第5話 ところ変われば、エルフも人材活用! 2 (エルフィーナの魔法)

「おや?素田すだ教頭先生。何でそんなに暗い顔してんの?」

 

 校長が、能天気に話しかけてきた。




「さては、合コンとか苦手でしょ……ダメヨ……管理職はね、そういう力量も必要なの」


 さすが行き当たりばったりのおおざっぱ人間だ。本当に細かいことを気にしないようだ。




「……そんなこと言っても……今は、合コンとか関係ないと思うんですけど……」

 僕は、ムッとして、言い返した。




「そんなことないよー…………例えばさ~、ねえ、彼女~、あなたはエルフさんでいいのかな~」

 

 校長は、彼女に向かって軽~く、話しかけた。




「我は、正真正銘のエルフだ」


「へー、やっぱりそうなんだ~。

 いやあ~私は嬉しいな~夢が叶ったよー、僕の夢だったんだ。

 僕の夢が叶った、叶った、ありがとうー、ところで、お名前は何て言うのかな?」


「我は、エルフィーナ。エルフのエルフィーナだ」


「そっか、エルフィーナちゃんだ。

 ところで、エルフって、不老不死って聞いたけど、エルフィーナちゃんは、何歳なの?」


「……なあ、その……“ちゃん”っていうのは、やめろ。エルフィーナでいいよ」


「ああ……わかったよ、エルフィーナ、歳を教えてくれるかな?」




「225歳だ。

 それにな、エルフが、不老不死っていうのは間違っているぞ。

 ある程度まで成長したら老化しないというのは本当だが、1000年ぐらいが寿命になっている。

 それから、エルフだって死ぬことはあるんだ……不死じゃないんだよ……」




「そうなんだ……知らなかったとはいえ、ごめんよ」



 なぜかエルフィーナは、今まであれだけ感情を表さなかったのに、エルフの死について話したとき、暗い顔になったな。




「ね、素田教頭先生、こうやって相手のいろいろな事を聞きながら、コミュニケーションをとっていくんですよ」


 口も心も硬そうだったエルフが、いい加減な校長の話術に乗ったような形でいろいろしゃべりだしていったことに、僕は少し驚いた。

 エルフも知らない世界に来て、緊張していたのかもしれないと、推測してみたりしたが、よく分からない。




「素田教頭先生は、聞きたいことありませんか?」


「あ、えー……あのう……僕は、夕べ少し勉強したんですが……エルフさんて、魔法を使える人🧙もいますよね。

 エルフィーナさんは、魔法を使えますか?」




「……我の魔法は……つまらないんだ。

 ……我の世界は、争いが多く、ギルドの依頼も争いの手伝いばかりだ。

 我は、戦いは苦手だ。

 我の魔法も戦いには向かん。


 だから、ギルドでは役立たずと言われていた。

 でも、この依頼書には、戦い以外の依頼が書かれていて、増して報酬が、安全や安心だ。


 目を疑ったぞ。

 そんな報酬があるわけがないと思って手を伸ばしたら、召喚されてしまったのだ」




 校長が“ギルドのお仕事依頼書”を彼女から受け取って見ていた。


「確かに、他のとは内容が全然違いますな。……それにしても、やけに汚いですね。

 素田教頭先生、派手に汚したものだ。よくもこんな汚い物、手に取ろうと思いましたね」




 するとエルフは、身を乗り出して“ギルドのお仕事依頼書”を自分の手元に取り戻して、大事そうに眺めながら言った。




「これでも、ギルドには毎日通っているんだ。

 依頼書が汚れているということは、それだけ一生懸命に書いたということだ。

ギルドの依頼書は、命がけなんだ。

 受ける方も、頼む方も、中途半端は許されないんだ」



 確かに夕べは、本を読んだ後に、どうすれば助けに来てくれるか、本気になって考えたもんな。

 はじめは信じていなかったんだ。…………ん~書いている時も信じてはいなかったけど、ギルドの依頼書は本気で書いたような気がする。だから、書き上げた時に、意識がなくなってしまったんだなあ。



「あ!でも、エルフィーナさん、最初は言葉が通じなかったのに、何か光のようなものが出て国語辞典の周りを飛んだときから、言葉が通じるようになりましたよね。

 あれは、魔法じゃないんですか?」




「あれは、妖精だ。

 お前達からすれば魔法かもしれないが、魔法じゃないんだ。エルフは、妖精と仲良しだ。世の中の物には、みな妖精が住み着いているんだ。

 さっきは、この世界の言葉の妖精が住み着いていた本だ。

 あの妖精に、言葉を教えてもらったんだ」




「そっか、国語辞典の妖精だから、少し言葉が硬いんですね」

「……そうなのか?……」


「今度は、もう少し、優しい本を貸しますよ……」

「ああ、いろいろ貸してくれ」



 エルフィーナが笑ったように思えた。


 ただ、僕には、その時、エルフィーナの背中にほんのりと薄く上下に2枚ずつの光も通す羽が見えたような気がした。




 ただ、瞬きを繰り返しているうちに、気配すら感じなくなってしまった。もちろん、校長は、羽などにはまったく気が付いたふうもなかった。





「じゃあ、他に魔法が使えるんですね」


 僕にすれば、日常生活の中で、魔法なんて夢の世界のお話だ。それが、実際に使えるなんて、とてもすごいことだと興奮するようで、とても嬉しがっているように見えたんじゃないかな。

 ただ、エルフィーナは、魔法の話をしても一向に楽しそうではなかった。エルフィーナにとって、魔法は、日常で、何のイベント感も高揚感もないんじゃないかと、僕はその時、勝手に思っていたんだ。




「我の魔法は、無意味なんだ……ただ、夢をみせるだけなんだ……」


 あんなに凛としていたエルフィーナが、うなだれたまま話し出した。声も小さくなった。



「戦いには使わない……はずだ……だから今まで使ったことがないんだ」

「え?200年以上も」

「うん……使わなくても……平気だった……だって我には……夢のような毎日があったから」




 彼女は、何かを思い出しているようだった。


 確かに、“夢を見せる”魔法は、人を幸せにするのかもしれない。でも、きっとそれ以上に自分が幸せで、そんな必要がなかった時代が長かったのだろう。




「ねえ、エルフィーナさん、その魔法をいつかこの世界で見せてもらえるかな……」

 僕は、静かにお願いしてみた。



「……使える時にはな……」


 彼女は、まだ悲しそうに…………でも、そう答えてくれた。



(つづく)

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