第27話 閑話 6 ~エルフィーナと給料日~
「本日は、給料日なので明細を確認したら、封筒は事務まで戻してください」
「そっか、21日か……4月は早いよね……」
職員室では、あちこち同じ会話が聞こえてくる。
・ ・ ・ ・ ・
「ああー、エル先生、封筒はリサイクルね……来月もまた使うからね……」
自分の机上で、茶色い個人の名前の書かれた封筒を受け取ったエルは、説明を聞いても全く意味が分からなかった。もちろん、中身を見ても何のことなのかさっぱりだ。
エルは、なんだかつまらなそうな顔をして、給料袋ごと僕のところへ持って来た。
「今月分の報酬らしいので、
そう言うと、ポンと机にそれを置いた。
僕は、びっくりして、慌てて周りを見て、その封筒をエルに返した。
「ダ、ダ、ダメ、ダメ……そんなことしたら……」
エルは、不思議そうな顔をして、僕に聞いてきた。
「この薄くて、小さな紙がそんなに大金なのか?
この間、お母様と買い物した時だって、もう少し大きな紙を使っていたぞ。
それになあ……ギルドだったら、金貨とか銀貨をくれるぞ……」
僕は、自分の給料袋から明細を取り出して、エルに小さな声で説明を始めた。
「これはね、給料の金額が書いてあるの。ギルドだと、金貨が何枚で、銀貨が何枚とかというふうにね。そして、実際の金貨や銀貨は、銀行に預けてあるから、エルは、自分でハンコをもって行けばもらえるんだよ。まあ、キャッシュカードっていう便利なものもあるから、後で教えるけど……」
「……そういえば、最初にこの世界に来て、直人のお母様と買い物した時、“銀行”というところに行ったな。
ああ、あの時作った“ハンコ”というものを今でもいろいろ使っているぞ。毎朝、学校に来た時、出勤簿とやらに押しているな……そうか……金貨は……銀行にあるのか……」
だんだんとわかって来たのか、エルの顔が明るくなり、給料袋を大事そうに持つようになってきた。
「……そういえば、この服の代金を直人のお母様に払わないといけないな……いろいろ買ってもらったからなあ」
「ああ、それはいらないって言ってたよ。なんか、嬉しいからプレゼントするってさ。
ありがたくもらっておいてくれないかな、そうすれば、お母ちゃんが喜ぶから……」
「……うん……わかった。
あと、下宿代を払えば、ご飯も食べさせてもらっているし、寝るところもあるし、服ももらったので…………別に給料とやらは、いらないから、やっぱり直人にやるよ……」
なぜか、エルは嬉しそうにニコニコして、やっぱり給料袋を覗いていた。
慌てて僕は、エルに提案した。
「もう少しで、学校も休みになるから、買い物に行くことにしよう、なあー。
そこで、エルの好きなものを買えばいいからさ、給料はしっかり自分でもっていなさい……」
それを聞いたエルは、しばらく黙って考えていたが、何か思いついたらしく、笑顔で僕の耳元でこんなことをささやいた。
「私、買い物もしたいけど、行きたいところもあるぞ……直人、休みになったら連れて行ってくれ……お願いだ」
「……ああ、わかった、わかった。
今は、早く明細だけしまって、袋は事務のところに返しに行くんだよ。いいね!」
「わかったよ」
エルは、上機嫌で自分の机のところへ戻って行った。
そういえば聞くのを忘れてしまったな。どこへ行きたいんだろう?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
これでひとまず“閑話”は、終了です。次話からは、また続きのお話になります。
いよいよゴールデンウィーク突入です。エルフィーナは、何やら大きな目的ができたらしいのですが……。どこへ行きたいのでしょうか?
(つづく)
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