第12話

 向こうの世界のことならそりゃあ説明できるが、こちらの世界基準だと俺は色々知らない側なんだけどな。

 バクバクと食べるナーフィと黙々と食べるリア。

 ……ひとまず、リアもナーフィはそれなりに関わってきてくれるので、ここはアンナに声をかけようか。


「空腹は大丈夫か?」

「……く、空腹とまではいっていませんよ」

「そうなのか? まあ、今後も食べたいときは隠さなくていいからな? 魔力に余裕があればいつでも準備できるしな」

「……は、い。おかげさまでありがとうございます。……それと、何も考えずバクバク食べてしまって申し訳ありません……奴隷の立場ですのに」

「いや、奴隷なのはあくまで立場だけなんだし、気にしないでくれ。俺は魔力の強化もしたくて、普段から色々と作ってはアイテムボックスにしまってるんだ。腹が減ったらまたいつでも言ってくれ」

「……ありがとうございます」


 アンナはこくりと小さく頷いた。まだ、完全に警戒がなくなったわけではないようだが、それでも問題はなさそうだ。


 クックックッ。順調に快楽漬けはできているようだ。

 引き続き、アンナとの交流を図るため、声をかける。


「喉は乾いていないか? 何か飲むか?」

「……はい。何かあれば」

「甘いもののと普通のお茶、どっちがいい?」

「……あ、甘い飲み物というのはあのシェイク、でしょうか?」

「うーん、それもあるけど……何か好きなフルーツはあるか? ジュースの話もしていたし、そっちはどうだ?」


 マッグドナルドのマッグシェイクとか普通にジュースとか。

 あとは、自販機とかで買えそうな各種ジュース。それらを暇なときに召喚している。

 フルーツ、といって果たして俺の知識で分かるものをあげてもらえるかは不明だ。


「……オレンジはわかりますか? あれが結構好きですね」

「おっ、それなら、オレンジジュースがあるな」

「お、オレンジのジュースですか? オレンジを絞って作るのですよね?」

「まあ……正確にはちょっと違うんだけどな」


 俺が取り出したオレンジジュースはたぶん、果汁100%ではない。

 炭酸オレンジジュースの入ったペットボトルをアンナに差し出す。

 受け取ったアンナはしばらく中の液体を眺めていた。


「……こ、これは? とても綺麗な入れ物と飲み物ですが……どのように飲めばいいのでしょうか?」


 俺は自分の分のお茶を取り出し、ペットボトルを開けてみせる。

 アンナは俺の動きを真似るようにペットボトルの蓋を開けると、ぷしゅっと炭酸飲料特有の音が響き、びくっと肩をあげる。

 シュワシュワーと中で音を上げるジュースに、アンナはあわあわとこちらを見てくる。


「そのまま飲めるから安心してくれ」

「……の、飲めるんですかこれぇ。ど、毒みたいですけど……っ」

「ちょっと、シュワシュワするかもしれないから、合わなかったら言ってくれ」

「は、はいっ」

「んっ!」

「はいはい。ナーフィの分もあるからな」

「……あ、あたしも……飲んでみたいわ」

「ああ、いいぞ」


 やはり、リアとナーフィは自己主張してくれるな。

 彼女らにも同じものを渡し俺はアンナを見る。

 

 どこか緊張した様子でその飲み物をみていた。

 それでも、これまでの俺が与えていたもののおかげか、すんなりと口にはつけてくれた。

 クックックッ。順調だな。

 喉をこくりと鳴らしたアンナは、それから目を見開きごくごくと飲んでいく。

 初めての炭酸飲料だったと思うが、慣れた様子で飲んでいく。

 そして、口を離したアンナは嬉しそうに声を上げる。


「お、美味しい……とても甘いですねこれ……っ! ちゃんとオレンジの味もするし、これすごいです……! この容器も飲みやすいですし!」


 そりゃあ、人工甘味料などが入っているから当然だ。

 美味しいと感じるために開発されたそれらの効果は、ちゃんと異世界人にも通じるようだ。


「それは良かった。ただ、さっきのハンバーガーと一緒で毎日取り続けると体にはあんまりよくないからな」

「……確かに、これだけの美味しさを毎日いただいていたら、普段の食事が物足りなくなってしまうかもしれませんね……。気をつけます」


 いや、そういう意味ではないのだが。

 まあでも、毎日食べさせることはしない、と伝わればそれでいいか。

 今日は……アピールするためにもジャンクフードばかりを召喚していたが、これからはもう少し健康に気を遣ったものを召喚していくのもありだろう。


 三人のエルフたちは嬉しそうに飲み物を飲んでいる。

 スラムで出会ったときに比べて表情はかなり緩やかだ。

 ……とりあえず、ご主人様として問題なく交流できているってことでいいだろうか。

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