普通のエロゲーの世界に転生したと思ったのに

蜂谷

1週目

第1話

 目が覚めると知らない天井だった。布団から起き上がると完全に知らない部屋、どこだここは?


「確か仕事が終わって家に帰って……あれ? どうしたっけ」


 必死に寝る前の記憶を思い出そうとするが何も思い出せない。俺は……俺は誰だ? 名前も思い出せない。仕事も何してた? あれ寝ぼけてただけか?


雄介ゆうすけー、遅刻するわよー」


 部屋の外から誰かを呼ぶ声が聞こえる。


 俺か? 俺はもう一度部屋を見渡す。壁には制服が吊るされている、恐らく学校の制服だろう。学習机があるが机の棚に並んでいる教科書はどうやら数Ⅰだ、ということは高校生なんだろう。正直何が何だか分からないが、とりあえずここで生きていくなら今まで通りの生活を送らなければいけないだろう。


 俺はベットから起き上がり来ている寝間着から制服に着替える。うん、なんかしっくりくる気がする。しかし何かを思い出すようなことはない。


 俺は部屋から出る。部屋は突き当りにあるようで通路は扉からまっすぐ続いていた。通路の両手には扉が一つずつあった。


「下から音がするな」


 先ほどの声が下のほうか聞こえたのでここが上階であることは予想はついていたので先に見える階段を降りて音のする方へと向かう。階段を降りると目の前には玄関があるが今外に出るという選択肢はない。俺は反対側の扉が開いている部屋に向かう。中に入ると台所に若い女性が料理をしていた。


「あ、雄介おはよう」


「おはよう、ございます?」


「なんで疑問形? というか敬語って」


 ふふふと笑いながら女性はご飯をよそっている。キッチンとリビングが一緒になった部屋のテーブルに味噌汁と鮭の焼き魚、納豆ときんぴらごぼうが用意されていた。そして今しがたよそったご飯を女性が置いて朝食の配膳が完了した。


「はい、早く食べちゃいなさいよ。あおいちゃんが来る前にね」


「葵? う、うん」


 また知らない名前が出てきた。姉妹か? というか俺はあなたの名前すら知らないんだが? この流れなら母親なんだろうけどそれにしてはちょっと若すぎる。高校生の息子がいるなら30代後半だろうがどう見ても20代にしか見えない。

 義母か? 家政婦か? 年の離れた姉か? 従妹のお姉さんか? 答えは出ないし急に聞くのもなんか変だからとりあえず飯を食おう。


 席に座り鮭を口に運ぶ。


「……うまっ」


 何か知らんけどこんなおいしい朝食を食べたのは久しぶりな気がする。毎朝菓子パン一つかじって仕事に向かってたな。いやどうでもいいことは覚えてるな、もっと楽しい記憶ないのかよ。


 ピンポーン


 俺が感動しながら味噌汁を飲んでいるとインターホンが鳴った。母(仮)が「はーい」と言いながら玄関へと向かっていった。俺は残りの朝食を口にはこぶ。部屋の外からは人の声が聞こえてくる。


「愛子さん、おはようございます。雄介いますか?」


「葵ちゃんおはよう、雄介なら今ご飯食べてるから上がって待ってて」


「はい、おじゃましまーす」


 廊下を歩く音がこちらに近づいてくる。俺はまた知らない人が来ることに緊張しながらもご飯を食べ終えて相手の登場を待つ。こんな朝から来るということは近所の人か? もしかして彼女だったりするのかも。期待に心が少し踊った。


「あ、おはよ~」


「お、おう」


 そこにいたのは美少女だった。可愛い制服に身を包んだ女の子、髪の毛は栗色で肩まで伸びた髪は艶があり、胸はないけどスレンダーと言えるスタイルは決して不健康な細さではなく、スカートから伸びる足はちょうどいい肉感があった。


「なに、じろじろみて。なんかついてた?」


「いや、きれいだなって」


 は? 何言ってんだ俺。なんかするっと口に出ちゃったけど初対面で言うことじゃないだろ。いや初対面なのは俺だけで今まで会ってただろうが、俺の体は。


 失言だったかなと思ったけど、葵と言われていた少女は少し顔を赤らめてていた。


「ど、どうしたの急に。えへへ、ありがと」


 満更でもなさそうだ。雄介と葵の関係はよさそうだな。これは収穫だった。こんな可愛い子と良好な関係を築けているというのは朗報だ。


「ほら、朝からいちゃついてないで。遅刻するわよ」


 母(仮)の愛子からそう言われて俺らは少し急いだ。歯を磨いて愛子にいってきますと挨拶をして家を出る。学校に行く道は分からないので葵と一緒に向かう。うーん助かる、何とかボロが出ないように生活しないとな。


「それで雄介、この前のこと考えてくれた?」


 唐突に葵に話を振られた。この前と言われても俺にはさっぱりなんだが、とりあえず話を合わせておけばいいだろう。


「この前ってなんだっけ」


「もう~、いつものやつを僕が攻めてもいいかって話だよ」


「いつものやつって?」


「ここで言わせる気!? ……あれだよ、あれ。うーもういいでしょ?」


 ぷんぷんと怒る顔も可愛いとか反則か? こういうのを魔性の女というのだろう。内容は分からんがとりあえず頷いておこう。


「ああ、分かったよ。今度でいいか?」


「いいの? ありがと。次の機会にね」


 安請け合いしちゃったけどこれ選択間違いとかないよな? ……ま、いいか。可愛いからヨシ!


 俺たちは他愛ない話をしながら通学路を歩いた。次第に同じ制服を来た子供達が増えてきた。皆普通かそれ以上の顔をしていた。不細工が一人もいない。ずいぶん顔面偏差値の高いところだな。それにしても男が少ない、これはもしかして……。


 俺の予想は半分的中した。


 葵とクラスは別だったので途中で別れたが何とか自分の下駄箱を見つけ自分の教室へと向かう。そして朝のホームルームが始まる。そして周囲を見渡すと一面に女子、女子、女子。いや数人男子がいる。


 恐らくだが女子高が数年前に共学になったってところだろう。

 学校で俺だけが男だと思ったんだけどな。なんでそんなこと思ったんだろうか。


 しかし女子が多い。そして皆可愛い。これは楽しい学校生活が送れそうだ。ありがとう雄介、お前のことは忘れないぞ。

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