空白に花束を

櫻井桜子

貴方に。

綺麗な花瓶があった。


いつのものかは分からない。


正方形の底面から伸びたガラスは、螺旋を描いてうねっている。

縁に行くほど白く、レースのように柔らかい曲線を描いていた。


映画のアイテムのような、小ぶりだけれど優雅で大袈裟なデザイン。


段ボールと梱包材のにおいの中に、からっぽの花瓶。


こんな花瓶には、きっと繊細な花が似合う。


ふわふわと揺れるカスミソウ、薄い羽のハマヒルガオ。

慎ましいスズランに、さんざめくネモフィラ。


想像するだけで、笑みがこぼれる。




「ふふ、素敵でしょう?」


お昼ご飯にオムライス。


テーブルにはチェックのクロス。


その上には花瓶。


綺麗な花瓶には、綺麗な花束を。


「ああ、」


貴方は、おざなりに返事をした。


花瓶に目を向けることもなく。


「 」


花瓶には花束を。


花束には水を。


からっぽの心には飾り物を。






花瓶の水を

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