第三章 六

 車内を離れて、烏堂は外を佐竹と歩いていた。

 近くには、交通量の激しい国道が通っている。ここにいても、車の走行音が微かに聞こえていた。

 烏堂が、ふいに口を開いた。

「少し聞きたいことがあるんだが」

「何ですか」

 佐竹が、さっと烏堂に視線を向ける。

 烏堂は言いにくそうに、だが言葉を選びつつも言った。

「女性は、その——変質者に会ったときに、どういう行動を取るんだ。ええと、佐竹の場合は」

「わたしの場合ですか? ——とりあえず、逃げ道を探しますね。一瞬でも早く逃げて、助けを求めたいですから」

「だよなぁ」

 烏堂が腕を組んだ。同時に、天を仰ぐように顔を上に向けた。

「何です? 違う行動を取った方が良いと言うことですか」

 烏堂の言い様に、佐竹が少しだけ目を細めた。

「いや、おそらく、それで良いはずなんだが、緊急の連絡手段を考えたりはしないか」

「たとえば、緊急ブザーのひもを引っ張ったり? そんなことをすれば、相手の強い恨みをかって、何をされるかわかりませんし」

 口元に指を当て、佐竹が微かに首を傾げた。

「そうではなくて、裏でこっそりとボタンを押して連絡するような——」

「緊急の短縮ダイヤルですか? それでしたら、登録している人もいるかもしれませんね」

 佐竹の言葉に、烏堂が、はっとした表情をした。それだ、と言うように指を向ける。

 対するように、佐竹の表情はぎこちなく、わけがわからないと言ったものだった。

「短縮ダイヤルの登録? そうか、それが——」

 急いで携帯を取り出すと、烏堂は、ある人物に電話をかけ始めた。

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