第75話

先行したふたりは、遭遇したゴブリンに対して理想通りの戦いをしていた。


極力相手に発見される前に接近し、騒ぎたてる前に排除していく。


数が多いと判断すれば小石を投げて気を引き、囲まれないように分散させる策を講じていた。


洞窟の天井は低く、ディレクが主装備としている片手剣では振り上げるとつっかえてしまう。そのため、距離がある場合は刺突で、近接ではサブで所持しているナイフを操っている。


ミオに関してはもともと大型のナイフとも呼べる短い剣を二本装備しており、双剣スタイルを難なく使いこなしていた。


危なげない戦いを見せるふたりに、俺の危惧は確信へと変わりそうだ。


このふたりは命のやり取りを何度も経験している。それに、体捌きやナイフの使い方は完全ではないが俺の記憶にあるものと結びついた。


ふたりがどの時点でこの世界に来たかはわからない。出生直後や幼少期であれば家族への情が宿りそうではあるが、祖父や父親がどういった人間性を持っているかでそこは一変するだろう。こちらの世界では権力や金のあるものほど家族愛が希薄である傾向が強いのだ。


自らの立場を良くするために祖父を毒殺しようとした可能性もある。しかし、それほど単純なものとも思えなかった。


特殊部隊の技量ならターゲットは確実にしとめられそうなものだ。しかし、毒をもられた祖父は容態はともかく延命している。


では他の可能性についてはどうか。


それを立証するためにここへ連れてきた。


俺の予想では、それほど間を置かずに何らかの動きを見せるはずだ。


そして、その時が来て最悪の展開が待ち受けていることをさとった。


「何か、焦げ臭くないですか?」


風上にいたディルクが真っ先に気づいた。


嗅ぎなれた臭いを鼻腔が感じる。


「ふたりとも布か何かで口と鼻を覆うんだ。」


洞窟の入口でキョウチクトウを燃やしている奴がいるようだ。


キョウチクトウには強力な毒成分があり、燃やして出た煙にもそれは含まれる。


『他人のことは言えないが、なかなか過激なことをしてくれる。』


洞窟というものはそれなりに通気性がある。岩の裂け目や土砂の隙間が少しでもあれば排気、もしくは吸気の役割を果たす。


今潜っているような細長い通路が続く洞窟では、しっかりとした空気の流れが存在する。入口の大半を塞ぎ中で火を燃やせば、煙は自ずと奥に巡ってくるのである。


俺は身振りで奥に行くようふたりに指示を出した。


キョウチクトウを燃やした相手には心当たりがあったが、今はそちらに向かうリスクよりも煙から解放されることを選ぶことにする。


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