第二章 六節

レグネッセス軍は、再び城攻めに出た。


ミケア軍は母国を守る為、徹底抗戦に出たがロレインの残虐無慈悲な戦いに恐れを成し逃亡する者が続出した。


レグネッセス軍が進軍して、早七日。ミケア大帝国の首都を守る最後の砦にまでその足は進んでいた。




「そろそろ、肉団子が切れるとの事です」




補佐のリディが、ロレインに投石機の弾切れを報告する。




「あれは、入城した時大変だからな。時間使って相手に掃除してもらうか」




「確かに、あれはこの世のモノとは思えませんからね」




最後の死体が、投石機に配置される。


ハエが集った死体は変色し、酷い悪臭を漂わせていた。




「やっと、これでおさらばだ。打ち込め~」




投石機の留め具が外され、勢いよく死体が飛んでいく。


死体は城壁の上部を目指して飛ばされている。狙いはロレインが得意とする敵の指揮を下げる事だ。


死体は、一つ前の城から何千体と打ち続けられていた。


敵城内では、死体がバラバラになってあちこちにその一部が散らばっている。それが、原因で疫病が流行り出してもいた。








ミケア軍最後の砦では、はやる気持ちを抑えデロス将軍がジッと知らせを待っていた。


それは、レオ大元帥と練った最後の作戦だった。




「であれば、私が外で奇襲をかけます。レオ大元帥には最後まで指揮を執って頂きたい」




デロス将軍は、最後の軍議を思い返す。




「いや、此処に集まった兵士はほぼ貴殿が鼓舞して来た者達だ。此処まで追い詰められる原因になった私にそれは務まらん」




「何を言いますか!大元帥はこの国の軍の象徴、貴方が無理だったのなら誰でも結果は変わらなかったでしょう」




「だが、その責任に少しでも報いる為この命最後の一瞬まで捧げるつもりだ。付き合わせてすまんな」




どうやら、何を言っても気持ちは変わらぬ様だ。




「いえ…光栄に思います!」




デロスは、レオ大元帥に向かって心臓に拳を当てる。


心からの感謝、尊敬をこめて。




「ではデロス将軍。次合う時、悪鬼ロレインの頭蓋で酒を酌み交わそうぞ」




「ハッ!!」




部下の知らせで瞼を開けると、城壁から伸びる煙が見えた。




合図だ




「全騎馬隊!!合図だ!!死んでも悪鬼ロレインの首を取れ!!」




「ハハッ!!」




城中全ての馬を使った突撃、城門が開かれる。


これが、最後の作戦と知ってか城門の兵士が敬礼をして騎馬隊を迎えていた。




「御武運を…」








レグネッセス軍本陣は、城から少し離れた場所で陣取っていた。


ミケア軍は、時間をかけるほど弱っていく。初め開戦した時に比べ今のミケア兵の強さは半分以下まで落ちているだろう。


それは、今年の冷夏による影響が大きい。よってレグネッセス軍は連戦による被害が極めて少なかった。




だが、そこの油断にミケアの牙が突き刺さる。




「敵襲!!敵襲!!後ろから敵が来ます!!」




ロレイン本陣に凶報が走る。




「敵城壁からも騎馬隊が突撃してきました!!」




「何!?」




部下達が慌てふためく中、冷静な男が二人いた。




「僕が、後ろに行く」




アルフレッドが剣を抜き、後ろに振り返る。




「へー俺が正しいって認めるのか?」




ロレインは変わらず敵城を見つめていた。




「今までの犠牲を無駄にしない為だ。白竜全騎馬隊!!僕に続け!!背後の敵を返り討つ!!」




アルフレッドが自身の騎馬隊を連れて討って出る。


それから少し遅れて白虎騎士団の騎馬隊が、城壁から出て来た騎馬隊に向かって出た。




「大元帥、あれは白竜の騎馬隊です。報告に在ったホルコーン様の仇かと」




「ふん!!敵にまんまと兵器を盗られ、仇討ちまで、面倒かけおって!!」




ホルコーンと共に戦い、酒を汲み交わした記憶が沸き起こる。


仲間の思いを握り、悲しみを矛に乗せ、敵目掛けて振り落とす。




「ハアアッ!!!」




が、先頭を駆けていた男がそれを受け止めた。


重い剣戟が鳴り響く。




「隊長!!」




部下の心配の声が上がる。しかし、アルフレッド冷静だった。


この二か月間、師であるフォーグの元で過酷な修行を乗り越えた成果である。




長い矛を受け流し、レオ大元帥の右手指を切り落とした。




「ぐっ…」




痛みによろめく敵に、アルフレッドは追撃の手を緩めない。




「大元帥!!」




レオ大元帥か!?何故、敵将が城壁の外に…いや、これは勝機!!




アルフレッドは、一気に勝負に出た。全力の上段切りを二度振り下ろす。


一撃は、矛で受け止められたが、二撃目で矛を弾き、レオ大元帥の被る兜を叩き割った。その衝撃は意識を刈り取る程重かった。




「「「大元帥―!!!」」」




敵の部下達は、乱戦の中悲しみの声を上げた。




止めだ!!




「フェリックス!敵を近づけるなよ」




「了解です!!隊長」




副隊長に周りを任せ、レオ大元帥の首に剣をかける。




走馬灯がよぎる。


ミケア大帝国に仕え70年、戦場に生きる道を見つけ戦場で死ぬ。只それだけだったら悔いは無かった。だが、自分の不甲斐なさで母国が失われるのは辛いものがある。


最後にそれはあんまりだ。


それは無いだろう。




「うおおおッ!!!」




辛うじて握っていた矛を振るう。




「う、嘘だろ!?」




突然意識を取り戻したレオ元帥の不意打ちに等しい一振りに弾き飛ばされるアルフレッド。


それに呼応して敵の指揮が復活する。




「大元帥!!よくあそこから…」




「指を頼む。矛が握れるだけでいい」




部下がレオ大元帥の手と矛を包帯で巻き固定する。


アルフレッドはそれをあえて見過ごした。




「……見逃しついでに、聞かせろ」




「!?……」




「お前は何の為に戦う?」




レオ大元帥は、切られた右手に感覚を研ぎ澄ませた。人差し指と中指を感じない、包帯で固定して正解だった。




治療を済ませたレオ大元帥を見てアルフレッドは思った。只の時間稼ぎではない。そんな卑怯な真似をする人にはこの志気を見るに思えない。加えて、時間を掛けるだけこちらも利点がある。




「……正しい事の為だ」





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本日も連続投稿をします。本日はこの話を含め三話連続投稿です。


時刻は20時半と21時半にします。よろしくお願いします。

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