第51話


 広々とした廊下には豪華な絨毯が敷かれ、壁には王家の紋章が煌めく。大理石の床は冷たく、足音が響き渡るたびに城内の静寂を破る。高い天井からは壮大なシャンデリアが垂れ下がり、その光が煌びやかな装飾品を照らしている。

 そんな美しい様子とは裏腹に、ラフォーン王国の城内は、異様な緊張感に包まれていた。


 迷宮の深部から帰還した彼らの顔を見れば、その理由は簡単にわかる。

 Eランク迷宮の攻略に、勇者の精鋭部隊が敗北したからだ。

 今回、異世界から召喚された勇者六人のみで、Eランク迷宮に挑戦させた。これまで、騎士たちによるレベリングによって、勇者たちのレベルは10を超えている。


 日々の基礎訓練も行っていて、勇者たちの基本スペックの高さからすでにEランク迷宮は攻略できると判断した王女アイナだったが、結果は散々だった。

 勇者六人は、確かに能力的にはEランク迷宮を突破するだけのものがあった。

 だが、迷宮へと入った彼らは、恐怖に支配された。戦闘経験が皆無だった中で、いきなりそんな現場に投入され、少し格が落ちるとはいえ命を本気で狙ってくる魔物たち。


 そんな魔物たちを相手に全力を出せるはずもなく、本来持つ力を発揮できなかったゆえの失敗であった。


「……まったく。戦闘経験が皆無だとは聞いていましたが、あの程度の魔物相手にビビッて何もできないなんて……本当にまったく使えませんね……っ」


 苛立った様子で声をあげたアイナが、唇を噛んでいた。

 この国の、次期国王候補の一人としてアイナは何としても結果を出す必要があった。王位継承権を持つ兄、姉たちはすでに殺し、現国王の父も寝たきりの状態まで追い込んだ。

 すべて、自らの手を汚さず、自然な事故で片づけていた。


 妹が二名残っていたが、彼女らは何かしらの理由をつけ、他国へ派遣。常に国内にいない状況を作り、アイナの評価がもっとも高くなるように動き続けてきた。


 それでも、アイナが王位を継承することに疑問を抱く人たちの声もあり、それを黙らせるために結果が必要だった。

 その分かりやすい結果が、魔王の討伐。


 ラフォーン王国が隣り合わせの大陸では、現在も魔族とのいざこざが絶えなかった。だからこそ、魔族たちを殲滅し、その土地のすべてをラフォーン王国の領土に変えることができれば、アイナが女王となっても文句を口にする人は出ないだろうと考えていた。


 だというのに、結果が散々なものであり、アイナは苛立ちを隠せなかった。

 廊下を歩き、召喚魔法陣が設置されている部屋へと向かう。隣接された小部屋には、召喚魔法に関する資料が多く残っており、アイナはそこに引きこもりひたすらに情報を集めていた。

 現時点で、召喚された勇者たちはあまりにも弱く、それをさらに強化する方法がないか。

 あるいは、あたらしく召喚する方法はないかを調べるためにここへ来ていた。


 しばらく資料を読み漁っていたアイナは、そこである記述を目にした。


「……召喚魔法で召喚した存在は強化して召喚することが可能……ただし、強化が大きい場合、その存在に大きな負荷がかかり、何かしらの異常が出てしまうため、使用する場合は異常が出ないぎりぎりを見極める必要がある……」


 その記述を見て、アイナの口元が緩んだ。

 これをうまく使えれば、今からでも勇者たちの能力を強化することができる、と。


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