第三章 十一節

敵本陣での戦闘は苛烈を極める。


将軍を守る為に一層分厚くなる兵の壁、上がる武力の強さ、それを突破せんと行く。




「ここを通すな、後ろには将軍がいるのだ!!」




「ソイツが敵将エレックだ!!レグネッセスに寝返ったとは聞いていたが」




敵の怒号が飛び交っている。


自軍を守る為に精力気力を費やして。




だが、お前達だけが守っている訳ではない




「聞けい!!ハドマスの民達よ!!」




エレックの叫びが、周囲の轟音を掻き消す。


何だ何だと、敵味方関係なく視線が声の主に集まる。




「グランデルニアの兵達よ、お前達の『守る力』なぞ我等に比べれば微塵も無いわ。


 そうだろう!?」




「おおう!!」




急な返答に、まだハドマスの兵が付いていけていない。


しかし、エレックは続ける。




「後ろには、我らの『未来』がある!!それを守る為に戦え!!奮い立て!!ハドマスの力


 こそ最強だ!!」




「おおおおおー!!!」




エレックの鼓舞が兵の指揮に火を付け、爆発的な攻撃力を発揮した。




「フッ、エレックらしい……」




それを横目にガトーは、脇役に徹していた。


エレックが開けた道を、自身の部隊で維持し後ろの部隊を前に向かわせたのだ。




「ガトー様!来ましたぞ、アンネの旗です!!」




「頼んだぞ、我らが『未来』!!」




部下の声に後ろを振り向くと、幼い少女が母国ハドマスの旗を掲げて来る。


それに続いて若兵達が後に続いた。


これが、アルフレッドの本命。若き兵を使い、敵の情をつく戦いだ。




(エレック様、ガトー様ありがとうございます。必ずこの手に敵将オーウェンの首を!!)




この快進撃は、オーウェンの予想の遥か上を行くものだった。


二十万の大軍で始まり、後ろにいる白竜軍を警戒してはいるものの、ここまで押されるとは。




「元ハドマス兵は、時間の問題だ。そのまま数で対処せよ」




「ハハッ」




本陣で、地図を広げ戦略を考えるオーウェン。


そこに大きな爆発音が届く。




「何事だ!?」




続く爆発音、その衝撃は地面にも響いている。




「将軍!!た、大砲です。それもとても大きく精巧な!!」




「大砲だと!?」




部下の案内に促され、戦場の見える場所に来てみるとその姿は何処にも見えなかった。


『何処だ?』と聞く前に、次の轟音が響いた。


すると、次の瞬間隣に布陣するセロ将軍の軍で大きな血しぶきが上がった。




オーウェンから見てもセロ将軍の陣まで距離が大きくある。


アルフレッド達からセロ将軍の軍を狙っての長距離攻撃、それは戦争を変えてしまう程のモノだった。




「キュネ様!!大砲が衝撃に耐えきれず、壊れてしまいます。やはりまだ」




「よい、充分敵の気を引いている。打ち続けろ!!」




まだ未完成の新技術、ミケア州の武器商人達が腕を上げて作った、長距離砲である。


威力は最大4キロを飛ばすと言われている。




「セロ将軍に、援軍を送れ!!今すぐだ!!」




オーウェンは、大砲の音とセロ将軍の陣から響き渡る悲鳴に冷静さを欠いてしまった。




「ハハッ、しかしハドマスの兵がすぐそこに!!」




「大丈夫だ、奴等はもうすぐ」




その時大砲に注意が行き轟音も相まってか、敵本陣にハドマスの刃が届いた。


オーウェンが後ろの違和感に振り向くと、天幕内に敵が入って来ていた。




「オーウェン様お下がりを」




「此処は我らが」




今は亡きジャック将軍の側近が、前に出る。


敵は馬上、此方が不利だ。




「アンネ、後に続け!!」




「はい!!」




敵は二人、情報にあった将軍エレックだ。


もう一人は幼い少女。




「子供を狙え!!」




オーウェンが指示を出す。




側近が走り出すと同時、エレックが大きく前に出る。


その薙刀は、三日月を描き側近達を武器事薙ぎ払う。




真っ二つにされた部下を置いて、オーウェンは大鎌を片手に少女の方へと走り出す。




(少女を人質に、時間を稼ぐ)




だが、オーウェンの予想に反して少女は怯む気配も無く。


勇敢に旗を構えた。




「うおおお!!」




オーウェンが叫ぶ、後ろでは一か八かエリックが薙刀を投げようと構えている。


アンネは大きく旗を振った。


オーウェンの視界がハドマスの旗で遮られる。




思い出される過去の記憶。


オーウェンは、戦争孤児だった。


国境近くの城を守る父は、幼い時にレグネッセスとの戦争で失った。




微かに覚えているのは、戦争で合えなくなる時に限って抱いてくれた温もりだけだ。




父を失い、幼い自分に代わって城を管理するようになった母は悲しみに明け暮れていた。


そんなある日に、城に訪れたのがハドマスの予言者と呼ばれた老人マリンだ。


彼は母に言った。




『この子を、儂に預けてくれんか?儂には見える。


この子が、憎きレグネッセスを地獄の業火で焼き尽くす光景が……」




自分で言っては何だが、普通の母ならば父の残した忘れ形見の唯一の子を国の大臣だろうと預けたりはしないだろう。




しかし、母は立派な貴族の生まれだった。


貴族のプライドがあったのだろう。




私は幼いながらも、諜報員としての教育を受けてレグネッセスへと渡った。


心に復讐の業火を燃やして、しかし出会う者ばかりが良き人で道半ば私の復讐は閉ざされそうだった。ミケアの惨劇を見るまでは。




それを母国で起こさせない為にも、第二の故郷を裏切り、友を殺した。


なのに何故、今母国が自分に刃を振ろうとしている?


どうすれば良かったのだ?何を私は間違えた?




瞳に映る我が母国




ああ、そこに刃を振るうのは躊躇われる。




旗を振るう手、その逆の手で刀を抜き、アンネはオーウェンの首を切り裂いた。






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本日はもう一話連続投稿します。(11時頃予定)

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