第23話 魔法の修行
この世界の生物は全て魔力を持っている。その大きさには種族差・個体差があるが、全く無いという事は滅多に無いそうだ。
「でも私達って日本……他の世界から来たわけじゃないですか。前にも話したけれど、私たちの世界では魔力なんて存在しなかったので、そこから来た私達にも魔力は無いと思うんですけど」
「確かに前の世界ではそうだったかもね。でもこの世界に来て結構経つし、才能に目覚めていてもおかしくないと思うわ」
翌日から早速、エルによる魔法の訓練が始まった。
「先ずは魔力を感じて自分の感覚として扱えるようになるところからね。これが出来ないと魔法も戦技も使えないわ」
「魔力を感じるって瞑想とかですか?」
「それはある程度魔力の扱いに慣れてからかな。ルゥに教えた時みたいに出来ると良いんだけど……アカ、ちょっとおいで?」
エルはアカを引き寄せると、その両手を持った。二人で向かい合って手を繋ぎ輪を作ったような形になる。
「今、私は自分の中で魔力の流れを完結させているわ。これをアカと私、二人の身体で行うの。そうするとアカにとっては異物のような魔力が流れて来るわけで、その流れのおかげで自分の魔力の流れがわかるようになるって理屈」
「よ、よろしくお願いします」
「うん。特に痛みとかはないはずだから楽にしていて」
エルはすっと目を閉じると意識を集中する。アカもそうした方がいいのかなと思い、同じような目を閉じた。繋いだ手に意識を向けると、じんわりとエルの体温を感じる。
そのまましばらく待っているが、特に何も感じなかった。
「……どうだった?」
「えっ、もう終わりですか?」
顔を上げてエルを見ると、汗ばんだ顔でこちらを見ていた。
「うん、私にもアカの魔力が流れてきちゃうからこれ以上やるとこっちが辛くなっちゃう」
「私の魔力、流れていたんですか?」
「すごい濃密なの、流れてきてたよ。……だけどその反応を見る限りは自覚がなかったみたいね。これは手強いなぁ」
「ごめんなさい……」
「別にアカが悪いわけじゃないから謝らないでいいのよ。じゃあ次はヒイロ、やってみましょうか」
ヒイロと選手交代して後ろに下がったアカ。エルによれば自分にも魔力があるとの事だが、相変わらずさっぱりわからない。不安になりつつエルとヒイロを眺める。
「……っ!」
「ヒイロ?」
「あっごめんなさい、ちょっとビックリして……」
「もしかして感じられた?」
「そうなのかな? もう一回試してもらっていいですか?」
「分かったわ。次は逆向きにしてみましょうか」
「はい……、あっ! 分かります、なんかこう、ヌルリと温かい感覚みたいなのがゾワゾワってくるような……」
なんと、ヒイロはものの数秒で魔力の流れをモノにしてしまった。
「ヒイロもアカと同じくらい濃い魔力みたいね。二人とも魔力をしっかり使えれば魔法を扱えるようになると思うわ」
「ヒイロは魔力を感じられたけど、私は……」
「最初の切っ掛けを掴むのには個人差があるの。ヒイロみたいにいきなり上手くいく方が珍しいから、あまり気負わずにやっていきましょう」
エルはニコリとアカに微笑みかけた。
◇ ◇ ◇
「魔力には属性の概念があるわ」
アカはまだ魔力を知覚することができていないものの、一応二人とも魔力があるという事で、次は座学の時間だ。
「例えば私やルゥは風属性の魔力を持っている。魔力を使って風をおこすのが得意って事になるわね。こうして涼しくしたり……」
エルが手を翳すと、空気が流れて心地よい風がアカ達を撫ぜる。
「あとはこうして風の刃を作ったりも出来るわ」
薪を手に持ってそこに指先を当てる。しゅんっという音がしたかと思えば、薪をは真ん中から真っ二つになった。
「こんな感じね」
「すごい……」
「ただ、魔法を使えば魔力を消費するわ。体力と一緒で疲れたら休んで回復しないと行けないから何も考えずに使い続けられるようなものではないわね」
エルによれば属性は主に6つに分かれているらしい。
火属性:炎を操る属性。火を起こせる。色は赤。
水属性:魔力を水に変えて、それを操る事が出来る。何もないところから水を出せるので、旅では重宝される。色は青。
風属性:先程エルが見せてくれた通り、風を起こせる。色は緑。
土属性:土や石を生み出せる。罠や石器を即席で作れるので実は狩人に人気で、この村にも土属性使いが何人もいるが狩りの要になっている。色は茶。
光属性:暗がりを灯せる。また、光属性の魔力は傷の治りを促進する力があるため回復魔法というものも使える。怪我を治せるため非常に重宝されており、どの村や街にも一定数の光属性使いがいる。色は金。
闇魔法:闇や影を操るらしい。色は黒。
その他:特定の属性を持たない魔力。属性魔法は使えない代わりに特別な能力を発動できるとの事だが、これもよくわからない。
「自分の属性はどうやって判別するんですか?」
「魔力が属性に染まると目や髪にその色が映るのよ。私はルゥは深い緑色をしているでしょ」
「じゃあ私達は黒髪で黒い瞳だから闇属性ってこと?」
「その可能性は高いけれど、魔法を使ってみない事にははっきりとした事はわからないわね。魔力をある程度自分の感覚として扱えるようになればそれを外に撃ち出すだけで簡単な魔法として発動できるから、それを当面の目標にしましょうか」
◇ ◇ ◇
夜。初日の訓練と座学が終わり、アカとヒイロは自室で復習していた。
早速魔力を知覚したヒイロは続けて習った瞑想による魔力循環を試しているものの、魔力を感じられなかったアカはそれを眺めているだけではあるのだが。
「そんなじっと見られたらちょっと恥ずかしいんだけど……」
「あ、ごめんね。なんかこうしてみてもただ座ってるだけにしか見えないなーって」
「そうだねー、私もやりながらこれでいいのかなって半信半疑ではある」
「だけど魔力自体は感じ取れているんだよね?」
「多分だけどね。エルさんの手からこうもにゅもにゅっとしたのが伝わってきたのは分かって、あーこれが魔力かなって感じで」
「もにゅもにゅ、ね」
「言葉で表現するのは難しんだよ」
「
「ああ、言い得て妙かも」
ヒイロによると、一度知覚してしまえば手を動かすように、瞬きをするように、呼吸をするように、何も意識しなくても魔力は流れているらしい。その流れを意識的に操作するのは、五感を超越した第六感とも言えなくもない気がするとのことだ。
「私が魔力を外に出せるようになったら、エルさんがやったみたいに手を繋いでアカの魔力を気付かせてあげるね」
「そこまで差がついちゃう前に私も追いつきたいなぁ……」
同じ立場からスタートしたのにヒイロだけ順調で自分は落ちこぼれていたら立つ瀬が無い。そうならないために頑張らないとと決意を固めた。
◇ ◇ ◇
翌日以降もエルに手伝って貰うものの、アカは自身の魔力を感じる事ができなかった。
そのまま数日が経過すると、焦りと不安はどんどん募っていく。「ルゥの時もかなり時間がかかったから、気にしなくて大丈夫」と言ってはもらえるけれど、一方でヒイロは瞑想によってだいぶ魔力の操作に慣れてきた様子であることを思えば穏やかではいられない。
なるべく平静を装っているとはいえ、どうしても空元気に見えてしまうのだろう、順調なはずのヒイロまで徐々に表情が翳る。そんなある夜のこと。
アカはいつものように、瞑想をするヒイロをぼんやりと眺めていた。いつまでたっても魔力が知覚できないし、いっそ魔力を扱わずに冒険者になった方がいいのではないか、そんな考えすら浮かんでくる。
いつも通り、小一時間の瞑想を終えたヒイロ。いつもはこのままそれぞれ寝床で就寝なのだが……。
「ねえアカ。私、もうしっかり魔力を体内で循環させられるようになったんだって。エルさんからお墨付きもらったの」
「うん、頑張ったね」
ヒイロが努力しているのは知っている。置いて行かれて悔しい気持ちもあるけれど、努力の成果に嫉妬するような自分では居たくない。
「それで、エルさんがアカにやってる、相手に魔力を流してそれで知覚して貰うってやり方。あれ、私がアカにやってみてもいいって」
「ああ、そうなんだ」
ベテランのエルがやってくれてもダメなんだから、付け焼き刃のヒイロがやっても効果は薄い気がするけれど、それでも協力してくれるのは単純に嬉しい。
「じゃあ早速お願いしようかな」
そう言って両手をヒイロに向けて差し出す。ヒイロはおずおずとアカの手を取った。
「よろしくお願いします」
「えっとね、ちょっと提案なんだけど……」
「ん?」
ヒイロは俯いて、呟くように続ける。心なしか顔が紅い。
「エルさんから聞いたの。手を繋いでそこから魔力を送る事もできるんだけど、もっと効率の良い伝え方があるんだって」
「そうなの? じゃあそれでお願い」
しかしより良いやり方があるならエルは何故手を繋ぐことにこだわったのだろう。もしかして危険が伴うのかしら? だとすれば多少効率は悪くても手を繋ぐやり方の方が良いのかな。
「えっとね、私は良いんだけど、アカは大丈夫かなって……」
「やっぱり危険があるの?」
「あ、危なくはないんだよ」
慌てて首を振るヒイロ。
「珍しく煮え切らないのね」
「ちょっと待って、心の準備がね」
スーハーと深呼吸したヒイロはよし、と気合を入れてアカの方を見る。
「えっと、手と手を繋ぐより粘膜同士を接触させた方が魔力を送る効率は二倍くらい良くなるらしいんだ」
ネンマク?
粘膜?
……っ!?
「そ、それってつまり……口移し!?」
「ちょ、声が大きいよっ」
「だって……!」
真っ赤になって慌てるアカ。一方でヒイロは、覚悟を決めた顔で真っ直ぐにアカを見つめる。
「それで、どうする?」
どうするって……。
どうしよう!?
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