第28話


 ボス階層は、それまでの階層に比べるとかなり狭く、木々や岩なども存在しない。


 見晴らしのよい草原が広がっており、邪魔するものは何もなく、逆に地形を利用して戦うということもできなさそうだった。


 コロシアム、というのが表現としてぴたりとハマりそうだ。


 リアたちとともに進んでいったときだった。

 それまで以上の霧が集まっていき、魔物へと姿を変化させた。

 スモールウッドマンに、似ている。ただ、サイズは人間の大人を一回り大きくしたようなものだ。


「ビッグウッドマンか?」

「ウッドマンですね」


 ……そうなのか? アンナの指摘に俺は問いかける。


「……ビッグウッドマンじゃないのか?」

「ビッグウッドマンはさらに大きいです。この倍くらいありますよ」


 アンナが両手を大きく広げる。可愛らしい姿だったが、なるほど……そうなんだな。


「しゃあああ!」


 ウッドマンがこちらに気付き、咆哮を上げると腕のような形をした枝が伸びてきた。


 射程が、長い。

 スモールウッドマンの時よりも、より距離をおいて戦った方がいいな。

 

 俺が後退して攻撃をかわすと、ナーフィが踏み込み、前にでる。

 ……あれは無茶な攻撃ではない。射程のことを考えて、距離を詰めたんだろう。


 確かに、ウッドマンもかなり枝が伸びるようなので、安全域から攻撃を続けるというのは難しいだろう。

 そうなると、誰かしらがウッドマンの攻撃を引き付け、それを援護する方がいいはずだ。


「ナーフィは、敵を引き付けるのと回避に専念してくれ。リア、アンナはナーフィの援護を頼む」

「分かったわ!」

「はい!」


 作戦はこれでいいだろう。俺もハンドガンを構え、放つ。

 ……ダメージは通る。だが、破壊した腕はすぐに再生する。


 距離をとりながら、ハンドガンを放つが、攻撃を続けすぎるとこちらにも注意が向いてしまう。


 ……それをナーフィが連射で対応してくれる。

 あまり、攻撃しすぎたらダメだな。


 ナーフィの射線に入らないよう、また俺も射線に入れないような位置を維持しながら、ハンドガンを放つのだが……中々削りきれない。


 ウッドマンの皮膚……樹皮が鎧のようになっていてハンドガンが通らない。

 正確には、同じ場所に打ち込めばダメージはあるようで怯むのだが、スモールウッドマンの時のように適当に撃っていて倒せる魔物ではないようだ。


 色々検証しながら撃っていたら、ターゲットが俺へと移ってしまったようで枝が伸びてくる。

 跳んで、跳んでかわす。地面を抉るような一撃に、さすがに頬が引き攣る。

 こいつを倒したら、防具とかも考えてもいいかもしれない。


 まあでも、俺もかなり動けるようにはなっているようだ。

 これがレベルアップの恩恵か。

 今は、ウッドマンに集中しないとな。



 リアとアンナも攻撃を仕掛けていくと、注意は分散されていく。

 最終的には、ナーフィが連射で注意を引き戻してくれ、攻撃を華麗にかわす。

 ナーフィが、頭ひとつ抜けているのは知っていたが、頭ひとつどころじゃないな。

 ナーフィの正確無比な射撃に、ウッドマンが怯みながら彼女を睨んでいる。


 苛立ってるな。


 あっちを攻撃すれば、こっちが。こっちを攻撃すればあっちが……そんな感じでウッドマンは大層苛立っていることだろう。

 それは俺も同じだ。


 せっかく、異世界転移したのだから、ラクラク倒せるチートくらいは欲しいものだ。

 ハンドガンでちまちま削るのは終了。俺はハンドガンをしまいながら、ショットガンを取り出す。

 すでにいつでも放てるように準備はできている。


「ナーフィ! 俺が近づいてぶっ放すから、攻撃を引きつけてくれ!」

「ん」


 ……ナーフィにショットガンを使ってもらうことも考えたが、い、一応俺がご主人様だからな。

 ボスのファーストキルは、俺がとっておきたい。


 やはり、ご主人様として威厳があるところも見せないとだしな。


 俺がそういうと、ナーフィはウッドマンの頭……アフロのようになっている葉の部分を狙って弾丸を放つ。

 だが攻撃はかわされる。ハンドガン見切ってかわすって、やっぱ異世界の魔物は化け物だわ。


「キシャアア!」


 だが、顔に攻撃したことでさらにナーフィへの注意が集まったようで根のようになっている足を動かし、ナーフィへと迫る。

 迫りながらも、両の枝を伸ばしてナーフィを攻撃するが、当たらない。

 ナーフィは舞のような動きでかわす。思わず見惚れてしまうような綺麗な動きだ。


 おっと、見惚れている場合ではない。

 チャンスだ。俺が一気に近づき、ショットガンを構える。

 俺に当てないように、銃撃は止まっている。ここで決めるしかないだろう。


 トリガーを引いた瞬間、思っていた以上の反動に襲われ、けたたましい銃声が響いた。


「があ!?」


 俺の放ったショットガンから放たれた散弾が、ウッドマンの体に命中し、吹き飛ばす。いくつもの弾痕と穴があいたウッドマンは、悲鳴を最後にぴくりとも動かなくなった。


 ……やったか? いや、これはフラグになってしまうな。

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