第2話




 祖父との話から一月が過ぎ、木々に彩りが出始めてきた頃。セフィーは十六年間過ごしてきた故郷を離れ、中央へとたどり着いていた。

 旅路は馬車で、約二週間。セフィーは、帰ろうと思っても帰れない場所まで来たのだと、どこか寂しくも愉快な気分を味わっていた。

 セフィーがそんな感慨に浸っている中、御者が、不意に馬車を止めて、よそよそしく声を出した。


「そのー、嬢さん。荷物はこっちで運んどくから、せっかくなら街を歩いて行ってみてはどうです?」

「……?」

「ほら、ここは色々と観光スポットも多いですから。街になれるためにも……あのー、ですね……」


 御者は目を泳がせながら、必死に言葉を探していた。

 あまりにも不自然な提案に、セフィーは御者の様子を窺った。すると、御者はどうにもある方向をチラチラと見ており、その視線の先には、一人の少女がこちらを見て微笑んでいた。


(あの人……)


 セフィーは、その少女を視界に捉えた瞬間、脳内に点在していた記憶同士が線でつながった。


「……わかりました」


 御者は、セフィーの言葉を聞いて安心するようにホッと息を吐いた。

 外の様子を見てみると、どうやら、ここは待合所のようなところらしい。セフィーは、馬車から降りると、行き交う人々をしりめに大きく息を吸った。大自然に囲まれた中央では、街の中にまで草木の香りが漂っている。こんな開放的な空気を味わうのは、籠りきりだったセフィーにとって、何度味わっても感動を覚える経験だった。人は空気が変わるだけでこんなにも心地よさを感じるものなのかと、この空気を味わうたびに思うのだ。

 中央が大自然に囲まれているのは、樹木が魔力を抱擁し、大気中に魔力を充満させるという性質によるもので、魔力の研究を推進しているフェルサー教の教えの象徴とも言える。中央は、地理的にも、精神的にも、四王国の中心にある場所だといえた。


 辺境領の中でもさらに辺境の村から中央までの旅路の間で、セフィーはこの国の構造のようなものを肌で感じ取っていた。

 基本的に、国民たちの階級は、潜在魔力量に比例していた。無論それに当てはまらない人も多くいたが、階級毎の平均値で見れば、それは明らかなものとなる。

 さらに、魔力の多い人たちからは、自然の豊かさが重宝される。即ち、この国の人たちは、自然に囲まれた村落に住む人こそ、裕福な暮らしを送っているという傾向があるのだ。

 しかし、村落で豊かな暮らしを送るというのは、容易に成せることではない。貴族階級の人間は、その責務を果たすために栄えた都市で暮らすことを求められるので、そんな生活を送れるのは一部の上級国民だけだ。その生活は多くの一般国民に支えられており、彼らの上級国民に対しての印象は最悪ともいえた。それでもこの構造が成り立っているのは、魔力の多い人間を重宝せよというフェルサー教の教えと、魔力の多い人間が物理的にも経済的にも上に立っており、魔法という力が数では覆せないものであることが大きな要因だろう。

 そして、大自然に囲まれている中央に集まるのも、当然四王国の中でも上層に位置する人たちだ。四つの王国の上級国民の集まる中央では、各国の最先端の文化が集結し、そこに治安を守る教団騎士たちの様相も相まって、他のどこにもない独特な景観が出来上がっていた。


 セフィーがそんな異界のような街並みを感じていると、先ほどの少女がこちらへと近づいてきた。

 少女は、カタカタという音を奏でながら回る車輪と、それに取り付けられた奇妙な椅子の上に座っていた。それは魔導椅子と呼ばれる魔力を動力源にしている車いすのようなもので、通常の車いすに比べて自由自在に動くことができ、手や腕の代わりとなる魔導義手機能などの、多種に渡る補助機能までもが搭載されている。その代わりにかなりの魔力を消費するため、使える人が限られている。また、整備に高度な技術を要するのも難点だ。つまり、この少女はそれらを満たせる人間ということになる。

 さらに、少女はセフィーと同じ魔法学園が指定している制服を身にまとっており、学年が判別できるラインの色もセフィーと同じ青色だ。

 また、このタイミングで姿を現すというのは、偶然とは思えない。それはつまり、セフィーが今日この時間に中央へとやってくることを事前に知っていたということになるだろう。さらには、その上で、ブリンガン辺境伯が用意した馬車の御者に指図を送り、従わせることまでできている。

 これらを総合すると、この少女は、ブリンガン伯爵の娘というのが自然な回答だろう。


 また、セフィーは少女に見覚えがあった。いつだったかまでは正確には覚えていないが、数年ほど前、店の工房から少女の姿を見たことがあったのだ。

 祖父はセフィーに店番を任せることがなかったため、通りがかりに一目見ただけだった。それでも、魔導椅子に乗り、歳不相応な目つきで祖父を見定めるように眺める姿はとても印象的で、ちらりと視線が合った時の獰猛的な少女の瞳は、セフィーの記憶に刻み込まれていた。

 いや、それだけではない。滅多に店の話をしない祖父が、珍しく少女の話を持ち出し、「お前は絶対に関わるな」と言ったことも鮮明に覚えている。当時は元より人と関わることに関心を持っていなかったので何とも思わなかったが、一体祖父は何をそんなに警戒しているのかと、そんな疑問を強く覚えた記憶がある。


 つまり、少女は、セフィーに対して興味を示しており、この状況を用意できる力があったということだ。それらを利用して、セフィーをなぜか魔法学園へと誘った、そのなぜかに該当する人物なのだろう。

 そしておそらく、祖父は、少女がブリンガン辺境伯の娘だということを知らなかったはずだ。でなければ、魔法学園への話を受け入れたはずがない。

 いや、むしろそれは、少女が意図的に仕組んだことなのかもしれない。最初からこの状況を見据えて、身分を隠して祖父に接触して────


(……なんて考えたところで、意味ないか)


 どんなに考えたところで、少女に何の目的があるのかは、祖父の隠し事も少女のことも知らないセフィーには予想すらつかない。それでも、何か面倒な目論見に巻き込まれているというのは、深く考えずともわかることだった。

 セフィーは、思考を止めて、こちらに向かって笑顔を向ける少女を見下ろした。

 そして無意識に出たため息は、少女の顔を少し歪ませた。


「初めまして、じゃないですよね?」

「ええ。久しぶり、というにはお互いを知らなさすぎるけどね」


 少女がくすりと微笑む姿を、セフィーは身動き一つせずただただ眺めていた。

 社会的な身分の差を考えると、御者を視線で操れるような少女と、セフィーとでは、明らかに少女の方が上だろう。

 それでも、ある意味では箱入り娘のような生き方をしてきたセフィーにとって、身分の差というのは、頭の中で理解しているだけの、あってないものという感覚だった。

 セフィーにとって幸いだったのは、ここが身分制度を排している中央という場所であり、当人たちが気にせずとも周囲から無礼に対する制裁を受けるような場所ではなかったことだ。でなければ、物陰から突き刺さる殺意に、刺し殺されていても文句は言えなかっただろう。


「改めて。私はフィリン・フォン・ブリンガンよ」

「セフィーです」

「ええ。まさか、こうして出会えるとは」

「そうですか」


 咄嗟に適当な返事を返したが、セフィーは、フィリンの言葉に疑問を覚えていた。


(まさか?それってどういう……)


 セフィーをこの場に呼んだのは、フィリンの意図ではなかったのだろうか。

 しかし、この場で待っていたということは、少なくともセフィーが中央に来ることは知っていたはずだ。

 どういう意味の、まさかだというのか。


「……」

「……」


 互いに様子を窺っているのか、少しの間沈黙が流れた。

 セフィーが不用意な発言を嫌って黙り込んでいると、再びフィリンの方が口を動かした。


「セフィー。貴方は、一体何の目的があって中央へ来たの?」

「何の……?」


 言葉の意味をうまく呑み込めなかったセフィーは、フィリンの言葉を繰り返した。

 何の目的などと言われても、セフィーからすれば、呼ばれたから来たというだけだ。

 だが、この発言は、フィリンにとってそうではなかったということを示している。呼びはしたが、来るとは思っていなかったということだろうか。


「そうですね、一度は来てみたかったので」


 下手に間を作ると怪しまれるかと思ったセフィーが放った当たり障りのない返答に対して、フィリンは目を細めた。


「ふぅん……はぐらかすんだ」

「……」


 今の言葉だけで、なぜはぐらかしたと断定できたのか。

 やはり、フィリンはセフィーの知らないことまで知っているのだろう。


(それよりも……)


 フィリンの知っていることはさておき、セフィーの中には、ふと湧いてきた疑問があった。

 白い民には、魔力量を測る力がある。それを意図的に使うには意識を集中させる必要があるが、無意識的にも、長時間観察することでうっすらと測ることができるのだ。

 フィリンと対峙する中で、無意識にフィリンの魔力量がなんとなく掴めてきたセフィーは、その量が想定よりも少ないことに違和感を覚えていた。

 そして、セフィーは、おそるおそる、周囲の他の人たちの魔力量も、測ってみた。


「……次はこちらからも一ついいですか?」


 本格的に質問をはぐらかされたフィリンは、少しばかり眼光を鋭くさせた。


「私の質問には答えないのに?」

「それは……」

「……はぁ。いいよ。さっきの答えに納得したわけじゃないけどね」


 釘を刺すフィリンの言葉を聞き流して、セフィーは頭の中で考えをまとめ始めた。


 魔導椅子というのは、通常使われることがない。足が悪いだけならば、歩行を補助する魔道具を用いた方が、金銭的にも魔力的にも楽だからだ。

 つまり、魔導椅子を使っているというのは、足が悪いといった話ではなく、もっと根本的な問題を抱えていることの証明でもある。それは、セフィーの知らない何かしらの疾患という可能性もあるが、フィリンの場合は、『二重祝福』と呼ばれる現象だろう。

 二重祝福というのは、その名の通り、天から与えられる『祝福』────魔法の属性を、『二重』に与えられる現象だ。

 ……というのは過去の考え方に倣った呼び方だが、現代ではその現象の理由が解明されている。


 体内にある臓器の一つに、『魔臓』というものがある。魔力には六つの構造があり、それぞれ火・水・風・地・光・闇の属性に対応している。それらの魔力を活性化させることで魔法の素になる活性化魔力となるのだが、この魔力を活性化させるのが魔臓の役割の一つだ。

 そして、魔臓は一つの魔力構造にしか対応していない。また、基本的に人間は一つの魔臓しか持たないので、一つの属性しか魔法を使うことができないというわけだ。

 これが、過去に祝福と呼ばれていたものの正体だ。つまり、二重祝福というのは、魔臓を二つ持って生まれる異常個体の通称ということになる。

 二重祝福の影響として、メリットは二つ挙げられる。一つは、魔臓を二つ持つことで、二つの属性の魔法が使えるようになることだ。そしてもう一つは、魔臓には魔力を循環させるポンプの機能も備わっているので、体内の魔力量が格段に増えることである。

 当然のことながら、その反面、デメリットもある。そもそも、魔臓は一つしか持たないことが正常なのだ。魔臓のポンプとしての力は、魔力の流れの強さに対して、その身体が耐えられる30%程度の力だといわれている。この場合の耐えられるというのは瞬間的な話であり、常時の流れの強さでいうとこの4-50%程度が限界だ。つまり、魔臓が二つあるということは、常にこの限度を超えてしまうということを意味するのだ。

 即ち、二重祝福というのは、基本的に何もしなければすぐさま死に至る。例外としては、魔力の流れに対して強靭な肉体であったり、魔臓のポンプとしての力が弱ければ、その限りではない。とはいえ、そこまで多くのイレギュラーを抱えて生まれてくることなど、滅多にない話だ。


 ただし、ここまで解明されている現代では、当然その対処法も充実している。そして、そのうちの一つが、魔導椅子というわけだ。

 二重祝福のデメリットとして、先ほどのものだけではなく、魔臓が増えることで他の身体機能が圧迫され、肉体の活動や成長を妨げるというものもある。かいつまんでいってしまえば、生活が困難になるほどに、身体能力が著しく低下するという話だ。

 魔導椅子は、この問題を解決できる。さらには、活動中には魔力を常に消費することができるので、魔力の流れをある程度体外に発散することもできるのだ。


 これらにより、セフィーは、フィリンが二重祝福であると予想していた。

 だというのに、先ほどから認識し始めてきたフィリンの身体に流れる魔力量が、想定よりも明らかに少なかったのだ。具体的には、セフィーの身体に流れる魔力量よりも、少しばかり少ないくらいだった。

 それだけならば、フィリンが二重祝福であると思ったのが勘違いだったというだけで済んだ話だ。しかし、それに伴って測ってみた周囲の人たちの魔力量を認識した時、セフィーは背筋がヒヤリとした。

 明らかに、それはもう明らかに、周囲の人たちの魔力量は、セフィーやフィリンと比べて少なかったのだ。自分は魔力量が人よりかなり少なく、セフィーくらいが普通だと言っていた祖父の魔力量よりも、明らかに少ない人しかいない。それは、ここが中央で、魔力の多いエリートが集まる場所だということを考えると、気が遠くなりそうだった。

 もっと早く、旅の途中で他の人の魔力量を測っていれば。それか、誰かときちんと会話をしていれば。無意識にでも少しくらい他人の魔力量に気づけていれば、ゆっくりと考えることもできたというのに。こんな咄嗟に気づいても、セフィーの脳ではそう簡単に処理できる話ではなかった。


 信じられない、というよりは信じたくなかったセフィーが起こした行動は、それを否定するための証明だった。


「魔導椅子を使っているのは、何かの疾患……というか、ええと……」


 うまく言葉を選べないでいるセフィーに対して、フィリンは突きつけるように言い放った。


「二重祝福。知ってる?」


 セフィーは、心がギュッと握りしめられるような錯覚を感じた。

 祖父の隠し事を、一つ、知ってしまった。知りたくもなかったことを。

 そもそも、白い民なんていうのは、得体の知れないものなのだ。特別な力を持った、どこか普通の人とは乖離した人たち。そんな祖父が隠していることなど、どうせろくなものではなく、知らないでいる方が、いいに決まっている。

 フィリンが二重祝福だというなら、それと同程度の魔力量を持つセフィーは、一体何だというのか。肉体も、至って正常だ。それが示す答えなど、セフィーは、少なくとも、一つしか知らなかった。


(そんなわけ、ない)


 それでも、それはあり得ない話だった。

 四つの王国の、王族の血筋からのみ生まれてくる、『天返り』。

『六天使』という、約三百年前にこの世界に降臨し、人々を救ったという、フェルサー教の教えにも出てくる女神の使い。そのうちの四天使の末裔と言われている四王国の王族たちは、天使の力を持って生まれてくることがあり、それこそが天返りと呼ばれる現象だった。

 白い民の歴史は、五百年を超えている。つまり、白い民の力は天使の力とは異なるものだ。そもそも、祖父は魔力量が少なかったし、厳重に管理されている王族の血筋がセフィーに流れているとはとても思えない。残りの二天使も、戦いにより命を散らしたといわれているので、彼女たちの末裔ということもないはずだ。

 だとすると、この力はいったい何なのか。

 ただ俯き震えるセフィーに対して、フィリンは困り顔を浮かべた。


「ねえ、私の話聞いてる?二重祝福、知らないの?」

「……いえ、知ってます」


 絞り出されたようなセフィーの声音に、フィリンはさらに首を傾げる。


「急にどうしたの?もしかして、私の身を案じてるの?それなら心配いらないけど。もう長い付き合いの身体だし」

「いえ、そういうわけでは」

「だよね。他の人の身体のことなんてどうでもいいよね」


 そんなフィリンの少々問題発言とも思える言葉すら、セフィーの耳を通り過ぎていった。

 それは、動揺というよりは、セフィーも他人のことなどどうでもいいと思っている節がある人間だったというだけだが。


「ていうか、そんなことが聞きたかったの?魔導椅子なんて二重祝福の人くらいしか使わないじゃない」


 それは、特に深い意図もなく出た言葉だった。

 そしてセフィーも、特に深い意図もなく、素直にその言葉に答える。


「いえ……フィリンさんが、二重祝福とは思えなくて」


 ほんの一瞬、フィリンの瞳に動揺の色が浮かんだ。

 自分の思考でいっぱいいっぱいだったセフィーがそれを見抜くことはなかったが、フィリンはセフィーの言葉に、恐怖を感じていた。


「そう?私は……」


 フィリンは、一瞬言葉を詰まらせた。


「私は、二重祝福よ。風と闇。見る?」

「いえ、いいです」


 素直に、セフィーは魔法について全く興味がなかった。

 フィリンが嘘をついていると疑っているわけでもない。元々、セフィーは最初から二重祝福だと予想していたのだ。結果的に、それを否定したくなっただけで。

 そんな予想とはずれたセフィーの反応に、フィリンは肩を落とした。


「なんなの、貴方……」

「?」

「いや、別にいいならいいけど。疑ってるんじゃないの?」

「疑ってないですよ」


 フィリンは、セフィーの意図が読めずに困惑していた。

 それでも、未だにショックで呆然とするセフィーに対して、フィリンはすぐさま頭を切り替えると、圧をかけるように詰め寄った。


「それじゃ、貴方の質問には答えたってことで、先ほどの質問に改めて答えてもらおうかな」

「えー……」


 ただでさえ頭がいっぱいいっぱいのセフィーは、露骨に嫌そうな顔を浮かべた。というよりは、素直に嫌そうな顔を浮かべることしかできなった。

 そんな自分の失礼な反応に、セフィーはようやく冷静さを取り戻し始めた。


「なんて、冗談だけど。選択肢を二つあげるわ」

「はあ」


 少し余裕が出てきたセフィーは、ようやくフィリンの様子が変化していることに気がついた。

 最初よりも、少しだけテンション高い……というよりは、気を張っているというべきだろうか。この感じは、祖父が何かを隠そうとしているときの雰囲気に似ていた。


「今から私に街を案内されるか、先ほどの質問に正直に答えるか、どちらか選びなさい」


 セフィーは、あえて再び嫌そうな顔をした。


「えー……」

「何その顔」


 フィリンはムッとした表情を浮かべた。

 そんなフィリンの顔をじっと見つめるセフィーに、フィリンはさらに口をとがらせた。


「何?」

「いえ」


 出会って間もないが、セフィーはフィリンに対してどこか余裕のある人だという印象を抱いていた。こちらを推し量るような素振りを見せはすれど、自分の隙は見せないタイプのように見えていたのだ。

 セフィーは、そんなフィリンが少しばかり怒りをあらわにしたのが、どこかおかしく感じていた。

 しかし、よく考えてみれば、余裕のある人という評価が勘違いだったというだけかもしれない。


「もうさ、どうせここに来た目的を話す気はないんでしょ?そんなに私と街を回るのは嫌なの?」


 まだるっこしいのを嫌ったのか、フィリンは大胆に話を切り出した。


「まあ……気が合わなそうだし」


 本音と共に丁寧語がするりと抜けたセフィーだったが、フィリンは全く気にする様子もなく、むしろにやりと口角を上げた。


「そう?私はそこそこ合うと思うけど」

「えー」

「それじゃ、どっちが正しいか確かめるために、街でも回ろっか」

「……」


 とてつもない言葉の剛速球に、セフィーは思わず口を開けたまま固まってしまった。

 フィリンと関わるのは面倒事の香りしかしないが、もはや断る方が面倒かもしれない。そう判断したセフィーは、諦めの息を吐いた。


「はーい」

「何その返事」


 クスリと笑う。


「本屋行こ」

「本屋?いいけど……」


 何か言いたげなフィリンを置いて、一人で歩き出すセフィー。

 フィリンは突然態度を変えたセフィーに戸惑いながら、慌ててセフィーの後を追い始めた。

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白霧 @YA07

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