おまけ

 イグニス国から隣国へ向かう船の上でのある日。


「いよいよやる事が尽きたぞ」


 筋トレと魔力トレ――魔力循環をしてその操作の練度を高めるトレーニングをヒイロはそう呼んでいる――もこれ以上ないほどしっかりとこなしたヒイロは、青い海を見ながらボーッとし始める。


「じゃあ久しぶりにこれ、やる?」


 そんなヒイロにアカが両手の人差し指を出して訊ねる。ヒイロは頷いて、同じように人差し指を構えた。


 ……。


 …………。


 ………………。


 アカとヒイロは魔力と既存の指遊びを組み合わせた新しい競技を開発した。その名を「魔法指戦争」と呼ぶ。


 基本ルールはお互いに指を出して相手の手を軽く叩き、叩かれた方は出していた指の数だけ出す指を増やしていって合計が5本になったらその手は使えなくなり、両手も使えなくなった方が負けという、全国の小学生がやっているものの意外と名前が統一されていないアレである。アカとヒイロはなんとなく「指戦争」と呼んでいたけれどそれが正しいかは知らない。

 小、中、高校と進学するたびに遊戯の名前が変わったりルールも微妙に違ったりするので、単に「指の遊び」とか「指を足してくやつ」とか言ったりする人もいる。

 

 さて、そんな遊びに対して二人は魔力という概念を上乗せすることで競技性を高めてみた。


 指を叩く時に魔力を込めていた場合、2ターン連続で攻撃ができるという追加ルールを加え、そこに叩かれる方が魔力でガードした場合は相手の攻撃をスカに出来る。さらに魔力でガードしたけれど相手が魔力を込めていなかった場合は防御側がペナルティを受けて次のターンに魔力ガードができなくなるなどの防御ルールも加えて読み合いに深みを増している。また持ち時間を5秒に限定することで高度な駆け引きと一瞬での判断が必要な超スリリングな競技に昇華した。……とヒイロは主張している。


 ちなみに通常の指戦争では片手が死ぬとほぼ負け確だがこの競技は魔力操作と読み合いに勝つことで片手からの逆転が普通に起こるあたりも、競技として魅せるプレイが観客を惹きつける。……ともヒイロは主張している。


 これまでのアカとヒイロの勝率は互いにほぼ五分、一時期は毎晩のようにこれをやっており、相手に勝つためにフェイントや叩く瞬間の魔力ON/OFFなど無駄に高度な技を磨いていた二人である。世界中で二人しか競技者が居ないので出来ればもっと競技者が増えて欲しいところではあるが、前提に一瞬で指先に魔力を込める繊細な操作が要求されるため、少なくとも獅子奮迅のアクアとソフィはとてもアカ達と戦う土俵に上がれなかった。


 ……。


 …………。


 ………………。


「えいっ」

「しまった! 防御をスカされた!」

「ふっふっふ」

「と見せかけて、フェイント!」

「え、うそ!? うわぁ……。くぅ〜、負けちゃった」


 今回は先に片手を潰したアカが順当に勝利した。とはいえこのフェイントが決まらなければ勝負は分からなかった。ヒイロの油断を誘うという地味ながら高等な技術が成功した結果の勝利だ。


 ……またしょうもない技を編み出しちゃった。


「リベンジ! もう一回やろう!」

「はいはい」


 楽しそうに指を構えるヒイロに、アカは笑って応える。スマホも漫画もラノベもないこの世界だけど、こうして指遊びをしていると童心に帰って心から楽しむことができる。だからこんな風にヒイロと遊びに興じるのは、嫌いじゃない。


 そのまま暫く魔法指戦争で白熱する二人であった。



おまけ 了

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※作者より

6章執筆中、航海1日目に暇を持て余したヒイロが新しい遊びを考えたって設定で書いた内容ですが、作者の悪いクセ(設定凝り過ぎ)が前面に出てたのと、無くても本筋に影響がない部分なのでカットしました。ただ、お蔵入りするのも勿体無かったのでちょっと手直ししておまけエピソードとして公開することにしました。

我ながら上手いルールが作れたと思うのですが、作者は魔力がないので普通の指戦争しかできません笑

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