第10話 やべー執事とやべー侍女も一緒に残留

 シルトもランツェも、配属された当初から分をわきまえた態度で、遊び相手というよりも、子守りの意味合いのほうが強かったと思う。

 基本は普通に子守りなんだよ。

 僕が何処に行こうとも、止めずに黙ってついてくるし、行先に怪我をするような危険物があればあらかじめ排除しておくし。

 かといって、置物のように何も言わないで付き従ってることはなくって、この花は○○という名の花で、処置次第では薬草にもなるとか、あっちはなになにがある場所だとか、ぼんやり状態で聞いているのかいないのかわからない僕に、あれこれ教えてくれたわけだ。

 そんな感じで、母上のことやマルコシアス家のことも教わった。


 ただこの二人、僕が寝るときに、寝かしつけの読み聞かせをしてくれるんだが、それがどこから持ち出したのか王室典範。しかも解説込み。


 やばくないか?


 母上の話やマルコシアス家のことを教えてくれたのは感謝する。

 でもラーヴェ王国の王室典範は、王城の図書館からは持ち出し禁止のはずだ。

 それをどうやって持ち出した?

 考えれば考えるほど、この二人がただの使用人とは考えられない。だってあの執事の爺さんの孫だし。


「あのさ、一応確認しておくけど、王室典範、元の場所に戻してるよね?」


 王室典範がなくなったという話は聞いていない。騒ぎにもなっていない。この二人がそういうへまをするとは思えないけれど、綱渡りみたいなことはやめてほしい。

 倫理的な意味合いではなく、僕の精神的な安寧のためにだ。


「あれはもうアルベルト様も学習なさっておりますので」

「すでにお戻ししています」


 シルトは愛想よくにこやかな笑顔を常に浮かべ、ランツェは鉄壁の無表情で答える。

 僕が胡乱げな視線を二人に向けても、まったく気にしていない。

 得体の知れなさはあるけど、僕に対してはちゃんと尽くしてくれてるし、信用しても大丈夫、かな?


「ところで二人は母上と一緒に引き上げないの?」

 あの執事の爺さんと母上の傍にいた侍女は、とっくにこの宮から撤退している。

 今までこの宮で働いていたマルコシアス家の使用人たちは、庭師のおっちゃんと料理長以外は入れ替わりになった。

 ほら結構長い間、母上に付き従って、フルフトバールから離れていた人ばかりだから、母上がおじい様のところに帰るなら、それに付き従ってくれた人たちも家族の傍に帰してあげようってことらしい。

 だから使用人は総入れ替え。庭師のおっちゃんと料理長は、僕の傍で働きたいという本人の希望で残留するそうだ。

 そんなわけでこの双子も引き上げると思ったんだけど、そう言った様子が全く見えないので訊ねたら。


「私どもはアルベルト様のモノでございます」

「どこまでもアルベルト様のお傍に付き従わせていただきます」


 なんて言う返事をされてしまった。

 お、重ぉ~。

 僕のモノって、なんだそれは。あの執事の爺さん、孫に何を教え込んだ?

 っていうか、もしかしてこの二人って僕の専属なのか? この様子だとそうなんだろうなぁ。

 二人を見ると、先ほどと変わらず、シルトは笑顔でランツェは無表情。

 訊ねたいことは山ほどあるけれど、でもそれは全部聞いたところで無意味なような気がする。

 だから、とりあえず……。


「そう、まぁ、よろしく頼むよ」


 ほどほどにね。

 そんな僕の心の声を察してか、二人は同じタイミングで、シルトは右手を胸に当て頭をたれ、ランツェはカーテシーをした。


「「ありがたき幸せにございます。わが主君」」






■△■△■△

これにて王子様覚醒編は終了となります。

本日同時投稿で登場人物紹介をしています。

次から新章開始です。

そして、執筆に集中したいので、しばらく応援コメントの返信を止めます。大変申し訳ございません。


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