第46話


 

 これまで使う機会はないだろうと思い、スナイパーライフルを召喚することはなかった。

 ただ、状況が状況だ。

 これなら、スナイパーライフルで狙撃した方がいいだろう。


「……そげき?」


 メルトロウが眉根を寄せてくる。聞きなれない単語だったからだろう。

 別にそれについて「スナイパーライフルという武器を使って――」と、丁寧に話をする必要はないだろう。


「遠距離魔法を使って、ゴブリンリーダーだけを殺すつもりだ」

「できるのか、そんなことが?」


 メルトロウが訝しむように俺とジェニスへ視線を向ける。


「……問題ないのかい?」

「たぶん、な。事前に練習しておけば、おそらくは大丈夫だ」


 スナイパーライフルを使ったことはないので、事前に使ってみないことには、どこまでの精度で射抜けるか分からないからな。


「……分かった。メルトロウさん。ゴブリンリーダーの場所について詳しく教えてくれ。シドーたちは、その練習を今行ってきてもらえるか?」

「ああ。分かった」


 こくりと頷いてから、俺はリアとともにギルドを後にした。



 村の外に出たところで、俺は早速スナイパーライフルを召喚するために魔力の準備を行う。

 ……ん? 魔力に関しては、思ったよりも多いな。

 ここまで暇なく魔法を使い続けていたからだろうか?

 勇者の成長って便利だな。


 これなら、問題なく召喚できそうだ。

 村の外へとつながる門へと向かうと、ストガイたちが門の近くに座っていた。

 見張りを行っているそうだ。


「あれ、シドーたちか? ジェニスさんはどうしたんだ?」


 ストガイがあぐらをかきながらこちらに問いかけてくる。

 随分とくつろいでいるが、彼らがいざという時に動けるのは知っているので何も言うまい。


「ジェニスは今後の作戦のためにまだギルドにのこってる。俺たちはその準備をするために来たんだ」


 俺はすぐに魔力を集め、召喚魔法を発動する。……さすがに、まだ足りない。だが、魔力回復ポーションを使えばなんとか発動できた。


 ……おえ。

 こんなことなら、事前に召喚しておけば良かったぜ。


 リアたちに使い方を簡単に教える。

 基本的な銃の使い方は変わらない。あとはスコープを使っての狙撃ができるかどうか。

 また、どこの距離までを狙い撃てるかどうかだな。

 ……何か目標があったほうがいいだろう。ここからちょうど離れた木々に視線を向ける。

 まずは、あそこの木を狙ってもらうか。


「リア、あそこの木をゴブリンリーダーだと思って撃ってもらえるか?」

「やってみるわね」

「う、撃つって……あそこまでかなり離れてるぞ?」


 俺たちのこれまでの戦闘を見ていたからか、ストガイはすぐに何をしようとしているのかが分かったようだ。

 確かにたぶん200メートルくらいは離れているが……皆のセンスならなんとかなると思う。


 スナイパーライフルを構えるリアは……ちょっと胸が強調されている。おい、ストガイ。あんまりみるな、目潰すぞ。

 まったく、なんて失礼な男なんだ。リアはこんなに集中しているというのに……おっぱい、でっか。


 ナーフィが一番だが、リアもなかなか……。


 俺は軽く深呼吸をしながら、標的にした木へ視線を向ける。

 リアがじっと見ていた次の瞬間。引き金が引かれた。

 銃声が響き、弾丸が放たれる。弾丸は真っ直ぐに放たれたが……当たらない。


「……これ、あたし無理かも。あんまり合わないわ。なんか息苦しいっていうか……」

「……そうか」


 リアは少し苦手そうな表情をしていた。それなら、ナーフィだ。

 ……こちらもお胸がかなり大きいので期待が持てる。

 ではない。

 ナーフィはそれから何度か狙撃したが、そこまで精度は高くない。

 悔しそうに頬を膨らませ、さらに連射するが外す。

 ナーフィは、そもそもこういったじっと待って狙撃するようなのは得意じゃなさそうだ。

 最後は、アンナだ。

 彼女は不安そうにしながら構え、息を吸った。


 ……その瞬間、周囲の雰囲気が変わったような気がした。アンナはそして、引き金を引き、見事に木を撃ち抜いた。

 それも、まぐれではない。

 周囲の木々もすべて、撃ち抜いていく。これは、見事だ。


「あ、当たりました」

「おお、凄いなアンナ」


 俺が褒めると、アンナは嬉しそうに微笑んでいた。

 リアとナーフィも褒めていくと、恥ずかしそうに顔を俯かせながらも、アンナは嬉しそうだ。


「……ま、マジかよ」


 破壊された木々を見て、冒険者たちが頬を引き攣らせていた。

 かなりの距離があるというのにこれなんだから、その反応も仕方ないな。

 アンナが一番得意な武器はスナイパーライフルなのかもしれない。


 今後は、アンナを最後方に置き、俺はその護衛に徹するというのもありかもしれないな。

 スナイパーライフルの中には、対物用のものなど威力の高いものもある。

 彼女を固定砲台にできれば、今後頑丈な魔物が出てきても問題ないかもしれないし……夢が広がるな。


「次はさらにもっと離れたあの木を狙ってくれ」

「分かりました」


 アンナに指示を出し、距離の限界を確かめる。

 色々試してみた結果、射程としては300メートルくらいまでなら問題なく撃ち抜けそうだ。


 練習を重ねれば、さらに距離は伸ばせるかもしれないが、今はこれだけあれば十分だろう。

 次に俺もスナイパーライフルを借りて、やってみる。

 距離としては俺も同じくらいだ。アンナに並ぶくらいはできそうだな。


 ただ、俺の場合はアンナほどではない。

 スナイパーライフルの扱いに関しては、俺もなかなか上位に食い込めるかもしれない。


「ちょっとハズレたな」

「……いや、シドーもすげぇけどな。その武器、シドーが作ってんだろ?」

「まあ、な」


 俺は召喚しているだけなので、ちょっとその褒め言葉が胸に痛い。


「……あの距離を魔法で射抜くなんてまず難しいぜ? そもそも、魔法をあそこまで放ったら、威力も相当下がるしな」

「弓じゃ……絶対無理」


 俺たちの狙撃を見ていたストガイたちが、頬を引き攣らせながらそんな感想を言ってくる。

 ……やっぱり、地球の銃火器はこの世界だと過剰火力っぽいな。


「ご主人様も、十分やれそうでしたね」

「アンナには負けるがな。作戦実行時は、基本的にアンナに狙撃してもらおうと思う。頼んでもいいか?」

「……はい。分かりました」


 とりあえず、そんなことをしている間に魔力も回復したので、俺は魔力回復薬を用意し、再び召喚魔法を発動する。

 今回召喚するのは……アサルトライフルだ。魔力を結構使ったが、これも問題なく召喚できた。

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