第55話 依頼完了!

 無事に港街ニッケにたどり着いた鉢金傭兵団の一行。


「まずはやるべきことをやっちまおう」


 荷物を彼らのホームに置いて、アカとヒイロはヘイゼルと共に冒険者ギルドに向かう。昼過ぎの、冒険者が少ない時間帯だったため並ぶことなくカウンターに辿り着くことができた。


「アカさんヒイロさん、おかえりなさい」


 アカ達に気付いたサティが笑顔で迎えてくれる。


「お疲れ様です。依頼完了の報告になります」


 今回、アカとヒイロはギルド経由で鉢金傭兵団の臨時メンバーとして助っ人参戦したため、その報酬はギルド経由で支払われることになっていた。最低限の金額は保証されつつもそこから先は出来高による上下がある。アカとヒイロは自己採点でそれほど減点は無いかなと思っているが流石に「結局いくらくれるんですか?」とストレートに聞くことは出来なかったので、ギルドでの精算が楽しみでもあり怖くもある。

 

「はい。それではヘイゼルさん、こちらで報酬金額の決定と完了処理をお願いします」

「はいよ」


 ヘイゼルはサティから一枚の紙を受け取るとなにやら書き込んで返す。サティは受け取った紙を見ると驚いて目を丸くした。


「これ、間違いないですか?」

「ああ。団長から是非にという事だ」

「そうですか……分かりました」


 サティはアカとヒイロが待つカウンターに戻ってきて報酬を用意する。


「こちらがアカさんとヒイロさんへの今回の依頼の報酬となります」


 カウンターで渡された報酬はなんと銀貨三十枚約30万円。これには二人とも驚きを隠せない。


「ヘ、ヘイゼルさん!?」

「これ、間違いじゃないんですか?」

「二人とも受付嬢と同じ反応するんだな。まあ今回はそれだけでかい仕事になったって事だよ。心配しなくても他の旅団員も同じぐらいは貰ってる」


 とはいえ確か団長から聞いた説明だと今回の依頼は六人募集して一人当たり銀貨五枚約5万円をベースにしてそこに出来高の上乗せで銀貨一、二枚程度になると聞いていた。


「そりゃ事前の話では蛮族の掃討で済む予定だったからだ。実際は帝国の正規兵から拠点の奪還と騎士の撃退、さらに捕虜の世話作業まで入ってるからな。その辺りの仕事っぷりを見積もればこれは決して貰いすぎってわけじゃねぇ。

 傭兵ってのはやった仕事の分はきっちり金を貰わないといけない。今回二人の仕事は銀貨三十枚分あったって事だし、それを安売りしちゃダメだ」

「まあ、言ってる意味は通りますが……」


 王国騎士団の騎士から個別に金貨二枚200万円を貰っているアカ達としてはそれでも貰いすぎ感が強いのだが、そんな彼女達の不安を払拭するようにヘイゼルは笑った。


「それに、今日の夜の打ち上げはお前達が奢ってくれるんだろ? うちの団員はおごれとあれば遠慮無く飲み食いするから、その報酬だと足が出るかもしれないくらいだぜ」

「……はい、任せてください!」


◇ ◇ ◇


「じゃあ今回のデカいヤマを無事に乗り切ったという事で……乾杯っ!」

「「「「カンパーイ!」」」」


 夜、傭兵団の馴染みの店を借り切っての打ち上げだ。アカとヒイロは高校生なのでこういった打ち上げへの参加というのは日本にいた時も経験はないのだけれど、昔テレビで見たサラリーマンの忘年会みたいだなと感じた。


 大きなテーブルに所狭しと並べられる料理に目移りする……普段節約のため、そういえばこの港街の特産品である海の幸を活かした料理もろくに食べた事ない。


 水の代わりに酒が渡される。ヒイロは今回の遠征前に飲み比べでゴクゴクと飲んでいたが、アカはこれが初めてのお酒だ。いいのかな? でもこの世界にはお酒は二十歳からってルールもないみたいだし別にいいか。あ、おいしい……。


 そんな風に食べ物と飲み物を味わっていると、ヘイゼルがやってくる。


「ヒイロ、前回のリベンジだ!」

「えーっと……私、前回団長に飲み比べ禁止って言われたような気がするんですど……」

「飲み比べ禁止じゃねぇ、酒を禁止するって言ったんだよ。もうお前飲んでるじゃねぇか」

「あは、バレちゃった」

「どうせここはお前達の会計なんだから好きに飲めばいい」

「さすが団長! って事でほれ、あっちで勝負するぞ!」

「はーい。アカ、ちょっと行って来るね」

「うん。飲み過ぎに気を付けてね」

「飲み過ぎに行くんだけどな……」


 苦笑いしつつヘイゼルと共に別のテーブルに移動するヒイロ。まあ前回も全然酔っ払ってなかったし、大丈夫でしょうと見送った。


 残されたアカは周りの傭兵達と談笑しつつお酒と食べ物を楽しむ。今回の遠征で一通りのメンバーとはそれなりに仲良くなったが、廃村への滞在中は怪我人の治療や捕虜達の世話などでずっと慌ただしくしていたし、こうやって腰を据えて話をするのは初めての相手も多い。


「騎士ってのはやっぱ強かったのか?」

「そうですね。でも私が戦った時にはかなり弱ってたので、トマス副団長よりは弱かったですよ」

「比較対象がおかしい。トマス副団長はうちでもトップの強さだっつーのに」

「そんな副団長が一瞬でやられた相手って事だもんな。なあ、お前も戦ったんだよな?」

「俺の場合は副団長がやられて、他の奴らと一緒に斬り掛かったはずが気付いたらやられてたって感じだからなあ」

「ヒイロが言ってましたけど、なんか相手の攻撃をそのまま返す技だったらしいですよ。攻撃する手の支点を押さえてクルンって返ってくる感じになるらしいです」


 技を受けたヒイロもよく分かっていなかったが多分そういう感じだったということだ。


「刃返しって技だな。どちらかといえば演舞なんかで使う芸のような技だと聞いたとこはあるけど、実戦で使うやつなんて驚きだ」

「パンチやキックには対応できないみたいで、武器メイスを捨てたら相手も剣を持ったらしいですけどね」

「ってことは俺たちは相手に剣を抜かせる事すら出来ずに全員やられたってことか……そこそこ鍛えてきたつもりなんだがなぁ」

「騎士ってのはそれだけヤベェ連中ってことだろ。そんなのに勝っちまったんだからお前らはすげぇよ」

「運が良かったのもありますよ。次やったら負けるかもしれません。もう騎士と戦うなんて勘弁ですけど」

「まあそうだな、拾った命だし大事に使うべきだ」


 そのまま暫く談笑しているとアカはホランド団長とトマス副団長に呼ばれたので、二人がいるテーブルに移動する。


「お疲れ様です」

「おう。座れ」


 促されて団長の隣に座る。


「単刀直入に訊くんだが、お前たち、鉢金傭兵団うちの正式な団員にならないか?」

「私とヒイロが、ですか」

「ああ。腕っぷしは問題無いし仕事も丁寧だし、団員達とも打ち解けてるからな。一応声を掛けておかないと他の奴らから恨まれちまうんだ」


 そう言って手に持ったジョッキの中身をぐいっと呷る。


「えーっと……」


 アカがなんと言って断ろうか悩んでいると、テーブルの向かいに座るトマスが助け舟を出してくれた。


「俺も団長も、断られるだろう事は分かっているんだがな。戦うことが好きじゃ無いやつに傭兵は向かないし、そもそもお前達には何か目的があるんだろう?」

「あ、はい。……なんかスミマセン」

「いや、いい。こちらこそ困らせて済まない。そういうわけだからお前達も諦めるんだな」


 そう言ってテーブルにいた他の傭兵達を納得させてくれた。彼らは一様に残念そうな顔をするが、まあ仕方ねぇな、次があったらよろしくな、と言ってくれる。


「しかし一番残念がってるのはヘイゼルだろうな」

「ヘイゼルさんですか?」

「ほら、見てみろよ」


 団長に促されて隣のテーブルを見る。既にヘイゼルは顔を真っ赤にして呂律も怪しくなってるが、その横でヒイロは楽しそうにお酒を飲んでいた。


「ヒイロ、俺が勝ったらウチの傭兵団にはいれぇ……」

「はいはい、そろそろお水飲んどきます?」

「うるへぇ! 俺はまだ負けてねえぞ……!」

「すみませーん、次はお酒の代わりにお水くださーい」


 ヒイロさん、酔っ払いのあしらい方になんか貫禄がありませんか!? しかもテーブルに置かれた空いたコップは明らかにヒイロの方が多い……!


「団員の中にはお前らを嫁にしたいなんて奴もいるんだ。誰とは言わねぇがな」


 ニヤニヤしながら周りを見回す団長。何人かの傭兵が顔を赤くして目を逸らした。


「あはは……、それもお断りしますね」

「だろうな。まだ若いんだしやりたい事があるならそれをすればいいさ」


 まあ誘いに応じてもらえれば嬉しかったけどな、と言って団長は少しだけ寂しそうに笑った。

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