第11話 宿題出すから、ちゃんとやってきて

「それで、アインホルン公女は、どうしたいの?」

「え? どう?」

「僕にバレちゃったわけだけど、今も僕に『ざまぁ』をやりたいの? っていうか、する気あるのかな?」

 僕の問いかけに、アインホルン公女は自分が何を言ったのか思い出したのか、がくがくと震えながら僕を見る。

「僕に『ざまぁ』をやって、そのあとどうするの? そりゃぁ、小説だったら、『悪役令嬢』に言いがかりつけてきた、浮気者の婚約者はざまぁされて、酷い目にあって、主人公の『悪役令嬢』はイケメンで素敵なヒーローからプロポーズされて結婚して幸せに暮らしました、おしまい。になるけど、ここは現実世界だから、そうはいかない。婚約者でもない僕を『ざまぁ』して、さぁ、どうなるかな?」

「どう……」

「マルコシアス家が、フルフトバールが黙ってそれを受け入れる、なんてことにはならないよね」

 何を言ってるんだって表情で、アインホルン公女は僕の顔をみてくる。

「僕は成人したら、アルベルト・マルコシアスになる。いずれ、マルコシアス家の当主になるってことは、不帰の樹海の管理者たるフルフトバール侯爵を引き継ぐってこと。その意味を理解できないってことはないよね?」


 フルフトバールが保有している軍は、魔獣狩り専門の軍だけど、でも『戦争』ができないってことじゃないんだよ。対人は得意じゃないけど、人だと思わず魔獣だと思えばね、普通に戦争するよりも惨たらしいことになる。

 何よりも、元凶とその関係者が物言わない状態になれば、わざわざお金がかかる戦争なんてしないで済むんだよね。

 アッテンティータを臣下に持つマルコシアスはそれが出来るんだけど、アインホルン公女は、よくわかっていない様子だ。


 あー、つまりこれは、僕の母上の実家がどんな所か調べてないと見た。知らなきゃそんな危機感もありゃしねーわな。

「了解、了解、よくわかったよ。じゃぁ、こういう聞き方にしたほうがいいか。僕を『ざまぁ』したあと、アインホルン公女は、イグナーツと結婚するの? どうやって?」

「どうって……」

「君は知らないけど、あの子、結構なブラコンだから、ここで君が僕の悪口をイグナーツに吹き込んだとしても、あの子……、ちょっと想像できにくいんだけど、怒ると思うんだよねぇ」

 ネーベルとヒルト嬢の二人と、運動やら勉強やらしてるのを知ったら、嫉妬して凸してきちゃうんだから、アインホルン公女が僕の悪口吹き込んだくらいで、それを鵜呑みにするかなぁ?

 イグナーツくんはそんな単純おバカじゃないよ?

「少なくとも、アインホルン公女のことは、眼中に入れなくはなるかな。だって現段階で、君のことかなり警戒してるからね?」

 公女の思惑を知らなかったのに、あれだけ警戒していたんだから、イグナーツくんは、そういうことには、かなり勘が鋭い。

 用意されていた乳兄弟や側近候補に、イグナーツくんが関心を示さないのは、なんかあるんだろうなぁ。実際、なんのためにいるのって感じだったしねぇ? やっぱイグナーツくんの乳兄弟や側近候補たちのことは王妃様と宰相閣下に報告しておこう。


「わ、わた、し……」

 イグナーツくんのことを考えていたら、アインホルン公女は大粒の涙を零していた。

「そ、そん……なの、」

「小説の最後の二・三行で結末が書かれてるような、うまくまとまって終わりの世界じゃないんだよ。この後どんなことになるか、ちゃんと考えていて、その責任を持つ覚悟は持ってるんだよね?」

「覚悟」

「内乱が起きる覚悟だよ。フルフトバールにアインホルンが蹂躙される覚悟」

 そーいや、あれも自分の元側近たちのやらかしについて、たいしたことないって考えてたよなぁ。なんであんなお気楽って言うか、軽く物事を考えてたんだろうね? 死人が出ないから、大事にならないって考えだったんだろうけど、僕を殺さなくても、やったことの度合いを考えれば、誰かが責任取って首を吊らなきゃ収まらんだろって話なのに、そこまで考えてなかった。

 アインホルン公女も同じだ。

 僕に『ざまぁ』をやらかした後のことを全く考えてない。

「内乱?! なんで、そんなこと……っ」

 黙ってアインホルン公女を見つめていると、公女は途中で口を閉ざす。

 たかが『ざまぁ』をやった程度で、そこまで起きるはずがないと、そう思っているのか。はたまたそこまでの考えが至っていないのか。

「起きないと思ってる?」

「だ、って、そんなの……、知らない」

「そっかぁ、知らないかぁ。困ったねぇ」

「私はただ、小説みたいにかっこよく『ざまぁ』して、それで、皆が羨む相手と想い合って、それでっ」

「それで?」

「……お、おわり、じゃ、ない」

「終わりじゃないね」

 だって生きてるんだから。

 そこで人生終わりってわけじゃないでしょ?

「宿題にしようか?」

 僕の言葉に、アインホルン公女はまばたきを繰り返す。

「今日の謝罪。君は自分の知ってる小説と、この現実世界の差異に気が付いた。そして、瑕疵のない僕の悪評の原因が自分の行動から起きたことで、何よりも王族に対してそれをやらかしたらアインホルン家そのものに咎が行くと思ったから謝罪に来たわけだよね」

 本来の流れはこれだったんだよなぁ。

「でも、君の本音のところは『ざまぁ』に憧れていたし、やりたかった。このラーヴェ王国の情勢や、二公四侯が何を担っているのか理解しない中、君は僕を『ざまぁ』したかった。そのあとどういう結果になるのか、考えずにね」

 いくら転生者で、見た目通りの年齢の子供じゃないと言ったって、やってることは本当に、小説や知っている状況に自己投影して夢見てるんだもんなぁ。危なっかしいったらありゃしねぇ。

「全部の貴族とは言わないよ。まずマルコシアス家とフルフトバールの役割。そして四年前、王宮で何があったのか、こっちは君の父君に聞けばいいし、もっと詳しいことが知りたければ宰相閣下に訊ねればいいよ。僕のほうから連絡入れておくから」

 理解しないまま謝罪したってね、アインホルン公女は自分が何を仕出かそうとしたのか、実感しないと思うんだよ。


「そういうの全部勉強してきてくれる? 理解した後に、もう一度面会の場を設けよう。 今回の謝罪は保留にしておくから」


 アインホルン公女はさ、ちょっと夢見がちなところもあるけど、どっかのあれとは違って、情勢とか貴族間の拮抗とかを学べば、ちゃんと先のことを考えられると思うんだよね。

 だから自分が何をしようとしたのか、それでどんなことが起きるのか、ちゃんと勉強してきてほしいわ。





■△■△■△

近況ノートに今回の話とコメントに関しての注意を書かせていただいております。

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