第114話 ドワーフとの別れ

 その後、アカとヒイロはドワーフの集落の復興に力を貸すこととなった。


 復興といいつつも坑道の住居エリアがそこまで荒らされたりといった訳ではない。ただ、碌な準備もなく慌ててここまで逃げて来たことと、しばらくまともな食事が無かった事などで女や子供のドワーフ達の中には少し体調を崩した子もいる。魔物化から回復した戦士達の中には怪我人もいるし、全員疲労は溜まっている。

 

 そんなわけで大事をとって三日ほどここで療養してから坑道に戻る事としつつ、比較的元気な者達は先行して坑道の住居を整えるといった事になったので、アカ達は療養の方で役に立つ事としたのであった。


「こんなもんかな」


 アカが巨大な鍋を熱していた火を消す。このサイズの鍋にしっかり火を通そうとするとそれなりの薪を消費するが、アカとヒイロの場合は自前の火属性魔法で対応できる。薪も貴重な資源、節約できるならした方が良いという事で料理をする時は積極的に炎を提供した。なんなら普通に暖を取るための火も出している。


 初日のルカとイルの保護から肉の提供、そして坑道での活躍に加えて、このような惜しみない協力を受け、ドワーフ達にとってアカとヒイロは既に神の御使の如き存在へとなっていた。


 まあアカとヒイロも別にボランティアでやっている訳ではなく、とりあえずこの仮拠点を引き払って全員で坑道に戻り落ち着いたら、改めて坑道を案内してもらって山の向こうに連れて行ってもらえるという言質は貰っている。だから集落に滞在しているというわけで、もちろん何もせずにダラダラとしていても文句を言う者は居ないができる範囲で手伝いはしようかというだけの話である。


「アカお姉ちゃん、ヒイロお姉ちゃん! お昼ご飯を食べたらまた魔法を教えて!」

「こら、イル! 二人とも疲れているのに迷惑だろ!」

「ああ、疲れとかは全然大丈夫だからあとやろうか。ルカも仕事が無いなら一緒にやる?」

「良いんですか?」

「うん。他の子供達にも声を掛けておいてよ」

「「はいっ!」」


 良い返事をしてアカ達の元を離れる兄妹。他の子供達はアカ達に対して遠慮があるというか、気軽に話しかける事には少し躊躇があるようだがルカとイル、特に妹のイルはアカとヒイロを「お姉ちゃん達」と呼んで慕っている。


 この世界に来たての頃に滞在していた村でもルゥという少女にとても懐かれていたが(※)アカとヒイロは子供にモテる。基本的に面倒見が良い事や二人共小柄で童顔気味な事が理由ではあるが、その分大人には侮られやすいので悩ましいところである。

(※第1部 第2章)


 さて、そんな子供達にも大人気のアカとヒイロは空き時間には子供達に魔力循環のやり方を指導していた。


 ドワーフの一族は全員が大なり小なり魔力を扱えるらしい。土魔法を使えるぐらいの魔力量がある者は多く無いが、坑道でツルハシを振るにも戦技を使えた方が便利なので魔力の扱いが上手いに越したことは無い。

 実は当初、イルと遊んでいる時に宴会芸的に魔力循環をやってみせたのだが、思った以上にウケが良いばかりか「私も出来るようになりたい!」と言われたのでやり方を教えていたら他の子供達も僕も私もと集まって来たと言うわけだ。


「はい、じゃあ魔力を全身に回して」

「「「はい!」」」


 指導に対して良い返事をする子供達。アカとヒイロは上手い子のグループと、そうではない子のグループに分けてそれぞれの担当を分担した。アカは魔力循環が苦手なグループ担当だ。


「ちょっとずつでいいよ。上手く勢いがついたら、逆回転もやってみよう」

「は、はい……!」

「一度流れを止めてもいいですか?」

「最初はそれでいいよ。両方の回転に慣れたら、そのうちスムーズに切り替えられるようになるからね」

「分かりました……!」


 一方でヒイロのグループは順調だった。


「不規則に回転の向きを変えたり、体の部位ごと切り替えられるようになった人は、次は一瞬だけ流れを止めてみるっていうのをやってみようか」

「こ、こうですか……?」

「うんうん、良い感じだよ」

「やったぁ!」


 また、上手に出来た子にはそうでない子のサポートもお願いする。成長に個人差はあれど、全員のレベルが少しずつ底上げされることは、ドワーフの一族にとっても無駄な事にはならないだろう。


 こんな風にお手伝いや子供達の相手をしながら三日間の療養期間は過ぎていった。


◇ ◇ ◇


 療養期間が終わり、無事に一族全員で坑道にある本来の住居に戻る事ができた。慌ただしく移動を終えたドワーフ達だが、今後も彼にらは冬を超える準備や採掘の再開などやるべき事が山積みだ。


 名残惜しさはあるけれど、アカとヒイロは旅立つ事にした。サロが道案内を買って出てくれたので、三人は住居エリアの出口付近でドワーフ達の見送りを受ける。


「本当に世話になったのう」

「我々はお主達の事をずっと語り継いでいこう」

「この山のドワーフは、永遠にあんた達の友人じゃ」


 大人達が口々に感謝と別れを述べる。


「ありがとうございます、みなさんもお元気で」

「色々と大変だと思いますけど、頑張って下さいね」


 アカとヒイロもぺこりと頭を下げた。

 

「それじゃあ元気でな!」

「アカさん、ヒイロさん。またねっ」

「この山に来たらまたいつでも集落に来て下さい」


 最後に、ルカ達一家と挨拶を交わす。テリ、ルカ、ミレが挨拶をした。そしてイルが前に出てくると……


「アカお姉ちゃん、ヒイロお姉ちゃん……うわああぁぁあん!!」


 ここまで我慢して来たイルだったが、遂に大きな声で泣き出す。そんな彼女に釣られて、他の子供達もズビズビと鼻を啜って泣き出してしまった。


 そんなイルに、アカとヒイロは優しく声を掛ける。


「イルちゃんも元気でね。次に会う時までに「魔法指戦争(※)」、強くなっててね」

(※第6章 おまけ)

「イルちゃんは魔力循環が一番上手だったから、他の子のお手本よろしくね」

「……また、会える?」

「うん。いつかまた会おう」

「……分かったよ。私、お姉ちゃん達に勝てるぐらい、頑張って練習するね! 他の子にもちゃんと教えるから!」

「ありがとう」


 最後にイルはアカとヒイロにぎゅっと抱きついた。まだ目からは涙が滲んでいるけれど、頑張って笑顔を作って手を振ってくれる。


 アカとヒイロはそんなイルと、他のドワーフ達にもう一度頭を下げて、集落を後にした。

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