第二章 十七節

ほぼ全ての場所で網は回避され、騎槍部隊の攻撃は白冥軍の歩兵を抉った。


これに内部の情報が洩れているとすぐさまロレインは気づいた。




「ロレイン様、歩兵隊が」




伝令に来た兵をロレインが切り殺す。


兜ごと斬り潰された伝令兵がグチャリと音を立てて倒れる。




「おい、お前すぐ補佐役をここに呼べ」




「ハハッ!!!」




今ここで内通者を殺しても、戦況は変わらない。


適当に選んだ兵士に補佐達を集めるよう命令し、戦場から本陣に補佐達が集まる。




「戦術を変える」




「「「!!?」」」




「東に移す。軍を半分置いていく、リディお前が指揮官だ。籠城戦決め込んで耐えてろ、援軍を後で送ってやる」




「は?」




リディの事を無視してロレインは続ける。




「キュネとシュラは俺とだ。キュネは後ろの城にいるサラを連れてこい、シュラは」




ニタリと笑ってロレインはいつもの指示を伝えた。




戦場の中心をシュラ隊が行く、一番後ろを駆ける兵が特殊な火炎瓶を投げる。


すると火の壁ができ一時期に時間が作られる。


大部分の兵がリディと後ろにある城に後退し、キュネがサラを連れて帰って来る。




「遅れてすみません!!」




「行くぞ」




白冥軍二万は、東に向け進軍した。


これにハドマス軍は呆気に取られた。が、直ぐにその後ろを追った。


筒爆弾を用いてハドマス軍をけん制し、距離を保ち二日を要して白冥軍は白竜軍とグランデルニア軍の戦地に辿り着いたのである。




「ジジィ邪魔するぞ」




開戦初日に、善戦をしていた白冥軍にハドマス軍は大きな物を与えていた。


ハドマス軍の死体だ。その兵士の甲冑を着てグランデルニアに突撃したのだ。




「それにしても、凄まじいな」




グランデルニア軍に突撃するフォーグが敵の血で雨を降らせていた。


それを遠目で見てグランデルニア王は称賛していた。




「フフフ、フハハハハ!!!どうしたグランデルニア軍!!こんなものか!!!」




「出番だ、奴を止めろ」




グランデルニアの将軍セロが渋い声でヤギの怪物を鎖から解き放とうとした。


その時、ハドマスの恰好をした白冥軍が横撃をしたのである。




「……何故だ!!何故同盟国のハドマスが此処に、それに我等を攻撃するのだ!?」




開戦四日にして、ロレインは二つの戦場に混沌を作った。


ハドマスの騎士王は自身の代わりに数人の指揮官を白冥軍の追手に向かわせていた。


これが裏目に出て、混乱したグランデルニア軍とぶつかり味方同士で殺し合ったのだ。




「フフッ、ヤリあってら~」




「お前だったか、持ち場は大丈夫なんだろうな」




フォーグ団長の元にロレインが補佐を連れてきながら来る。




「長くは持たねぇな、だからアンタが行ってくれ」




「何?」




「ハドマスは攻城戦に本腰入れてるだろうからな、その隙狙ってアンタらが奇襲かけんだよ」




「戦の途中で指揮官が変わる事が、どれ程難しいか理解出来ているのか?」




「ああ、だから俺は補佐役を一人置いてきている。アンタは副団長のアルフレッドを置いてけ、アイツとは何度かやってる」




「何日かかった?」




「二日だ」




「一つ貸しだぞ」




「そっち余裕で終わるから、それで」




生意気なガキが、と言ってフォーグはこの策に乗った。


半分の軍を北部へと動かし代わりに副団長アルフレッドに半分の軍を残した。


合わせて白冥白竜合同軍は五万となり、混乱状態のグランデルニア軍を攻撃する。




「ロレイン!!!」




アルフレッドが本陣のテントに駆けて来る。




「黙って言う事を聞け」




「う……」




「内通者がまだ俺等の中にいる。お前等の方は見るに大丈夫そうだがな、これからは現場の指揮で動く、ただそれだけじゃ勝てそうにないんで俺自ら出る」




「そうか、気を付けろよ」




「言われるまでもねぇよ、少し危ない橋を渡るがな」




「えっ……」




すぐさま陣形が変わり、ロレインを中心に護衛はシュラ隊、左右にアルフレッド、キュネが配置された。本陣に来いと誘う、見るからに罠と分かる布陣だ。


しかし、これにグランデルニア軍は掛かってしまう。




「あれは、まさか……」




グランデルニア軍のセロ将軍が、白冥軍の旗の下にいる少女に気が付く。


その隣で人間離れしたヤギの怪物もそれを目視した。




「サラ!!サラアアアアァァァ!!!」




ヤギの怪物を拘束する金具が壊れ始める。


セロが攻撃許可を求める旗を上げる。




「クククッ、面白い……奴の進撃をどう止める?レグネッセス悪鬼」




グランデルニア王がセロに許可を出す。




ヤギの怪物が解き放たれる。


同時に正気ではない兵士達が、白冥白竜合同軍に突撃を開始した。




「密集陣形を展開、十分に引き付けてから爆撃だ」




ロレインはミケアの防御陣形を白冥軍に練兵していた。


それはゼロ距離でも盾で爆撃を耐えきれるようにするためだ。




目の前で敵兵が爆散していく、肉片がベチャベチャと飛び散って行く。


しかし、敵兵は次々に突進してくる。死ぬのが怖く無い様に、いやそれ自体が分かっていないかの様だ。




密集陣形の前列に敵兵の手がかかる。


だが、それでも爆撃の効果は甚大だ。敵兵が前列に手を駆ける頃には死体も同然。




だと誰もが思っていた。




合同軍の中心一か所で密集陣形が崩された。


はるか上空に兵士が飛ばされる。


常人一人分程の斧を持ったそのヤギの怪物は、伝説に出て来る悪魔みたいだ。




「ちっ……」




ロレインは顔をしかめた。


それは想定を遥かに超えたモノだったからだ。




「サアアアァァァラアアアァァァ!!!!」




怪物の雄叫びはそれだけで爆風だ。


周りの兵士達はすくんで動きが鈍ってしまった。


怪物の進撃は止まらず、巨大な斧の一振りは盾や鎧など紙の様に真っ二つにした。




「あの怪物お前の友達か?趣味わりーぞ」




「な、なんでこんな所にバフちゃん」




ロレインの隣でサラが信じられない様にヤギの怪物を見つめた。






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本日は一時間事に三話更新します。

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