災厄の梟

@lusifu579

夢の始まり

第1話 夢

「間…間藤…一佐…間…一…間藤一佐!」


「すまない、どのくらい気を失っていた?」


「良かった、五分です! 連中、自分達の基地に核を仕込んでいたみたいです。敵の首脳部も死亡が確認されて至急撤収するように司令部から指示が出ています!」


「了解した、全隊に撤収の指示を。しかし、自国を核で焼くとはやはりアカの考えることはわからん」


「同感です」


 あぁ、また夢か・・・・・・・。この間藤と呼ばれた男に乗り移ったように人生を体験させられる。しかも、俺の意思で指一本も動かすことは出来たことは無い。ただただ見ているだけだ。


 農家の次男に産まれ、農業高校から軍大学へ進学。戦時特例で昇進して、一佐というそこそこ偉い立場になった。今は特殊機甲歩兵師団の前線指揮官を任されているようだな。


 前回の夢では特殊装備の試験運用していたがまた、昇進しているのか。あれだけ昇進を嫌がっていたくせに。しかし、この夢を見始めて十年も経つがいつ終わるのだろうか。


「アウル01から各機へアウルリーダーは健在。撤収地点へ移動開始せよ」


 無線から悲鳴のような歓声が聞こえてくる。部下からの信用が厚いようだ。まぁ、昔から仲間の為に行動していた男だったからな。


「アウルリーダーよりあきつ丸! 攻撃を受けている! 敵は親衛隊3機! 部隊の収容状態は!?」


「残りは隊長と副隊長のみです! 既に他の隊員は回収済みです!」


「了解した!」


 視界が揺らいだと思ったら場面が切り替わった。夢の中ではよくあることだが学問や戦術、特殊装備などの所では一切切り替わらずに強制学習させられ地獄だった。


 アカの親衛隊か。特殊装備の実地運用試験時からの因縁だな。いや、もっと前からか。あちらの隊長とは歩兵時代に雪山で一緒に遭難したんだったな。そこから数えると既に間藤からしたら七年の付き合いだな。


 既に他の部隊が投降しているのにもかからわず、この親衛隊が間藤を追撃してるのは完全な私怨だな。


 遭難時に間藤がお人好しと人誑しを発動させ、アカの隊長を助けた挙げ句に惚れさせてた。けど、二年前にアウル01こと副隊長と婚約式を挙げているところを潜入調査していたアカの隊長が見ちまったんだよな。


 可愛さ余って憎さ百倍ってやつだな。


「間藤…お前だけは絶対に赦さない!」


「ヴェラ! 戦争は終わった! 大人しく投降してくれ!」


「これは政府から命じられた戦いでは無い! 私の闘いだァァァ!」


 アウル01が間藤を援護しようとするが他の親衛隊機に邪魔される。一機は潰せたが二機目はほぼ相討ちだな。戦闘継続不可。


「アウル01! 撤収地点へ行け!」


「貴方を置いては行けません!」


「紫音、これは命令だ!」


「間藤ォォォオ、私だけを見ろ!」


 恐すぎる。間藤もさ、オープンチャンネルで話すなよ。ヴェラさん、更にブチギレてるやん。


「コマンダーオーダー アウル01の強制帰還を実行せよ」


【アウルリーダー 声紋認証クリア 実行します】


「そんな…私は…」


「………」


 うわぁ。特殊装備は軍事機密の塊だから、指揮官機には他の機体へ強制的な命令が出来るコードがあるけど、これを今使うのかよ。間藤ヤバいわ。


「アウルリーダーよりあきつ丸へ! アウル01を回収後、即時撤収せよ! 俺はここでヴェラを食い止める」


「………あきつ丸……了解」


「ありがとう。紫音、愛してる」


 今度はちゃんとクローズチャンネルを使っているな。しかし、敵は既に降伏しているのに撤収しなければならないだろうか。


「ヴェラ。これ以上ここで闘うのではあれば、二人共核に焼かれて死ぬぞ」


「良いじゃない。あの女にはいろんなものを譲ってしまったけど、間藤との最後だけは私のものよ」


 流石に最新兵器の歩兵戦闘用特殊強化外骨格でも核には耐えきれんか。百年前に間藤の祖国に核兵器が落とされた時は何十万人が亡くなり、生き残っても後遺症に苦しんでいたな。


「そんなに嬉しいのか」


「えぇ、愛する人と最後を共に出来るのですから」


 あきつ丸が戦域を離脱したことを伝えるメッセージが液晶に映されているがヴェラの攻撃が更に苛烈になり、見る暇も無い。


 間藤の余裕も段々と無くなる。私怨に溺れても精鋭の中の精鋭で構成された親衛隊の隊長。実力は伊達ではない。


「あの雪山で私を助けず、殺してくれていたら! 私はこんな想いをすることも無かったのに!」


「敵同士だが助け合って生き残ることに君も同意しただろ!」


「えぇ、したわよ! けど、もう全てを恨みに変えて、貴男にぶつけるしか無いのよ!」


「この頑固者!」


「貴男が言うか! この朴念仁!」


 互いの剣が機体を切り裂く。間藤は口から血を吐きながら、自爆コマンドを作動させ、歩兵戦闘用特殊強化外骨格を降りた。


 ヴェラの機体は電気系統がイカれたのか火花が散っている。


「ヴェラ、生きているか」


「……虫の息以下ですが、生きておりますわ」


「俺も同じだ」


 ヴェラは綺麗な金髪ロングで碧眼のモデル体型で100人中99人は男女問わず振り向くだろう。しかし、振り向かないのはこの男、間藤である。


 紫音は黒髪のボブでどちらかというと貧相である。俺の好みなら、断然ヴェラだ。


「最後だから聞いてくださいな」


「あぁ」


「間藤、貴男を愛してます」


「すまない」


「女の告白を断るのは万死に値しますわ」


 ヴェラの手に握られたスイッチが押され、間藤とヴェラは爆風に包まれた。


 そろそろ、夢が覚めるようだ。俺を呼ぶ声が聞こえる。


「お…おに…お兄様! 起きて下さい!」


「起きるよ、ミラ」


「お兄様はそう言って二度寝しますわ! 今日は皆でご飯を食べる日です! お母様に怒られます!」


「そうだった。ミラ、ありがとう」


 これが俺の現実。カラミタ男爵嫡男アウル・カラミタ。この世界を間藤の言葉で表現するなら、中世ファンタジーってやつかな。


 ヤバいな。夢の中で孤独過ぎて、何かと説明する癖が付いてしまった。


「お母様が後10分以内に来なければ、お仕置きとのことです…」


「はい、至急準備します」


 先ずは家のラスボスに会いに行かなければならない……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る