第76話

さすがにこちらの冒険者ギルドに数ヶ月も在籍していれば、周辺の地形はある程度把握していた。


冒険者の初級講座を行うにしても、何も知らない洞窟に新人冒険者を連れてくるような真似はしない。


この洞窟も何度かひとりで潜っており、奥がどうなっているかは把握している。


「ナオさん、奥から出られるのか?」


煙の流れが勢いを増している。


入口でキョウチクトウを燃やしている奴らが、空気送りのためにふいごなどを用いているのかもしれない。


強制的に空気を送り込むことで、煙を効率的にこちらに押し出しているのだ。


間違いない。


奴らはこの洞窟の地形も把握しているのだろう。


冒険者ギルドで金さえ払えば、探索済みの洞窟の地図くらいはすぐに手に入れることができた。


この洞窟はもともとは熊系の魔物の棲みかだったそうだ。


ある冒険者パーティーがその魔物を討伐した後に盗賊団が拠点に使い、依頼に応じてまた別の冒険者パーティーが殲滅した。


ゴブリンが出入りを始めたのは、ほんの数ヶ月くらい前の話である。


ここにいるゴブリンはそこまで所帯が大きい訳ではなく、まだ依頼にされるほどの被害も出ていなかった。


だからこそ俺が利用しようと考えたのだが、今の状況はいろいろと不味い状態である。


「最奥は外部とつながっている。ただ、そこは断崖絶壁とまではいかないが、足場のない崖だ。落ちたら死ぬくらいの高度は十分にある。」


「それって、窮地に陥ったってこと!?」


さすがにミオの声音に焦りが混じっていた。


「外部への開口部近くにちょっとした溝がある。そこに入れば煙にまかれることはない。」


「そこで煙がおさまるのを待つってこと?」


「そうだ。」


実際には煙がおさまって様子を見に来た相手を潰すしかない。


この洞窟の情報を得ているのであれば、溝のことも知っている可能性があった。


「相手は誰なの?」


ミオの声が低くなった。


「さあな。俺に狙われる心当たりはない。君らの祖父に毒を盛った奴らじゃないのか?」


「···もしかして、ナオさんはそれを知っていて私たちをここに連れて来たの?」


「君らが犯人の可能性もあった。」


一瞬黙ったミオがディレクの方に視線をやるのを感じた。


「あなたは俺たちのことを疑っているのか?」


「今はそうでもない。犯人が自分から行動を起こしたからな。」


そう言うと、ふたりが何とも言えない表情をしているのが煙越しにわかった。



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