第二章 八節

千年近く動かなかった七大国の均衡を破ったロレインは、その功績を称えられた。


勝利の凱旋は、レグネッセス大国の歴史の中で一番大きなものだったという。


首都ティタンジェルに帰還したロレイン主力部隊は多くの国民達が埋め尽くす道を進んだ。




「若は、もう雲の上の存在だな…」




先頭を行くロレインの背を見てリディが呟く




「私は、初めから若は特別だと思っていた」




「ああ、キュネは他の意味でもな」




「黙ってろリディ!」




凱旋の中で一番の視線を集めただろう男は、王から破格の待遇がされた。


山の様な金銀財宝、爵位が上げられ、所領の領地も広がった。


しかし、それだけでは無い。




「ミケアを滅ぼし、我々は他大国より膨大な領土を手にした。よってこれより我が国を守る為、新たな軍を創設する。我が両翼に次ぐその騎士団の名は、白冥騎士団!!そして白鳳騎士団だ!!」




レグネッセス王は続ける。




「して、その白冥騎士団の団長をロレイン卿…貴殿に任せたいのだ」




「仰せのままに」




「新たな我がレグネッセス超大国の繫栄の為、その力大いに振るってくれ!!」




新たに創設された白冥騎士団の団長にロレインが、白鳳騎士団団長には白竜騎士団の副団長オスカーが任じられた。


華やかな功績に埋もれる事になったが、この戦争の第二功績、レオ元帥の首を討ったアルフレッドは白竜騎士団の副団長に就任した。




ミケアを撃破した戦争から時間を経てもなお、その戦場の中心となったロレインは注目を浴び続けた。




国外では、この後三大国が同盟を結ぶに至る。




「ゴフゥー…」




荒々しい呼吸音を鉄柵の中で響かせる怪物がいた。


怪物は頭がヤギで、身体が人間と不気味な姿をしていた。




「サラが見つかった」




そんな怪物に一人の男が話しかける。


男は豪華な刺繡が施された衣服を着ている。面長顔で、細長い鼻、グランデルニア大国で見られる男性の顔立ちだ。


男の渋さと鋭さを併せ持つ声が暗闇に響いていた。




「!?…サラ…サラ!サラ!」




ジャラジャラ、ギシギシと怪物を拘束する鎖が軋みを上げる。


意思疎通が出来るのか怪物は、元グランデルニアの巫女の名を連呼する。




「彼女を救う為、君の力が必要だ」




「サラ?…救う?サラ…危ない?」




「ああ、彼女は今きっと悲しんでいる。悪い奴らから彼女を助けてあげよう」




「サラ、悲しい!悪い奴らから、サラ!助ける!」




怪物が雄叫びを上げる。怪物は心に誓った。


彼女を助けると、一人にしないと約束をした彼女を。








大陸北西部に大きな山岳地帯がある。そこへ二羽の伝書鳩が飛んでいた。


この山岳地帯は大国間でも影響力が大きかった。なんでも北西部の三大国を結ぶ貿易路が敷かれていたからだ


ここを支配下に置いているのが大国の一つアレッド・ローン大国




「へーやるね、レグネッセス。遂に千年の歴史に終止符を打つ者が現れたか…」




「ロラン様!いけません、先ずは女王陛下に伝えなくては!」




鳩舎に戻って来た伝書鳩から通信文を盗み読む男がいる。


男は、このアレッド・ローンに仕える聖騎士十二衆の筆頭であった。




「僕は、神に愛されし漢だよ。女王陛下もこの美貌に免じて許してくれるさっ」




キラリと白く輝く歯を見せて眩しい笑顔を咲かせるロラン




「馬鹿を言ってはいけません!そして早く返して下さい!」




金髪碧眼に優れた容姿、加えて頭脳明晰と来たロランという騎士は、ここ北西部では神に愛された男と謳われる有名な英雄なのだ。




「ん?珍しいね、同じ時間に二匹目って…まさか」




「あー投げないでくださいよー」




ロランは初めの通信文をほっぽりなげて新しい通信文を開けて読む。


通信兵はすかさず投げられた通信文を空中でキャッチする。




「フフフ、燃えて来たね」




その内容を見てロランは腕が鳴った。




「えええー燃やしちゃいけませんよ!!!」




馬鹿か、と新たな通信文を通信兵の頭に叩きつける。


そこには、暗号文でグランデルニアから同盟を持ち掛ける為の事前連絡が書かれていた。


その真の目的はレグネッセスへの攻撃だった。




至急その連絡はアレッド・ローンの王宮に届けられ女王とその配下達が集められた。




「これをどう見る?ロラン」




現アレッド・ローン女王陛下はまだ若い、彼女は数年前に起きた王位継承での争いで実の兄を破りその王位を継いだ。




丁寧に編みこまれた金の髪に、バランスの良い目、鼻、口。そしてドレスに浮かぶ丸みを帯びた曲線、ここ数年で、その容姿も成長し見るに美しいお姿に成長なられた。




「おい、何処を見ている」




おっと、立派になられたお胸を見ていたのがバレたか?




「はい、お胸……じゃなくて。グランデルニアからの同盟ですね」




「ああ」




女王は、呆れ顔で頬杖を付く




「此度はミケアの時と違い、同盟です。しかも隣国ハドマス大国を通して、これは三大国同盟と見て間違いないでしょう」




「根拠は?」




「伝書鳩ですよ、帰って来た方角と通信文の材質から分かりました」




「流石だな…で、此方に利益はあると思うか?」




あえて、利益と言う女王にロランはニヤリと笑う




「ええ、もしもを踏まえても同盟を持ち掛けて来たグランデルニアがそれを負う事になります。こちらは調子付いているレグネッセスを叩くだけ叩いた方が良いかと」




答えは決まった。


アレッド・ローン、ハドマス、グランデルニアの王達は三大国の間にあるハドマス大国の宮廷で同盟を結ぶ事になった。




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本日はここまでです。

有難う御座いました。おやすみなさい。

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