ブラック労働・奴隷的苦役にぶち切れた俺は世界を血で染めることにしたのだが、愛を知ってしまった。~露暴の意思~
戦徒 常時
第1話 炭鉱夫の日常
人生ってなんでこんなゴミみてえなんだろうな。
「おいガキ、これ運んどけ。」
看守は冷たく告げた。そこには山と積まれた石炭のかご。
これを坑道の出口まで運べとのこと。
「はい。」
従順に俺は従う。そういうものだ。俺は物心ついたころにはここで働いていた。小さい体は狭いところにもするすると入っていけるから重宝したらしい。
同期は数え切れないほどいたらしいが、今や俺一人だ。
みんな病気やら事故やらで死んでいった。周りのみんなが言うには俺は今13歳らしい。成長期と言うやつで、身長がぐいぐい伸びている。
「おう、坊主も大きくなったな。」
通りすがりに頭をわしゃわしゃしてきたのは、ダン爺さんだ。
俺が来た時よりずっと前からここで働かされているらしい。
なんでも、やってもいねえことで罪をでっち上げられて、ここに連れてこられたらしい。
なんで信じているかって?ここにはそんな境遇の奴がごまんと居る。特にダン爺さんは人柄もいいし、働き者だから、この人が悪人なわけがないってみんな口々に言ってる。だというのになぜおれたちは働いているのか?それは簡単だ。
ぴしゃん。ヒュッと空気の切る音とともに鞭が飛んで来た。これは威嚇だ。当てるなら次だ。
「そこ!私語は慎め!」
看守がいるのだ。それだけじゃない。外にも看守がいるし、さらに外には「サツ」とかいう巨大な犬が居るらしく脱走者を食っちまうらしい。まあ、命までは取られずに連れ戻されてくることがほとんどだから、かなり賢いのだろう。噛み跡もなかった。
脱走者は何人も出た。何故分かるか。出たら見せしめに殺される。みんなの前でタコ殴りにされて殺されるのだ。逃げ切った場合は、相部屋の住人が罰を受ける。これは焼き印を入れられる。
俺は幸い受けたことはないし、なかなか起こることでもない。
でも、最も軽い罰の鞭打ちは、受けた者の方が少ないほどに入れられていた。
「おい、じじい。次はないからな。」
「申し訳ありません。」
「おいこら坊主、とっとと運べ!鞭を食らいたいか!?」
おっと、俺の無罰記録に瑕がつくところだった。
「いいえ、急ぎます。」
爺さんをちらりと目が合った。どうして今日に限って話しかけたりしたんだろう?そんなアホではなかったはずだと思った。
でも、爺さんはにっこりと笑っていた。
何往復もした。俺は昔から体が頑丈だから、へでもない。
だが、精を出す必要もかけらもないので、いかに手を抜くかだけ考えていた。
怒られないギリギリを見極めて、看守の表情からいら立ちの度合いを見切って、最低出力を心掛けた。俺が労働のハードルを上げると、叩かれる人が増えるからだ。
「おいそこ、立て!怠けるな!」
そんな怒声が響いた。異常事態だ。
怒声は日常だ。声が聞こえないことの方がはるかに問題だった。
「カナリアが死んでいます!」
俺は叫んだ。
「なに?本当だ!撤収しろ!死ぬことは許さん!」
看守から一目散に坑道を昇っていく。毒ガスが湧きだしてくることがあるらしい。
吸えば即死ではないことは幸いだが、場所によっては吸った瞬間死ぬこともあるらしい。
それはカナリアで判断する。小鳥の方が微量で死ぬから異常の早期発見に役立つらしい。
避難はなんの不都合もなしに終わった。俺たちも貴重な労働力だ。新参に仕事を仕込む手間に比べたら生かす方がまだお得らしい。
ドーーーーン!爆音。
俺たちが居た坑道とは違う坑道からだ。
「なに?今日は厄日だな。消火活動急げ!」
「待ってください!まだ奥に仲間が!土砂崩れで閉じ込められて、」
「だまれ!どうせ助からん。水を注げ!早く!」
鞭が鳴る。10回は飛んだ。
なるほど、どうやら火事が起こった場合は新しく仕込んだ方がお得なようだ。
いざと言うときの貯水槽から水が流し込まれる。しばらくは水浸しだ。あの坑道に取り残された鉱夫達のもっとも幸運な最後は爆発で致命傷を負うことだった。
何事もなかったかのように、他の坑道で採掘は再開された。再発防止策はないらしい。とにかく石炭を掘れと言うことだ。
命じられたら従うほかない。みな、一様に作業を再開した。
「ごほっ、ごほっ。」
暫くすると聞き覚えの無い咳のような音が聞こえた。見やるとダン爺さんが苦しんでいた。
「おいこら、さぼるなじじい!仮病を使うんじゃない!」
看守が鞭を振り回し始めた。だが、爺さんは胸のあたりを抑えて、苦しそうに息をするばかりだ。
パシーン。鞭が鳴った。俺の体に当たった。爺さんには当たらなかったみたいだ。老骨が折れては困ると思ったのだろう、ずいぶん手ぬるい鞭だった。
「貴様、何をするか!邪魔建てするな!」
「いや、爺さんの様子が変だ。休ませてやってほしい。」
多分心臓だ。
「黙れ、石炭を掘れ!」
今度は俺に向かって本気の鞭が飛んで来た。避けない。避けたら爺さんに当たるから。鞭は左肩に当たった。この鞭、そんなに威力が出ないのか。いい音はしたが、そこまでダメージはない。
「お願いします!爺さんを休ませてやってください。」
俺は土下座をして頼んだ。やめろ、という声が小さく聞こえてくる。それは遠くの炭鉱夫が俺にギリギリ聞こえるくらいの小声で言っていた。そして爺さんは今にも死にそうなか細い声で叫んでいたものだった。
「ふざけるな、働け!働けなくなったら死ね。お前らは死刑囚だ。働くことで命を長らえていると言うことを忘れるな!じじいも苦しかろう。今、楽にしてやる。」
俺は土下座をやめてその看守を止めに入った。
「お願いします。お願いします。」
なんでこんなに馬鹿なことをしたのか、今に至ってもそれは分からなかった。
さっきの看守は俺を取り押さえる側に回っていた。
もう一人の看守が剣を抜いて、ダン爺さんを切り捨てた。
俺の目の前でダン爺さんは赤い花になった。ダン爺さんは笑っていた。口の動きは見て取れた。
そのとき、俺は鮮血の花冠を戴いたのだった。
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