第48話 エル学級がめざした運動会 6(フィナーレ)
※教頭として本部テントにいる
「エルフィーナ先生、今回の運動会は、6年生の活躍が話題になっているそうだよ……」
本部席で、通りかかった彼女に声を掛けた校長先生は、とても嬉しそうに見えた。
「ありがとうございます。でも、1組の子も2組の子も、そんなに競技でいい成績を上げてはいませんよ?」
エルは、謙遜でもなく普段通りに答えていた。ところが、校長の横に座っていたPTA会長が、ことのほか笑顔だったんだ。
「いやあ、君がエル先生か。……あ、すまん、すまん。子ども達がみんなそう呼んでいたものでな。私もそうそう呼ばせてもらってもいいだろうか?」
「ええ、もちろんかまいませんよ」
エルは、飛び切りの笑顔で答えていた。PTA会長は、6年1組に娘が在籍する保護者なんだ。
「娘がね、運動会前に言ってたんだよ。今回は勝つことが目標じゃないってね。私は言ったさ、6年間の締めくくりだから優勝を目指してもいいんじゃないかってね。……そしたら娘は “もっと大切なことを目指すんだって” 言うんだよ」
「大切なものですか……」
校長先生は、噛みしめるようにその言葉をもう一度自分でも言っていたんだ。
「私は、今日の運動会を見て、いや6年生の動きを見て、はっきりわかったような気がするよ。娘はね、今年になってから、よく2組の話をするようになったんだ。たぶんエル先生のお陰だろうね。いや、エル先生と協力してくれる6年生の先生みんなのお陰かな。……本当にありがとう」
PTA会長は、立ち上がってエルに心からお礼を言っていたんだ。
「ありがとうございます。……でも、もう少しお待ちいただけますか?それは、最後まで見ていただけると、きっとわかりますから。よろしくお願いいたします」
そう言って、エルは、また静かに子ども達の待つテントに向かって行ったんだ。
最後の競技、学年選抜全校リレーがこれから始まろうとしていた。
・・・・・・・・・・・・・・・
「私の子どもの頃からあったんだよ、この競技はねー。チーム分けは、今も同じですか?」
本部席で、PTA会長は、少し興奮気味に校長先生に尋ねていた。
「そうですね、1組が赤、2組が白に分かれて競走しますが、赤は赤と黄と茶、白は白と青と緑、合計6チームで競います。学年選抜ですので、それぞれ学級から1名、学年で2名ずつのリレーになり、最後は6年2組がアンカーとなります」
校長先生は、いつものように淡々と説明していたが、その横にいる僕の方が、もうドキドキしていたんだ。
「やっぱり同じなんだなあーー。そう、応援も全校で、力が入るんだ。それぞれ、赤と白の優勝がかかるから、走る方も、応援する方も、自分のチームに勝ってほしくて白熱するんだよなあ~~………思い出すな………私も、6年の時、リレーのアンカーでね………」
PTA会長は、楽しそうに話していたが、最後は晴天の空を眺めながら、遠い記憶をたどっているようだった。
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選手の入場が始まった。
「みんなー楽しく走ろうなーーー」
6年2組、白のアンカー、
バトンリレーごとに別れ、グラウンドの所定の場所についた。エルは、掲揚塔のてっぺんで祈っていたんだ。
全校児童が、グラウンドの周りに集まり、息をのんだ。
『位置に付いて よーい バン!』
スターターピストルの空砲音が響くとともに、グラウンドに声援の渦が沸き起こった。
「赤バトン頑張れ!!」
「黄色バトン、行けーー」
「青バトン抜かされな―」
「白早くー」
「緑バトン……インコースを取れーー」
「茶バトン、今だ抜かせ―」
など、それぞれのチームを応援する声援がグラウンドを飛び交った。
『只今、赤バトンが3年2組から4年1組へ渡されました。引き続き、白バトンも4年2組へ……』
レースの状況をアナウンスする、やっぱり子ども達の頑張りがここでも見られた。
『現在1位赤バトン、黄色バトン、白、青、茶、緑となっています……まだまだ逆転は可能です……どちらもがんばれ、がんばれ……』
アナウンスの子もアドリブを入れながら、公平に応援を繰り返していた。
レースも中盤を過ぎれば、観客も一段と声が大きくなったが、自分の仲間が走っている子ども達の応援は大人を圧倒するほどだった。
『……あ!先頭の5年白バトンが抜かされる、抜かしたのは赤バトンだ!!』
その瞬間、応援は一段と白熱し、
「赤………」
「白………」
などの自分のチームを応援する声がグラウンドを埋め尽くした。
『……いさあ、いよいよバトンは、最終走者6年生に渡されます……』
と、アナウンスが入った瞬間だった。
グラウンドの応援が変わった。一段と声が大きくなった。でも、その応援は、すべて同じ声援に変わったのだった。
「ありがとう!!!6年生~、がんばって~6年生~」
全校の応援が、リレーで走っている6年生を通して、この運動会で他の学年を支えたすべての6年生に向けて送られる声援に変わったのだった。
走っている6年生は、一段と力が入った。着順は、関係なくなった。グラウンドにいることだけが、優勝になった瞬間だった。
ゴールテープをくぐりながら、勝君は思ったそうだ。
「ありがとう……みんな…………そして、エル先生!」
勝君は、掲揚塔のてっぺんをそっと見上げていたんだ。
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「校長先生、私は間違っていましたよ。協力していのは、みんなだったんですね。エル先生は、私達みんなに素敵な夢を見せてくれたんですね……」
「あなたにも、見えましたか……それはよかった」
2人は、しばらくグラウンドに鳴り響く拍手を聞きながら、真っすぐに前をただ眺めていたんだ。
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「直人?……どうしたの?」
エルが、本部テントの裏で泣いている僕に近づき、声を掛けてきたんた。
「………ん、うん……うれしくてさ……ちゃんと見てたよ……エル……すごかったよ……よくやったね、君の子ども達は最高だよ!」
泣きながら笑顔になっていく僕は、エルの顔を見ると益々嬉しくなってきたんだ。
それを見た、エルも安心してこう言ったんだ。
「よかった!やっぱり、直人も笑ってる!良かった!……さあ、閉会式よ」
(つづく)
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