緩やかで、穏やかな
阿良々木与太
プロローグ
水の音がしている。けれど指先に触れるそれはぬるくて、心地よい冷たさを望んでいた私は落胆した。腕を引っ込めることすらだるく、ただ私の手を介して湯が流れていくのを感じる。やがて水の落ちる音が止まり、私の腕はほとんど湯に浸かっていた。皮膚と水の境界が曖昧になる。腕は想像の中で、水面の波を感じている。実際私の腕を濡らしている湯は、揺れてなんかいない。
水に触れていたかった。本当は、冷たい海の底で眠りたい。けれど私は、人間は、そんなことをすれば死んでしまう。だからただじっと湯で手をふやかしながら、耳の奥で波の音を聞いていた。
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