第16話 バロンの剣

 

 貴族達が嘲笑しながら去っていく。

 ――くそ。ライアス兄さんに愚痴りたい。っていっても旅に出ちゃったしなぁ。

 ああ。ライアス兄さん。僕の心の支えであり、最大の理解者である兄さんが、今ここにいてくれたら。そう思わずにはいられなかった。

 

 「なにトホホ顔してるのよ! バロン!」

 

 そんな僕の思考を断ち切るように、明るい声が響く。視線を上げると、同じクラスのセリスが、太陽のように眩しい笑顔で立っていた。

 

「いつも通り、貴族たちの嫌がらせさ……。僕の作った弁当だからいいけど、ライアス兄さんの作った弁当をこんな風にされたら、確実に斬り殺してたよ」

「物騒なこと言わないでよね。このブラコン!」

 

 セリスは、冗談めかして僕をからかう。まっすぐで、絹のように輝く金色の髪、真夏の海のような輝く紺碧の瞳。貴族の出でありながら、性格の優しいセリスは貴族や平民といった垣根がなく、誰でも平等に接する。

 

 セリスは、学生の優劣で組分けされるこの学園の、Aクラスで僕と一緒に学んでいる。

 魔力操作に長けていて、剣術にも秀でている。セリスの風を剣に纏わせる魔法剣は、実技演習でも皆に恐れられ、対戦相手を震え上がらせた。

 

 セリスがベンチに立て掛けてある剣に気付く。

 

「あら。バロン、あなた剣を新調したの?」

「そうなんだよ。ちょっと前に父さんが珍しく作業場で仕事しててさ。やっと仕事をする気になってくれたのかと喜んでたんだけど、仕事じゃなくて、僕の剣を作ってたんだ。」

「すごく、立派な剣ね。ちょっと見せて」


 僕は剣をひょいっと持ち上げ、セリスに渡す。


「っ! 重っ。なにこの重さ」

「【神の恩寵カリスマ】のおかげかな。僕にはちょうどいいんだ」

「こんなの振り回されたら、防御しても意味ないじゃない! 反則よ」

「刀身もライアス兄さんの短剣と同じ色の輝きだし。お気に入りさ」


 鞘から剣を抜き、青みがかった刀身をセリスに見せつける。

 

「ちょっと! これミスリルじゃない。あんたの家、実はお金持ちなの?」


 父さんがどこでミスリルを手に入れたのか。もしかしたら本当は僕の家、金持ちだったのか?

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