第82話

「もうひとりは逃走したみたい。」


ミオが気配を読みながらそう答えた。


今回は俺が先走ってしまったようだ。


上方でロープが切られたからとはいえ、後続の男二人は開口部から侵入させて、ディレクとミオに相手してもらうことで残りのひとりを追えたかもしれない。


「残りの一人は君らと同じ出身だと思う。」


「同じ部隊ということ?」


「そうだ。」


「名前は···別のものを使っている可能性が高いわよね。」


「そうだな。俺が聞いた名はソフィアだった。冒険者ギルド本部所属の執行官であり、裁定者でもある。」


「ソフィア?」


「女性なの?」


ふたりからおかしな反応が返ってきた。


「元の世界では男だったのか?」


「そうよ。」


「あと···俺も逆だった。」


「ディレクは女性だったということか?」


「そうだ。」


ずいぶんとややこしいことになっているようだ。


こちらの世界に来たら性別が変わっていたとか、本人にとってはショックや混乱が大きいだろう。


そういえば、ソフィアは同志をバディと呼び、女性にしては珍しいと思える言い方をしていた。


彼女が元の世界で彼だったのなら、衛生兵としての任務中に性的暴行を受けそうになったというのは嘘ということか。共にこちらの世界に来た不穏分子を排除することが自らの任務だとも言っていたが、それすら虚言ということだろう。


さらに、冒険者ギルドによく出入りしている女性を探していると言っていた。


身長170センチメートル、体重はおそらく60キログラム。白人で髪は金色、瞳はブルーアイ。


ミオの特徴に一致する。


しかし、冒険者ギルドによく出入りしているという情報については、カレンの言葉からすると正確性に欠けてしまう。


ディレクもミオも冒険者ギルドに出入りを始めたのはつい最近のことだったのだ。


そこで嫌なことを想像した。


補佐官としてソフィアと共に行動していた者たちを無力化したことで、次の展開に最悪なイメージが浮き上がってくる。


執行官、そして裁定者である彼女はこのままでは破滅に向かう。


副議長に毒を盛った当事者かどうかは今のところ不明である。


しかし、実行犯もしくは教唆犯の可能性は高く、現役の執行官の命を狙った事実も残る。


ただし、状況によっては俺が窮地に立たされる可能性も考えなければならなかった。


冒険者ギルド本部と、かたやその支部に身を置く執行官。


どちらの方が信頼を得ているかは今のところ不明なのだから。

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