第30話 よろしい、ならばぶっ潰す

 ヒルトの疑問は、何も知らなければそう思うかもしれない。

「預言の書とは違うよ。登場人物の名前や、大まかな流れは似ているっていう程度で、僕の性格やアインホルン公女の立場なんかも、その物語とはまったく違うからね」

 僕の説明に、ヒルトはなるほどと、小さく頷く。


「さっき僕は、王子様と町娘の恋物語と、王子様と町娘が恋をして、蔑ろにした婚約者がやり返す物語を例に出したよね? 最初の話をA物語として、やり返した話をB物語としようか? アインホルン公女はA物語を愛読していた、でもこの世界はアインホルン公女を主人公にしたB物語に近い現象が起きている。ただしここで誤解してほしくないんだけど、アインホルン公女はこの世界はA物語に近い世界で、しかし流れはB物語になるように進んでいるが、自分は主人公ではないということを理解しているし、そんなことはしたくないと望んでいる。では誰が、B物語になるように導いているんだろうか? ってことなんだ」

「誰が……?」

「お待ちになって。誰かが、本来あるべき道筋を捻じ曲げていると、アルベルト様は仰せになりますの?」

 ヘッダの問いかけに、僕は静かに頷いた。

「考えすぎかなと思ったんだけどね、シルバードラゴンの話を聞いて、ますますそう思ったよ」

「リーゼロッテ様のことか?」

「うん。初代の魂が異世界へ飛ばされて、シルバードラゴンとマルコシアスの盟約が切れちゃった隙を突かれて、母上は国王陛下に一目惚れして、傍にいたいとか妻になりたいとか、女神ウイステリアに誘導された。それを考えるとね、国王陛下の傍にいた人たちが、B物語に出てくるような残念な王子様になるみたいに、僕の人格を歪めるような接し方をしていたのは、誰かの作為があったんじゃないかと思わない?」

 僕の話に、ネーベルとヒルトもはっとした顔をする。

「六年前のアルの身に起きていたことも、女神ウイステリアの介入があったって事か」

「それどころか、アインホルン公女とのこともだね」

 アインホルン公女の名を出したら、ヘッダがピクリと反応する。

「全部が全部、女神ウイステリアのせいってわけじゃないかもしれない。だけど、僕の周囲に不穏なことが起きるたびに、それはまるでアインホルン公女を主人公にするかのような流れになってるなぁって思うんだ」

「言われてみればそうだな。王宮でのアルに対する不遇は、婚約破棄をする考えなしの王子を作ろうとした、って感じだし」

「アインホルン公女を狙った誘拐は、アルベルト様と公女を危険な目に遭わせて、二人にお互いを意識させて、好意を持たせるようにするため。だったのかもしれませんね?」

「もしくは、公女に怪我など負わせてしまっていたら、責任を取るという形で、婚約を結ぶ流れになったかもしれませんわ」

 最後のヘッダの言葉に、僕とネーベルとヒルトは、あっと声をもらす。

 確かに! それはありえたかも! 特にほら、そういうことを言い出す人が、僕の近くにはいるじゃないか。

 この国で一番偉いあれが、そういう事考えるだろう。それでもって王命を出しかねない! 

「そこは考えてなかった~」

 頭を抱えて呻く僕に、ネーベルが慰めるようにポンポンと背中を叩き、ヒルトが恐る恐ると言った様子で頭をなでてくる。うぅ~、二人の優しさが身にしみるわ。

 二人の優しさに身をゆだねていたけど、すぐにはっと思いついてしまった。

「いや、もしかしたら、もうそういう話が出ていたかもしれない」

 顔をあげる僕に、目の前に座っているヘッダが笑みを浮かべながら口を開いた。

「あり得ますわよねぇ? アインホルン公女に精神的苦痛を負わせた賠償とか何とか。言い出しそうですわよねぇ?」

 それも、誰が、とは言わないけれど、言い出しそうだよね。それでもってその言葉に娘可愛さで食いつく方がいるよねぇ?

「王都に帰ったら王妃殿下と宰相閣下に確認する」

「もう過ぎたことですけれど、引きずりますかしら?」

「大人はやるよ? 忘れたようなことを持ち出して、あの時はああだったから~っていうの、やるよ?」

 特に国政に関わるような貴族はね。まぁ、これは帰ってからの課題にしよう。

「ともかく、これで僕の方針は固まった」

「方針?」

 首をかしげるヒルトに、うんと僕は頷く。


「僕の敵は、女神ウイステリアだ。彼女の目論見を片っ端から潰しまくる」


 ネーベルは僕の考えていることに気が付いていたのか、だよなぁっていう顔をし、ヒルトは、他宗教の神に喧嘩売って大丈夫かって様子で、ヘッダはあらあらまあまあと、やっぱり目を輝かせる。

「と、言っても人間の僕が出来ることなんて、たかが知れてるんだけど! でも成人するまで、女神ウイステリアの起こす現象を潰していけば、後は大丈夫な気がする! だって僕、王族じゃなくなるし!!」

 力を込めてそう言うと、あぁ、なるほどと三人が頷く。

「女神ウイステリアは、もうすでに僕の母上に手を出してる。たぶん……国王陛下と王妃殿下の結婚だって干渉があったと思う」

 元の婚約者の婚約破棄の後に、あれが公開プロポーズかましたのは、絶対、母上に対しての仕込みだろう。

 あの女神、あれ並みに余計なことしかしやがらねぇな。

「現にアインホルン公女を中心にして、公爵家にまで波紋が広がっておりますわよね? なんでしたっけ、アルベルト様が昔仰っていたアインホルン公女の魅了、だいぶアインホルン公女の周囲の殿方は盲目状態になっておりますし、あれは女神ウイステリアの仕業ですわよね?」

 そう、それもある。

「注意するべきなのはイグナーツとその周辺。それからアインホルン公女の……、こんな言い方は酷いかもしれないけれど、制御は必要だ」

「そのための派遣でしたもの。そこはお任せくださいませ」

 頼もしいなぁ。

 今までさんざん僕の周辺をひっかきまわして、僕の将来まで自分の思い通りにしようとしている、女神ウイステリア。

 おめーが何を企んでいようが知ったこっちゃねーわ。

 僕に喧嘩を売ってきたのはおめーだからな。おめーが望む展開は全部ぶっ潰してやるから、心に刻んどけよ。






■△■△■△

王子様フルフトバールに行く編はこれで終了となります。

本日同時投稿で登場人物紹介あります。

次回から最終章その一となります。最後までお付き合いお願いします。


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