第二章 二十三節

奇襲を成功させる為、グランデルニア本陣へ向かう別動隊のセロ将軍達を足止めしていたアルフレッド達だった、がそれも今突破されてしまった。




「副団長もう……」




圧倒的数の差に、堀に降りたアルフレッド達に逃げ場は無い。


次々に敵兵が走り抜けて行く姿を、もうただ立って見ている事しか出来なかった。




すまない、ロレイン。ここまでの様だ。








グランデルニア王がロレインの爆発に巻き込まれてから、直ぐ雪崩の様に敵兵が押し寄せて来た。今は辛うじてシュラ隊の生き残りとキュネが連れて来た騎馬隊が壁となっている状態だ。




「「……」」




二人の少女は、ロレインの死を信じる事が出来ないでいた。


しかし、このままでは彼女達も同じ運命をたどる事になるであろう。




「キュネ!!その子を頼む、俺はこのまま若の後を追うがお前は生きろ!!」




「!!いや、私も一緒に」




その言葉で我に返ったキュネは、愛した彼に再び会うには死しかないと本気でそう思った。




「ダメだ!!若から伝言を預かっている」




俺が死んだら、俺の後を継ぐのはアルフレッドって決めてる。


訳?アイツの女を理由に暴れたんだ。その責任を取ってもらうんだよ


キュネは、あの女の世話役だし、部下達が素直にアルフレッドに付いて行くまでついでに面倒を見てもらう。




「な、なんでだよ!!」




わなわな、と拳を握り締めて嗚咽混じりにキュネは叫んだ。


その声には悲しみと共に怒りも入り混じっている。




「どうして!!どうして私はダメなの!?」




「分からないのか!!」




シュラは戦闘の手を止めてキュネに振り返る。




「えっ!?」




「お前に他の道を歩んで欲しいからに決まっているだろ!!俺は途中で若に拾われたから詳しくはないが、お前の思いは確かに若に伝わっていた。けれどそれに答えなかったのはあの人にも思う人がいたからだ!!」




「ぐっ……」




「達者でな、俺も若の残した者達の行く末をこの目で見たかったが」




「なら、シュラ貴方も……」




「そうもいかない、行けここは俺が預かる。あっちで若と見ているからな」




「……うん、分かった」




キュネは、涙を拭ってサラの手を掴んだ。


後ろでシュラの指示が聞こえる、がキュネは振り返らなかった。振り返ったら足が止まってしまう気がしたからだ。残った騎馬で歩兵のいる自陣の山へと向かった。








アルフレッド達は堀の壁に追い詰められていた。


どうあがいても、勝ち目が無い。




「大人しく投降しろ」




「副団長、どうしますか……?」




「くっ……」




アルフレッド達は歯ぎしりした。


生きなくてはいけない、ここで歯向かえばその先に待つのは死のみ。


覚悟を決めて投稿しようとした、その時だった。








「キキッ、みーっけ」




堀の上から、甲高い笑い声と共に敵兵達が矢を浴びて倒れて行った。


振り返るとまず目に入ったのは、白い鳥が羽ばたく様子が描かれた白鳳軍の旗だった。




「おい、下にいるの。お前アルフレッドだろ?」




「は、はい!!」




猿に似た顔をするその者が声をかけて来る。




「オスカー様に感謝するのだな、あのお方のおかげで貴様は生き残れたのだ」




「オスカー団長が」




「まぁ、付いてこい。この戦争もうじき終わるぞ」




猿に似たこの人の名は、オスカー団長の家臣サーンジュという。


白鳳軍独特の黒漆で塗られた甲冑に囲まれ、アルフレッド達はキュネ達と合流を果たした。




途端にサラが胸に飛び込んで来る。




「どうか……したのか?」




道中サーンジュが部下から何か聞いていたようだけれど。


キュネ達の姿を見渡す。おかしい、初め一万五千程いた兵士が今や三千にも満たない。


それにいつも余裕そうにしているアイツの影が




アルフレッド胸で、震えながら彼の服を強く握るサラがいる。


想像したくない事が溢れて来る。




「嘘だ……嘘だ!!」




膝から崩れ落ちる。


すると、サラの顔が目に移った。彼女の綺麗な顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、赤く腫れあがった目と鼻は痛々しかった。




「ゴメン、なざい……」




震える声でサラは謝った。




「君は悪くない……」




「ゴメンなざい、ゴメン、なざい」




「何も君は悪くないよ」




「わだじが、わだじが、ぎだがら!!うぅ、わああぁぁぁー」




泣き叫ぶ彼女をアルフレッドは優しく抱きしめて、背中をさすった。


彼女は悪くない、ロレインが死んだのは彼女のせいじゃない。




サーンジュに案内されアルフレッド達は、レグネッセス南部の海岸沿いに来た。


本陣は海岸を見渡せる高台にあった。




「来たか……」




黒漆の甲冑に全身を包んだオスカー団長がアルフレッド達を出迎えた。


その顔には、顔を守る為の面頬が装備されている。


鬼の様なその雰囲気に圧倒されそうだ。




「この度は、危ない所を救っていただきありがとうございます」




「よい、欲を言えばロレインの奴も救ってやりたかったが。惜しい奴を無くしたな」




オスカー団長は、瞳を閉じてロレインの事を惜しんだ。


そこに、悲しみがあるのかどうかは分からない。




「だが、奴が残した功績は大きい。それに」




「!!」




オスカーは続ける。




「ドアキア大国がシャンドラ大国を滅ぼしたのだ」




「えっ、滅ぼしたって」




「言葉通りだ。加えて奴等はハドマスが我らに集中しているのを狙って背後を噛みつき始めた」




ドアキア大国とシャンドラ大国は、此度の三大国その先にそびえる大国だ。


つまり、この南部の海を越えた先にある。


その内の一つシャンドラ大国が滅んだ。




「昨日の朝、張り巡らせていた情報網からハドマス軍が去ったのを機に三大国全てが撤退したのを聞いた。今頃北部では……いやそういう気分では無いか。とにかくこれから本格的に、領土の奪い合いが起きるであろう。グランデルニアとハドマスが弱っている今が正念場だ」




オスカー団長が言った様に、先日北部ではハドマス軍が撤退を開始した。


これに初めは喜んでいた白冥白竜合同軍だったが、ロレインの訃報を聞いた彼らは大きく肩を落とした。


ドアキア大国はハドマスの北部を侵略し、それだけでなくグランデルニア大国の領土にも同時に手を出した。


この中でアレッド・ローン大国だけが無事だったのは、シャンドラ大国が壁としてあったからである。






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本日出来ればもう一話投稿します。

よろしくお願いします。

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