第49話

「そちらはまったく情報がないのよ。」


こちらのイギリスにあたる地域と同じということか。


「いちおう、広域では負の感情の測定を行ったそうよ。ただ、この地図よりも狭い範囲でしか有効ではないみたいなの。」


それについては仕方がないだろう。


盟主とやらが絡んでいる以上、日本にいた俺をこの地域に送り込んだのはそういうことなのかもしれない。


つまり、負の感情を抑制すべき場所はこの辺りに集約されていると。


G8以外にもこちらへの召喚を実施している国々があるかもしれないが、考え出すとキリがなかった。


元の世界の歴史を思い浮かべても、もっと人口が多い地域もあるはずだ。ただ、そちらの情報はなく、調べる手段もない。


ならばできる範囲で実現可能なことをするべきだろう。


「それで、俺が同志メイトだと見極められたらどうするつもりだった?」


「とりあえずでも協力体制を構築したいの。具体的な組織としての動きではないわ。でも、お互いに情報は必要でしょう?」


「バルドル人には巫女がいると言っていたな。もしかして、これまでにも負の感情に関する測定や抑止で動いていたのは彼らなのか?」


「···そこはまだ話せない。」


「わかった。」


「他に聞きたいことは?」


ミューフにしてみれば話せることとそうでないことの線引きがあるのだろう。ただ、こちらの疑問などを解消しようというところを見る限り、敵対的であったり上から支配しようと考えていないことは感じられた。


「同じ世界から来た他の奴との面識はあるのか?」


「あるわ。ただ、あなたを含めてまだふたりだけよ。その人はここより北の方であなたと似たようなことをしている。他はほとんどが冒険者になっていると思われるのだけれど、その場合はひとつの都市に留まることは少ないから、見つけにくいというのが進捗が悪い理由の一点。もうひとつは私たちがバルドル人だからなかなか情報が得られない。」


北というと、地図でいえばパリにあたる周辺だろうか。そこで俺と似たようなことをしているのならば、あまり顔を合わせることもないだろう。


ふたりは巫女の測定によってアタリをつけ、同志メイトを探しているようだ。


「まだ面識のない奴らが俺のこちらの職務上で敵に回っている可能性は?」


「ないとは言いきれないわ。」


「わかった。その場合は迷わず消すぞ。」


元軍人ならば戦闘力、特に対人戦には秀でているだろう。


国の軍に属していたからといって、全員が清廉潔白とは限らない。場合によっては相性が最悪の敵となる可能性もあるのだ。


「ええ、それは仕方がないことだわ。」


ミューフは小さく息を吐きながらそう言った。


おそらく彼女も同じことを想定しているのだろう。


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