第3話


 途中、何度か戦闘のために馬車が止まることがあった。

 戦闘が始まる場合、護衛としてついている冒険者が戦いに出ることがあったのだが、今回の冒険者たちは奴隷を連れていた。

 その戦闘の様子を眺める。


 奴隷の扱いはあまりよくない。彼らが最前線に出て魔物を引きつけるといった、どちらかというと、盾のような使われ方をしている。

 基本的に奴隷が前で戦って魔物を引きつけてもらい、主人が援護するという感じだ。

 また男の冒険者が、女性の奴隷を数名連れている。戦闘兼慰み用、といったところではないだろうか。

 皆容姿も整っていて、羨ましい限りだ。いやいや、羨ましいと思ってはいけないな。残酷な世の中に涙しよう。


 奴隷、か。

 この世界では当たり前の存在たちだ。親が金欲しさに売ることもあれば、犯罪者が奴隷落ちをすることもある。

 はたまた、何の罪がなくとも、盗賊たちによって売り飛ばされることもあるのだとか。

 奴隷落ちに関して、国によって多少の制限はあるようだが、あってないようなもの、だそうだ。


 奴隷に関しての説明は、王城でも聞かされていた。

 というのも、奴隷は勇者を最短で育てるために必要なこと、らしいからな。

 奴隷と契約した主人の間には、奴隷紋という繋がりが生まれる。


 この奴隷紋によって、奴隷が倒した魔物から得た魔素の一部が、主人の体にも蓄積されるらしい。

 ようは、経験値稼ぎを任せられるってわけ。いわゆる、がくしゅうそ◯ち。


 最近のだと、そのアイテムももうないんだったか。

 この魔素というのは人によって合う合わないというものがあるらしく、奴隷が吸収しきれなかったものが、主人に譲渡されるのだとか……まあ、そんな感じで理論的なものを色々と王女様は話していた。


 そして、王城では現在、騎士と勇者の間に、不利益にならない奴隷契約が結ばれているそうだ。

 優秀な騎士たちが魔物を狩りまくって経験値を稼ぎ、勇者たちは剣や魔法の発動の訓練などを行い、基礎を高めていく。


 これが、勇者教育プログラムらしい。


 奴隷契約可能な人数は、人によっても制限があるので何百人と契約してレベルを稼ぐというのは無理だが、それでも効率がいいのは確かだ。

 そんで、俺という使えない戦力のために騎士を割く余裕もなければ、俺を飼ったままでは衣食住費もかかるから、俺は追放された、というわけだ。


 ……そこもちょっと怪しいんだよな。俺一人の衣食住費なんてたかが知れているわけで……そんなに金に困ってるのかって話だ。


 そして、追放しようとしていたのは俺だけではなさそうだった。

 能力が劣るクラスメートは他にもいた。あるいは、そのクラスメートが持つ魔法の上位互換の能力を持ったクラスメートとかもな。


 田中くんと佐藤くんは、まだ他の人と被る部分がないから大丈夫だとは思うが、それでもクビを切られる可能性がないとも限らない。


 追放されなくとも……戦えるのであれば、奴隷落ちとかもあるのだろうか?


 元々バイト三昧でほとんどクラスメートとは関わりがなかったので、だいたいの人は可哀想だなぁ、くらいにしか思わないが以上二名が不遇な扱いを受けないことだけは祈っておこう。


 俺がクロームド王国についたらやることは決まっている。

 冒険者ギルドに登録し、奴隷を買うこと。

 これが、俺が強くなるためのスタートラインだと思っている。

 数日が経過し、クロームド王国の端にある街へと着いた。

 ここは、ラフォーン王国から来た人たちが最初に訪れるため、流通の街と栄えているそうだ。


 とりあえずこの国で、冒険者登録を済ませた。

 今は、人間の国では停戦協定を結んでいるため、どの国でも同じ冒険者カードで依頼を受けることは可能らしい。

 魔王の軍勢が現れるまでは、各国ごとに登録する必要があったし、そもそも気軽に行き来できるものでもなかったそうなので、ある意味魔王軍には感謝するべきなのかもしれない。


 共通の敵、というのはその環境を整えるのには必要な場合もあるよな。

 それは俺のクラスメートたちもそうだ。少なくとも、城内の勇者の中で俺が最底辺の扱いを受けていた。

 皆の蔑みを俺が引き受けていたため、王城内で俺以外に対しての不満はそこまでなかった。


 使用人たちからもゴミを見るような目で見られていたのだからそれはもう興奮したものだ。

 俺がいなくなった今。今度は次の最底辺が生み出されるはずだ。

 羨ましい……いや、可哀想に。

 

 クロームド王国に入ったが、今いる街はラフォーン王国の人たちも商業関係で足を運ぶこともあるらしい。活動するならもう少し離れた場所がいいだろう。

 さらに馬車を乗り継ぎ、ラフォーン王国から離れていく。


 そうして移動していき、クロームド王国で二番目に大きいという街、ベルトリアに到着した。

 ここは、ラフォーン王国からもかなり離れているし、活動を開始しても問題ないだろう。

 ずっと馬車での移動であり、かなり疲れは溜まっていたので、その日は宿を借りる。


 明日から、冒険者活動本格的に始めるつもりだ。

 そのために……今あるすべての魔力を使ってみるとするか。


 今回、召喚したい武器は銃火器。


 ……まあ、銃火器じゃないにしても、そこらの店で売っている刃物とかよりは、地球から召喚したものほうが優れているだろう。

 今回召喚するのは、拳銃の予定だ。

 さて、召喚できるだろうか。


 旅の間ずっと魔力を使ってきたとはいえ、そこまで劇的に増えたわけではない。

 なので、今は魔力チートを行うため、強化ポーションも購入してある。


 これは、魔法使いなどが魔法を使う際に使用するらしい。

 魔法の威力を高めることができるそうなので、ひとまず、飲んでみる。うん、なんか気分が上がってきた気がする。プラシーボかな? いやいやそんなことはないだろう……プラシーボかも?

 魔法は信じる心が大事なはず。きっとそうだ。


 さて、召喚魔法を明確にイメージする。


 魔物を倒すための銃火器、銃火器……。頭の中に浮かんだのはハンドガン。いや、できるならアサルトライフルとかの方がいいけどたぶん、魔力が足りないだろう。


 ハンドガンをイメージすると、魔力が急速に体から失われていく。

 召喚魔法に使われているのだ。慌てて俺は、魔力を回復するためのポーションを口に運ぶ。


 苦い、気持ち悪い……。魔力の増加、減少を短い間に何度も行うと、高熱でも出た時のような気持ち悪さに襲われるようだ。

 ……も、もう二度とこれはやらん。そんな気持ちとともに、俺は召喚魔法を放った。

 

 俺の手には、ハンドガンが出現していた。

 ……おお、成功だ。

 俺の召喚魔法が一体どこからどう召喚されているのかわからないが、ちゃんと管理しているような場所で銃一つが突然なくなるなんて大問題だろう……。


 確か自衛隊が銃弾一つの数が合わなくても大変なことになるんだもんな?

 まあ……それを言ったらマッグドナルドのビッグマッグを大量召喚している時点で、マッグドナルドには大迷惑か……。

 これも誘拐された日本人を助けるためなんです。ですから、見逃してください。


 まあこれらがすべて実物を召喚していたらの話だ。きっと違うはずだ。

 俺はハンドガンを軽く握ってみる。

 上の部分をスライドすると弾が装填され、あとはセミオートで撃っていけるんだよな……?

 今はやらん。暴発したら恐ろしいからな……。


 フルオートのハンドガンとかもゲームではあったと思うが、あれはゲームのアタッチメントかなんかだったか?


 何度かFPS系のゲームはやったことがある。

 ただ、ほぼ素人だ。

 ハンドガン、ショットガン、アサルトライフル、スナイパーライフル……みたいな、枠組程度しか分からない。


 マガジンを見てみる。入っている弾は全部で九発か。とりあえず……あとで銃弾も用意しておかないといけない。

 そっちは、魔力のみで召喚できるだろうか? ……とりあえず、疲れ切ってしまったので、ハンドガンをアイテムボックスにしまってから、俺はベッドで横になって眠りについた。

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