって家から出る時間が減ってしまうから。
そんな僕の前に一人の男性が立つ。
「お久しぶりです。神威くん」
髪を金色に染めた鍛えた体が衣服からでもわかる爽やかな男性だ。
「どうも……
僕は……この男性が苦手だ。
「ずいぶんな
「はい……相変わらず、避けるのに精一杯ですので……」
「……私には誰かに直接殴られたように見えますが?」
「っ!? ち、違います! これは僕が飛んだときに地面にぶつかったときの傷です!」
彼の鋭い視線が僕の目を覗き込んでいたが、すぐに笑顔になった。
「これは失礼しました。まさか、お父様に虐待をされているのではないかと勘繰ってしまいましてね」
「そんな事実は一切ありません。迷惑なんでやめてください」
「……神威くん。本当にそれでよろしいので?」
「僕がそうだと証言しています! いい加減にしてください!」
「……わかりました。申し訳ございません。それと最近の変化についてはいかがですか?」
ようやく彼は疑いから本題に移ってくれた。
「その件はごめんなさい……まだ何もわかりません……レベルはまだ10のままです……」
「そうでしたか。では新しいスキルは獲得できなかったようですね」
「はい……」
「ふむふむ。他に何か変わった点はありますか?」
「特には……ないですね」
「そうでしたか。ご協力ありがとうございます」
「い、いえ。こちらこそ、結月の延命治療をよろしくお願いします」
「もちろんです。政府の最新式の機器で延命治療をさせていただきますので、ご安心を」
その言葉を聞いて安心した。
僕が彼らと交わした契約。
結月が謎の病気――――通称“魔欠症”によって意識不明になり一年。本来なら三か月で命を落とす病気だが、僕のユニークジョブを研究する代わりに、妹の延命治療をお願いしている。
僕は探索者として働きながら、ときおりこうして経過報告をする義務を持つ。
この契約を交わした最初の三か月は、政府の支援によって僕のレベルを10に上げてもらった。もちろん、かなりの異例のことだが、その理由は僕のユニークジョブが世界で初めて観測されたことと、僕の魔力が世界で最も低い7を計測したこと。さらに覚醒者だけが持つことになる『ステータス』も全ての数値が1だった。
それではモンスターを倒すことは難しいため支援を受け、レベル10まで上げてもらった。
その結果としては、何も変わらなかった。
覚醒者は、覚醒したときに体内に魔力を持ち、その数値は――――未来永劫変わることがない。つまり、僕の魔力はこの先もずっと7だ。
スキルを使うのに必要な魔力がたったの7。さらに僕は本来あるはずのジョブ限定スキルが存在せず、魔力を使うこともできなかった。その上、ステータスまで最低。
そこに追い打ちをかけたのは、レベル1から10まで上げても、僕のステータスは――――1のままだった。本来なら誰しもがジョブに関するステータスが上昇するはずなのに、僕は上がらず、これも世界初ということだ。
そんなこともあり、政府は僕への支援を中止、後は自力で何とかしろということになっている。
もちろん、結月の延命治療は最後まで行ってくれる契約だ。
「ですが、神威さん。今の我々の医療を以ってしても、“魔欠病”を治すことはできず進行を遅らせることしかできません。残り――――あと半年。悔いのないようにしてください」
「……ええ。知っています」
「どうかご無理だけはなさらずに。探索者が体が資本ですから」
知っている。だからといって……ここで止まるわけにはいかないんだ。
絶対に結月を……たった一人の妹を救うその日まで……僕は……!
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