第3話 スペースキーでぼよよよ~ん!
すごいことに気づいた。
スキル名が「キーボード」だし、なんとなく歩く時って『WASD』っぽいなと思ったわけよ。
で、言ってみたのさ。
「W!」
そしたら出たじゃん。
俺の足元に「W」のキーが。
大きさ30センチくらい。
で、俺がそれを踏むでしょ?
したらツツツーゥって前に進むわけ。
え、すごくない?
めちゃ楽。
これなら街を探して「ヘトヘト足が棒でござる~」なんてならなくてすむじゃん、いぇい。
ちなみに「A」を踏んだら左に。
「D」を踏んだら右に。
「S」を踏んだら後ろに移動する。
大体5メートルくらい進んだらキーは消滅。
で、魔力消費量めっちゃ低い。
魔力ずっと2のまんま。
最高やんけ、スキル「キーボード」! わっしょい!
ってなわけでツツツゥー、ツツツゥーとフィギュアスケートの選手よろしく上機嫌で森の中を駆けてたら聞こえてきたわけ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
女の悲鳴。
美女チャンス!
とはいえ、俺の体力と魔力は2のまんま。
死にたくなさペタマックス!
なので、とりあえずツツツゥーと滑っていくだけいって声のした崖の下を見てみたよね。もち隠れて。死にたくなさペタマックスデラックスなので。
したら馬車、襲われてる。
リザードマン兵士約五人に。
護衛&兵士、死んでる。
討ち死に。ち~ん。
え、これヤバくない?
リザードマンたち鎧着てるし剣とか持ってるし。
そもそもお前ら皮膚固いのに鎧着る意味あるのかってね。
そんな武装リザードマンたちが言ってるわけ。
「悪いな……貴様に恨みはないのだが、これも仕事なのでな」
「だ、誰の差し金なのですか!」
馬車の中の声の主は気丈にも命を奪われようとしてるってのに敵の正体を突き止めようとしてるらしい。
キィン──!
中から一本のレイピアが飛び出す。
「っと、あぶねぇ! んだぁ? まだ中に誰か……」
トッ……。
音もなく馬車の中から一人の男が地面に降り立っていた。
糸目。
長髪。
くすんだブロンドを後ろで一本に束ねている。
スリムでスタイルがいい。
商人風の格好。
羽織ってるマントが風になびいててカッコいい。
「てめぇ、いつの間に……!?」
マジでそれ。
マジでいつの間に? ってやつ。
この糸目マン、相当な使い手なんじゃない?
「アイリス様、どうか中に」
「ルピオ、気を付けて……」
「なぁに、心配なきよう……っと! シュシュシュシュッ!」
目にも止まらぬ高速の突きでリザードマンの目を撃ち抜く。
「ぐっ……! こいつ……!」
ピッ──!
レイピアに刺さった目玉を剣を振って放ると、男は「さぁて──自分たちが一体誰に手を出したのか……今さら後悔しても遅いぞ! シュシュシュシュッ!」と続けざまに突きを放った。
おお、かっけ~!
と思った一分後。
「ハァ……ハァ……! なぜ……! なぜ私の剣技が通用しない……!?」
ルピオと呼ばれた糸目の男は逆に追い詰められていた。
うん、そりゃそうだよね……。
だって……。
リザードマンの皮膚、めっちゃ固いんだもん……。
しかも鎧着てるし。
めっちゃ目への攻撃も警戒されてるし。
無理だよね、レイピアじゃ。
う~ん、異世界に来てそうそうなんだけど、俺体力も魔力も2だし。死にたくなさペタマックスだし。
ってことで、ここは縁がなかったということでこのまま見捨てさせてもらま……。
……す?
「ルピオ!」
そう叫んで場所の中から身を乗り出した女の子。
彼女の姿を見たオレ氏、血液沸騰&カチンコチンの助。
か、かっ……。
かわいいいいい~~~~~~~!
きらっきらのブロンド!
ゆるっゆるのふわふわパーマ!
きゅるりんっとした大きなお目々!
ちっちゃな鼻筋にぽってり唇!
推定身長150センチ!
薄汚れたローブをかぶってるけど隠しきれてないその気品!
そしてなにより!
声がかわいい!!!!!!!!
声!
大事でしょう!
俺みたいなオタクにとっては特に!
彼女──アイリスと呼ばれた少女の声質……。
さいっこぉぉぉぉぉぉぉぉう!
雷電、知ってるか?
オタクは、声で恋をするんだ。
ってことで俺の中にムクムクと湧き上がってきました。
俺が! あの子の! 主人公になる!
そんな想いが。
そしてふと頭に浮かんだんです。
『スペースキー』という言葉が。
思いついたら即実行!
「うおぉぉぉぉぉ! スペースキー!」
すると崖と馬車の間に現れたじゃないですか。
宙に浮かぶクソデカスペースキーが。
そりゃもう俺はジャンプですよ。主人公ですから。
そしてスペースキーを両足でギュッと踏み込むと──。
ぼよよ~~~~ん! といい感じで跳ねたわけです。
で、
「うおりゃぁぁぁ! 死ねぇ、クソトカゲ! これが俺のエンターキーじゃぁぁぁぁい!」
ばしゅっ──!
はい、リザードマン一匹姿焼きすぎて骨状態!
「キミは──!?」
「うぉい! セントバーナードアレキサンドリアペニシリン太郎~!」
糸目に「俺はすべての人類の守護者です!」とカッコつけながら「え、今のリザードマンの名前、セントバーナードアレキサンドリアペニシリン太郎なの?」と思いながら、後ろに「S」のキーを出現させて足で連打。
ツツツゥ~っと後ろに下がっていく俺。
「うわっ、なんだあいつキモいぞ!」
キモイ言うな。
たしかに絵面的には不気味かもしれんけど。
でも、これだけ距離を取れてたら──。
「W!」
正面の地面に現れた「W」キーを踏みまくる。
一気にリザードマンたちとの距離が詰まる。
そして。
ばしゅっ──ん……!
残りのリザードマンたちをすべて巻き込んで──。
エンターキーアタックで焼き尽くした。
「キ、キミは一体……!?」
糸目の男が精一杯目を見開きながら尋ねる。
「俺ですか? 俺の名前はゼン! ただの……キーボードクラッシャーです!」
あ、そうカッコつけた瞬間にきた、クラっと。
あ~、ブラックアウト~……しながらステータス確認~。
名前:ゼン
種族:人間
称号:エンタの初心者
職業:キーボードクラッシャー
スキル:キーボード
レベル:9
体力:1
魔力:0
攻撃:5
防御:5
素早さ:6
知力:1
器用さ:4
運:2
カリスマ:1
なるほど、魔力枯竭……。
そんな倒れゆく俺の瞳に映った女の子、アイリス。
いや、マジで……クソ可愛い……この子……。
でへへ……。
そんなキモオタスマイルを浮かべながら俺は、すこーん! と気持ちよくブラックアウトした。
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