第73話
「クランですか。商業でいうファームみたいなものですよね?」
ファームというのは商会のことをいう。
商会の会頭を祖父に持つだけあって、そのあたりは詳しいようだ。
「確かに似たようなものだ。規模が大きくなればクラン限定の依頼が入ったり、冒険者ギルドを介さずに素材などの売買を独自に行うこともできる。その代わり、癒着や独断専行など冒険者ギルドとしては看過できない事件が起こることもあるみたいだけどな。」
「ずっと不思議に思っていたのですが、ナオさんはAランクの割にあまり名前が知られていないですよね?盗賊団ばかりを潰してきたのなら、ソロでももっと名前が売れていそうな気もしますが。」
「兄さん、言い方が失礼よ。」
何気ない質問のようだったが、意図的なものを感じた。
兄をたしなめたミオの目も、鋭さを増したように思える。
「盗賊団を相手取るのに名を馳せると命を狙われるからな。それに、俺はこちらに来てからまだ日が浅い。ギルド職員にもそれほど認知されていない。」
「その割にはギルドマスターからの信頼は厚そうですよね。」
「それは私もそう思った。もしかして···」
ミオが余計な勘ぐりを見せるので、言葉に被せて否定しておいた。
「以前のギルドで担当だったからな。」
「ああ、なるほど。」
「本当にそれだけですか?」
あっさりと納得したディルクに対して、ミオは粘っこい質問をしてくる。
女性として人の色恋沙汰が気になるのだろうか。
一度猜疑心を持った俺には、何らかの情報を得ようとする粘着質なものを感じさせた。
「恋愛系の読み物が好きなのか?」
「女性はみんなそうですよ。」
屈託のない笑顔を見せられてしまった。
どうも女性の思考は読みにくい。
いや、俺が唐変木なのだろうか。
「あまり詮索はするな。度を越すと失礼だろう。」
ディルクがミオをいさめた。
これも演技なのか?
深入りし過ぎて警戒されるのを恐れたか。
「あ···」
無駄話をしている間に、洞窟に向かって移動する小人の集団を発見した。
入口からは死角となり動線から外れた位置にいるため、こちらの存在には気づかれていない。
「あれが今回のターゲットだ。」
小人たちはファンタジーの定番である魔物だった。
醜悪な外見と残虐性で嫌われているゴブリンだ。
個々の力はそれほど強くない。ただし、数で攻めてくるため、囲まれたら非常に危険な魔物ではあった。
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