第100話
侯爵と伯爵では共に上級貴族ではあるが、その爵位の重みが異なる。
序列でいえば王家に連なる公爵を除けば侯爵は序列一位となり、その権威は次席の伯爵とは雲泥の差があるといえた。
元の世界でも東洋と西洋、また各国において爵位の重さや役割は異なるのだが、この世界の貴族に関していえば非常にわかりやすい制度だ。
侯爵は広大な領地を持ち、かつ国の要職に名を連ねる者である。また、職務については世襲制とされていた。
一方、伯爵についても領地を持つことは変わらないが、任命される職務については4年の任期が定められており、多選は連続で3期までとされている。これは多選禁止条例に基づくもので、同じ者が長々と同一の役職に居座ることで政や執行の偏りや業者との癒着が常習化しないための配慮とされていたが、実際には国や侯爵以上の貴族たちの思惑によるものでしかない。
因みに、伯爵以下の爵位についても基本的に領地を持っていることが多いが、その意味は前述とは少し異なった。国王の臣下として領地を支配する侯爵や伯爵とは違い、地方に派遣されて国王の代わりに領地を治めるのだ。
簡単にいえば伯爵以上が大名、それ以下が代官といえばわかりやすいだろう。また、その立場の者は国の役職に就くことも多いが、その大半は伯爵以上の者を補佐する役割を担う。
貴族らしくピラミッド型、もしくはヒエラルキー型と呼ばれる権力の一極集中の図式ができあがっていることから、国政を担う上で変化や競争への迅速な対応が難しい古びた体制であることがわかるだろう。
「それで、侯爵家から様々な仕事を強要されているといったところか?」
ソフィアの話を聞いて、直ぐに思い当たったのはそれだ。
通常、身内が殺害されたともなれば報復されそうなものだが、そこは貴族社会である。
政略結婚と同様、事件の過失を最大限に利用して、御家繁栄のために骨までしゃぶりつくそうとされているのではないかと思ったのだ。
伯爵家令嬢であれば別の貴族と結婚させて新たな人脈網を形成するか、その身を差し出させて間諜などに仕立てるなどが定石だろう。
しかし、ソフィアは戦闘に関して優秀なところを見せてしまっている。それに加えて精神面の強さや頭の回転の速さを知れば、別の使い道を模索する貴族もいるのではないかと想像した。
「侯爵家はもっと小物だったさ。三男の死に怒りを抱き報復、いかに残忍な形で伯爵家を潰そうかと考えていたようだ。」
嫌な返答だった。
そうなると、相手はもっとややこしいところだといっているようなものではないだろうか。
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