第50話

「ギルドマスターはあなたの正体を知っているの?」


「いや、話しても頭がおかしい奴だと思われるだろう。」


「ふーん、親密そうだから意外と信じてくれる気がするけど。」


ミューフは先ほどまでと比べて随分と距離を縮めてきている。多少は打ち解けたことと、アドルに俺が自分と同種の人間だとでも言われたのだろう。


俺はそれほど諜報に長けている訳ではない。任務内容によりけりだが、簡単なものはそつなくこなしていた。しかし、やはりこういったものには適性があるのだ。


アドルはそういったものを敏感に嗅ぎ分け、俺がどのタイプの人間か理解していたようである。


何にしても、このふたりとは敵対するつもりはない。彼らにとっても同志メイトとして見極めたかったのではないかとは思う。


「それで、今後について何か要望があるのか?」


「そうね。可能ならクランでも作って欲しいところだけれど。」


専従者として傍で活動するのかと思っていたが、どうやら違うらしい。


「クランねぇ。同志メイトの活動拠点にでもするつもりか?」


「ええ、必要でしょう?」


俺はまだこのふたりを完全に信頼しているわけではない。他の同志メイトと呼ばれている同郷・・の者についても同様だ。


そもそもが知り合いでもなく、なんの繋がりもない者同士なのである。思想も思考もどこまで共通するものがあるかわからない。


共通しているのは境遇と目的についてだけだ。


しかも、その目的についてはそれぞれがどこまで真摯に受け止めているかわからないのである。




「そう。あの双子はこの街を離れたのね。」


カレンは話を聞いて少し残念そうにしていた。


貴族の放蕩息子たちの顛末を報告したついでに、双子の状況も伝えておいたのだ。


「あのふたりにとって、この街が暮らしやすいかどうかの判断は本人たちにしかできないからな。説得したところでいつかまた出て行くと言うかもしれない。」


「そうね。」


ミューフたちは南へ向かい、他の同志メイトを探すのだそうだ。


ある程度の人数と接触が取れたら、具体的な指針を共有するのかもしれない。


カレンは専従者として彼らを囲いこめなかったことが残念だと考えているようだが、個人的にはこれで良かったと思っている。


共通の目的を持っていたとして、同じように歩めないこともありうるのだ。


「私は明日休みを取ろうと思ってるのだけど。」


「そうか。受付嬢があまり休まないから心配していたぞ。」


「言うことはそれだけ?」


「美味い飯屋を期待してる。」


「あとは?」


「なんだ?朝まで寝かせないぞと言わせたいのか?」


「違うの?」


「違わないな。」


俺はカレンの傍に近寄り、頬に手を添えた。


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