ざまぁフラグが立ってる王子様に転生した

王子様覚醒する

第1話 ざまぁフラグ立ってる気がする

「なんで!! どうして陛下はあの女ばかり!!」


 かな切り声とともに、ガシャーン!! と派手派手しく何かが割れる破壊音。

 ぱちりと瞬き一つ。

 もとは豪奢であっただろう一室は、嵐が起きたかのように、あちらこちらに破損された物が散らばっている。

 もう一度瞬きをし、自分の両手に視線を落とす。

 小さな、幼子のような、白く柔い手。握って開いてを繰り返し、そして、割れた鏡に映し出される僕の姿は、銀髪に銀眼の幼い子供。


(うん、やっと、思考と肉体が繋がった。でもこの記憶、僕のものだったのか? これって転生? それとも憑依?)


 この部屋の中で暴れまわっている女性は、僕の母親だ。

 この惨状に誰も口出さず、そして窘めないのは、あれが……あそこで暴れまわっている女性が、この国の側妃であり、下手をすれば、あの癇癪に巻き込まれるからだろう。


 いや、それでも止めろよって思うけど、あのヒステリーでの破壊行動は日常茶飯事だし、この部屋はそのためだけにあつらえている。ついでに壊される物も、新鋭芸術家やら職人の失敗した作品で、彼らが壊そうとしたものを買い取って、この部屋に置いてあるのだ。

 いわゆるガス抜き。このヒステリーは長く続くことはなく、物を一・二個破壊した後は、大泣きして終了する。

 だけど、下手をすれば暴れてる最中で怪我するかもしれないし、あと片付け大変じゃないか。

 漏れ出るため息を押し殺し、僕は泣きわめきながら暴れている母親に声をかけた。


「母上」


 僕の呼びかけに、母親……母上はぴたりと止まり、そしてゆっくりとこちらに振り向く。

「母上」

 両手を差し伸べて呼びかけると、振り回していた椅子を手放し、母上は僕に駆け寄り抱きしめる。

「アルベルト! わたくしの可愛いアルベルト!!」

 そして母上はむせび泣く。

「ごめんね。ごめんなさいね。不甲斐ないお母様を許して」

 感情の起伏が激しい人だなぁ。

 でも、仕方がない。僕の父親である旦那がな、諸悪の根源だから。

 慰めるように母上の金色の髪をすきながら、部屋の入口にいる使用人、侍女に濡れたハンカチを持ってくるように告げ、従僕それとも執事だろうか、部屋の片付けを指示する。

「母上、このような薄暗い部屋では、気が滅入るものですよ。もっと明るい部屋に移動しましょう」

「えぇ。えぇ、アルベルト。そうね、貴方がそう言うのなら。香りのいいお茶が飲みたいわ」

 少し落ち着いたであろう母上の手を引き、テラスのある部屋へと移動した。





 僕の名前は、リューゲン・アルベルト・ア゠イゲル・ファーベルヴェーゼン・ラーヴェ。

 リューゲンがファーストネーム、アルベルトがミドルネーム、ア゠イゲルというのは王家の一番目の子という意味で、ファーベルヴェーゼンというのが現王朝、つまり王家名。ラーヴェは王国名だ。ついでに年齢は六歳。


 ラーヴェ王国の第一王子が僕なわけだが、母親は王妃ではなく側妃である。

 母上は侯爵家出身で、今の国王陛下が王子殿下時代は、婚約者だった。

 婚約者であったにもかかわらず、なぜ王妃ではなく側妃になったかと言えば、国王陛下、僕の父親なんだけど、隣国に留学中に、その国の王家の血を引く公爵家の姫君に一目惚れして、双方の国の外交的にも利があるから、そのまま婚姻が結ばれたからである。

 で、そうやって隣国から娶った王妃様には、なかなか子ができず、元婚約者であった母上を側妃に入れて、僕が生まれた。

 しかもだ、母上が僕を妊娠した後に、王妃様のご懐妊が判明。

 ついでに言えば、生まれたのは男。

 ここまでは、どこの国だって、こう言うタイミングの悪さはよくある話なんだけど、問題は、国王陛下の側妃と側妃が産んだ子供に対する対応の悪さ。


 一目惚れして娶った王妃様が大事なのはわかるよ? その人の産んだ子供のほうが可愛いもんね。

 でも、おめー、先に生まれた子供とその母親を放置って、どういう神経してんの?

 しかもその子供の母親は元婚約者で、お前のために王妃教育まで受けて、いろいろ尽くして頑張ってた人なわけよ?

 いや、ほんと。屑野郎だよな、僕の父親。国王だけど。


 母上と国王陛下の婚約は、当時の時世的なこともあるし政略であるのは確かだろうけれど、それでも母上は婚約相手に心を向けて尽くしていた、はず。

 でなきゃ一度流れた婚約相手の側妃になるわけがない。

 母上の実家としては、王家の都合で婚約者にされて、今度は国王陛下(当時は王太子)の都合で婚約を白紙にされたうえに、極めつけは王妃様に子供出来ないから側妃にあがれって、そりゃねーだろーって話だ。

 あ、ちなみに母上の実家である侯爵家は、母上だけしか子供がいなかったから、本当なら母上に女侯になってもらうか、婿を取って娘の代わりに侯爵家を切り盛りしてもらうかしなくちゃいけなかった。

 でも母上がさぁ、思った以上に国王陛下に惚れててね、婚約者になるのも側妃になるのも喜んで受け入れちゃったんだよね。

 そしてこの現状だ。


 あれ? なんかこれって、どこかのお話にありそうなテンプレじゃないか?

 国王陛下から邪険に扱われる側妃を母親に持つ王子様が、自分は愛されてないとかなんとか拗ねまくって、あれは嫌だこれは嫌だ我儘放題に成長した挙句、学園の卒業式で、国王陛下が王命で決めた、家柄も容姿も性格も完璧な婚約者の令嬢に婚約破棄を突き付けて、ご立派な人格者な弟王子に婚約者を横取りされて、ざまぁされる王子様。


 いやいや冗談ではない。

 冗談ではないけれど、僕の周囲ってどうにも不穏なんだよね。

 その一番の要素が国王陛下なんだよ。


 だって第一王子ほっぽって、王妃様との間に出来た第二王子の教育に力を入れてるわけじゃん?

 王位継承権は僕のほうが上だけど、国王陛下は王妃様の子供に、自分の後を継がせたいんでしょ? だってロマンス満載な恋愛からの結婚だもんね。

 そんな相手と作った子供のほうが可愛かろうよ。王位にだって就かせたいよね?

 でなかったら、母上はともかく、王位継承権第一位の僕を放置なんてありえない。

 王妃様との間の王子を国王にしたいなら、僕、用済みじゃない?

 しかも、王妃様はちゃんと子供産めるってわかってるんだから、スペアも王妃様と作ればいいじゃない?

 思い立ったが吉日、まずは母上を懐柔しようではないか。


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