霊視調査 ~マギ ルミネア編~
東西 七都
プロローグ
暗い夜道を、自分は歩いている。
目線はいつもよりもずっと低く、子どもの背丈のような目線の低さだった。
歩いていると、自分が白い着物を着ていることに気がついた。えりの合わせ目が、夏や正月に着るものとは全然違い、右前になっている。
すぐさま着直したいが、周りに人がいた。
その誰もが、同じように右前の着物を着て歩いている。
皆はどこへ向かって歩いているのか——。
彼らの視線の先を追い、暗闇の中を走って行く。
いずれも大人ばかりだったため、右へよけ、左へよけ、先を進むのに難儀した。
ようやくにして、人々がどこへ向けて歩いていたのかがわかった。
目の前に、大きな吊り橋が真っ直ぐにのびている。
現代的な橋では決してなく、昔風の、植物の頑丈なつたを頼りに板切れをいくつも合わせた橋。足を踏み外せば、真っ逆さま。すぐさま底の見えない闇にのまれてしまいそうな、薄気味悪い橋だった。
その橋に人々は足をのせ、どこに続いているかもしれない暗闇の中、橋をどんどん歩いて、一人、また一人と渡って行くのだった。
どん、と後ろの人に自分の背中がぶつかる。
後ろを見ると、それは見たこともない男性だった。
謝りもせず、彼は橋へ向け進んで行き、無言のまま、橋を渡って行く。
ぼくも——。
橋を渡りたい。その先に何があるのかを知りたい。
そう思って、一歩を進めたときだった。
橋の両脇に木が植えられている。
桜と、そして、夏みかんの木。
桜は春なのか、今を盛りと咲いている。夏みかんの木も、たわわに実をつけ、枝が重みで傾いている。
夏みかんに目を向け、一つ取ろうかと思う。
だが、手をのばしかけて思いとどまった。
木から、葉がひらり、と上から降って来る。
桜も夏みかんも、確か広葉樹のはず。
心の中で思う。今まで植物を何回も絵に描いてきたから、葉の形を何となく知っている。図鑑でよく確かめて描いていたから、間違いないはずだ。
村はずれには目立つ広葉樹を植え、境がわかりやすいようにしたと、どこかで聞いた覚えがある。
だから、誰かが、この場所にまったく別の広葉樹を植え、境としているのだ。この木たちは目印であり、吊り橋の先は村の境界から外れた場所——。
また、誰かが自分の背中にぶつかり、衝撃に、今度はすぐさま後ろを向いた。
それは、女性で、長い黒髪が印象的だった。
見上げるようにしか顔をとらえることができないが、彼女の顔は随分前にどこかで見たことがある。
その顔は、確か。
「母さん——!」
すぐさま手をのばし、母の着物の裾でもつかもうと思った。
「その橋を渡ったら、だめだ! 戻ってきて、母さん——!」
手をのばしても、大人達は自分をよけてくれない。
母の姿は、さっと人々の中にまぎれ、皆が暗闇に続く橋を渡って行く。
後にはただ、悲痛な声だけが残る。
それでも、声を上げることを止めようとは思わなかった。
「戻ってきて、母さん——!」
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