不天退帰

七星北斗(化物)

1.何のために?

 理が違えば間違いか?それは結局、人の視点でしかない。時代が変われば、正しさは変わる。


 人間は攻撃する際、正義を振りかざす。しかしその正義は、単なる暴悪ではないのか?


「人を殺せば悪か?しかし君は、死ぬまでにどれだけの命を食べるのだろうな。神は思う、些事であると。人間が殺す蚊や蟻と、人の命の重みは変わらん」


 人間の命なぞ、軽いのだ。


 強き者が正しい、それが支配者というもの。


「人間が絶対的に他の命よりも価値が高いという考えは、神からすれば、すでに理論は崩壊している。会話の無駄だ」


 神が、人間を平等に助ける?何故、助けねばならん。神はなにもしない、人間の言葉を借りれば、我々は単なる隣人なのだから。


「私は待っているぞ。お前がくるのを」


 赤雛学園一年、小田応和おだこたわは、中学で全生徒を下僕にした実績を持つ。


 彼の夢は、全国制覇。関東から引っ越したばかりで、右も左もわからないのだが、何事もチャレンジ。


 この学園を支配し、次は九州、全国と考えている。


 赤雛学園は、福岡の飛竜と呼ばれる高橋七伎を中心とした軍なのだ。


 そうだな。まずは三年の教室に行き、順番にシメるとするか。


 階段を上がり、三のAクラスでドアを勢いよく開き、開口一番にこう言った。


「おい、このクラスで一番強い奴出てこいよ。まとめてでもOKだぜ。喧嘩しようぜ」


「何だコイツ、ここがどこだかわかってないのか?」


「馬鹿じゃね、一年が調子乗るな」


 呆れた表情をした木偶の坊ども、歳ばっかり無駄にくってやがる。


「ビビってやがんな」


 応和の更なる挑発に、教室内がピリピリとした空気になる。


「ここは、僕に任せてください」


 眼鏡のひょろひょろとした奴、弱そうだ。


「おお、秋月やってやれ」


 その戦いは、一瞬で幕を閉じた。何だコイツ、弱すぎる。


「やっぱり秋月じゃ無理か」


「あら?先を越されちゃった」


 殺伐とした混沌の中、一輪の花が咲いた。黒髪の美しい戦人がそこに現れたのだ。


「また一年かよ」


「私は、立花小柚。この学園で頂点を取るものだ」


「最近の一年は、元気でいいね」


 高身長で茶髪の軽薄そうな男子、その男の声が教室を黙らせた。


「佐伯さん、一年をわからせてやってください」


「いいよ。ちょっとだけ遊んでみよっか」


 雰囲気でわかる。コイツただものじゃない。


「少しはできるようね」


「おい、女。俺の相手だ!どけっ」


「誰よアンタ。アンタこそ邪魔よ」


「仲良しさんだね。二人同時に相手してやるよ。二人ともベッドはお好き?」


「ごちゃごちゃうるせー」


「言葉数の多い男は嫌いでね」


 立花の足払いを後ろに飛んで躱す佐伯、俺は背後からクリンチして動きを封じ、そのまま腕の力だけで骨を砕こうとした。


 しかし何だこの筋肉は、いくら締め付けても反発する。俺の力では足りない、腕を離し距離を取る。


 ちょうどその時、立花のかかと落としが佐伯の頭に直撃した。


 スカートはふわふわと、レースの黒下着が目に入る。


「おい、スカートでかかと落としは止めろ」


「五月蝿いわね、下着何ってただの布でしょ」


 何て気のつえー女だ。


「君たちさ、喧嘩の仕方わかってないね」


 かかと落としを止め、そのまま立花の足を掴んでいた。


「嘘でしょ」


「お前こそわかってないな」


「何を言って?」


 応和の背後からの金的に、佐伯は股間押さえ悶絶した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る