星海ノ巫女・宵明星夜

FreeCell

第1話

「痛い…痛い痛い痛いっ!痛いの!痛いの!?なんで!?なんで誰も分かってくれないのっ!?!?」



 とある国の地下


『星海』さえも見えぬ地下の牢獄


 そこに、今代の星海ノ巫女はいた


 小さな蝋燭の灯り


 敷かれた上等な畳


 ふかふかの座布団


 だがその上に座り、もがき苦しむ少女の姿があった



「はっ…はっ…っ!」



 深い青と黒の髪


 アメジストのように輝く瞳


 日焼けのない真っ白な肌に、夜空に浮かぶ無数の星の浮かんだような模様が浮かんでいる


 この模様こそが、星海ノ巫女の証拠だ


 だが…



「痛いっ…痛いっ…あぁ…あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」



 苦しい


 苦しい苦しい


 苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい



 そんな感情ばかりが少女を襲っていた




 少女は宵明よいあけ星夜せいやという


『星海』を宿した星夜は、巫女としての仕事を任された


 両親や、唯一の姉に褒められ、喜ばれた


 務めもしっかりと果たせばまた褒められ、喜ぶ


 それを見る星夜も嬉しくて、より一層頑張ろうと思えた


 最初は順調だった


『星海』に祈りをささげ、平和を願う


 面会にきた人々に『星海』の祝福をささげた


 人々が笑顔になる


 それだけで星夜は嬉しくて、明日も頑張ろうと思えた


 だが、12才の誕生日


 いつものように『星海』に祈りを捧げている最中だった


 突如星夜の体を高熱が襲い掛かり、追い打ちをかけるように激しい痛みが駆け巡ったのだ


 灼熱のような体温と針を刺すような痛み


 それが全て体に刻まれる『星海』の模様から広がっていることが理解できた



(なんでっ!?『星海』は…『星海』は私たちを守ってくれるものじゃないの?!それとも…これが神からの試練?!いや、そんなはずない!だって…神様は…神様は…)



「っ————————!?!?!?!」



 言葉にならない悲痛な叫びが村中に響き渡った


 もがき苦しむ星夜にはもう周りの声も音も聞こえず、地面に倒れて痛みを叫ぶことしかできなかった


 そんな症状がずっと続き、村を回ることができなくなった


 つい最近までは社にいたのだが、その悲痛な叫び声が響くためと長老たちに地下に連れて行かれてしまった


 痛い、痛い、痛い!


 そう叫んでも誰も信じてくれやしなかった


 度々痛みが和らぐ時間帯に祈りを捧げ、また痛みが襲い苦しむ


 そんな生活が当たり前になってしまった




 今日も痛みが襲ってくる


 ただ、最近になって痛みが和らぐ時間帯が一定になってきた


 痛みが和らぐのは寝ている時間、そして11:00〜13:00の間だけ


 それ以外の時間は基本的に痛みと戦っている状態だ


 だから、11:00〜13:00の間に祈りを捧げるようにしている


 残りの時間はというと…



「あ、星夜。今日もお勤めご苦労様。疲れたでしょ。あまーいお菓子とジュースを持ってきたよ」



 唯一の姉との大切な時間のなる



「みて、大学芋だんご。みたらし団子見たいだけど美味しいんだよ〜どう?食欲はある?」


「うん!あるよ!ありがとう、お姉ちゃん」


「うんうんうん!いっぱーい食べてね!いっぱい作ってきたから、ほら!」



 とデカめの風呂敷をドーンと目の前においてくれる

 その中身は全てだんごだ


 星夜の6つ上の姉、あかり

 いつも笑顔で、何があっても毎日ここへ来てくれる



「ねぇ、星夜。今日も痛い?」


「うん、痛いよ。それに…最近なんだか体の模様が広がってきている気がするの。ほら」



 そう言って右手の服をめくった

 つい最近までは肘あたりまでしかなかった模様が肘を越し、肩に向かってきていた

 なんなら顔の模様だってそうだった

 もう右目が模様に覆われて、どんどん左目に向かってきている



「…どうしてかしら。今までの巫女達はこんなことなってなかったらしいのに…どうして星夜だけ…」


「あ、でもね、模様が広がってくると、少し、痛みが和らいで来るんだよ。私は嬉しいな」


「うーん…どうなんだろうね…」



 お互いに首を傾げて、少ししてクスッと笑い合った


 だが、そんな姉妹の空間を壊す如く、長老たちがやってきたのだ



「お勤めご苦労だな。苦痛を訴えるのを辞める気にはなったか?」



 心のない、冷たく重い声


 それに星はいつもの様にいうのだ



「長老様。星夜は本当に苦しんでいるんです。痛みであそこまでの涙と叫びを、この子が出来ると思うのですか?みてください。痛みに耐えようと自分の手まで痛めて…」


「演技なんぞ子供でもできるだろう。星、お前も良い加減この子の味方をするのをやめたらどうだ。『星海』が与えてくださった力が苦痛だと、神が間違っているとでも言いたいのか」


「ですが、明らかに歴代の巫女様方とは違います。『星海』の模様が広がっていくなんて聞いたこともありません!」


「なら、それほど星夜が『星海』と神々から認められているのだろう。なのにそれが苦痛とは…」



 そう言って、長老はカァンッ!と持っていた杖を地面に叩きつけ、星夜を睨みつけた



「『星海』とは、神が我々に下さった特別なものだ。お前の体に刻まれたそれこそ、誰もが求める神からの贈り物なのだ。なのにお前はその苦痛とやらを『星海』のせいというのか」


「ち、違います。確かに模様のところから痛みますが、でも、この痛みは『星海』で…」


「黙れ!お前は嘘つきだ。痛みというのも結局は嘘だろう。なぜお前の様な奴が巫女となったのか…」


「あの、話を……」


「次の星海ノ巫女が現れるまでの穴埋めだ。無駄に力だけは強いからな…一生そこから出られると思うなよ。星。いい加減こいつの相手をするのはよせ。いくぞ」



 ぐいっと手を捕まれ、星は引っ張られてしまう

 だがそれを引き離し、長老を睨みつける



「私は星夜の姉です。私は妹を信じています。というより、1番失礼で、神々を信じていないのは長老様ではないのですか?」


「なに?」


「そうでしょう?星海ノ巫女は『星海』と神々が認めた人物です。星海ノ巫女を否定するということは神々を否定すると同じことです。それが…1番失礼なのではないでしょうか」


「この小娘…言わせておけばっ…!」


「あら、その杖で私を殴る気ですか?ですがお忘れなき様。私は強いですよ?」


「くそっ…」



 そう吐き捨ててどこかに行ってしまった


 星はほっとため息をして星夜の方を振り返り、格子越しに頭を優しく撫で、ふんわりと笑ってくれる



「ごめんね。脅しちゃったから、早く出ないとお父さんとお母さんが来ちゃうや。早いけど、もう出るね。大丈夫。明日も来るよ」


「うん…ごめんね、ちゃんと、言えなくって…」


「ううん。大丈夫。ほら、いつも通り、約束しよ」



 そうして2人は小指を重ねる


 にっこり笑い合い、星はスカートのポケットから小さな巾着を出し、その中から一粒の金平糖をだす



「ほら、あなたが好きな金平糖よ」



 口に一粒入れて、ほんのりと甘さが溶けていく


 パァッと明るくなる星夜を見って、星は安心して立ち上がり、またね、と手を振って地下から出て行ってしまった


 でも、寂しくなんてなかった


 明日にまた会えるから


 そう、星夜は信じているから


 約束、したから

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