第二章 三節

夜になり、城を囲む壁の上に火が並べられ街が照らされていた。

そんな街を見下ろす絶景スポットに豪華な食事が並べられている。そこには若頭ロレインを初めとする補佐達が酒を飲んでいた。



「若、具合は大丈夫ですか?」




キュネの一言で先程まで賑わっていた場が凍り付く。




「急にどうした?」




ロレインは裏腹に普段と変わらない口調で返す。




「いえ、良ければいいんです」




「ステラの事でか?」




「はい、彼女は不治の病だったと聞きます」




どんどんと場の空気は重くなっていく、若衆達は皆手を止め二人を見るしか無かった。


キュネもそれは理解しているようでロレインに目を向けることなく震えながら俯いていた。




「大丈夫だ。安心しろ、あれは普通だとうつらねー」




「そ、そう。なら良かった」




ホッとしたのかキュネは顔を上げて笑った。




「何ジロジロ見てんだ!!飯が冷めるだろ!!」




周囲にいた若衆達の視線に気が付いたキュネが一喝して、再び場が盛り上がった。

ギャアギャアと騒がしい声は下の階に居たアルフレッド達の所まで聞こえていた。




「賑やかですね」




「騒がしいの間違いじゃないか?」




オーウェンの表現をぼかした言葉をアルフレッドが晴らす。




「そういえば、フォーグ団長は国境警備に着いたそうですね」




「ああ、本来は俺もそっちの筈だった。ペアレスはそっちだろ?」




ミケア大帝国侵略に本腰を入れたレグネッセスは、その隙を狙われない様に国境警備にも厳重に注意を払っていた。その中でも、最近までグランデルニアの領土だったパレディア城にフォーグ団長は居残り、目を光らせている。


ペアレスは、その場に居残り組として。オーウェンは戦力として本軍に呼ばれたという事だ。




「ええ、でサラさんは上に居なくて大丈夫なのですか?」




「ふえ?」




ガツガツと、ストレスをぶつけて夕食を食べるサラに話を振るオーウェン。


ホッペには、ソースが付いているが可愛らしいので放置して置こう。




「んぐ。いいの、あの人達怖いし」




ちゃんと、食べ物は飲み込んで喋るサラであった。




「確かに、白虎騎士団は内部抗争があってからそんなに経っていませんからね」




「へー違う騎士団なのにオーウェン知ってるの?」




「何だ?サラも知っているのか?」




「私はここ最近ずっと居たからね」




オーウェンは、ではお教えしましょう。と人差し指を立てて話始めた。




「あれは、三か月ぐらい前でしょうか。白虎騎士団の隊長格が次々と不審死していた話があったでしょう?」




「あー在ったなそんな話、あの時は…」




サラをレグネッセス王の眼から隠していた時か、てかそんな時にアイツ身内と揉めていたのか器用だな。




「でしょ、白虎騎士団は私達と違った意味で仲間との団結が強い。それは血の繋がりが無くても親子だと誓っているからです」




「ホントかなー、いつも喧嘩バッカリだったけど」




サラが水を差したが、コホンとオーウェンが話を戻す。




「団長であるゴドフロウを親とし、その幹部を隊長達、その下に副団長を若頭、と続いていきます。若頭はゴドフロウが次期団長と認めた者を置くという事で空席だったんです」




「それじゃあ、今そこにロレインが居るって事は」




「ええ、しかしそこに至るまでに」




「不審死の事件か」




それと、とオーウェンが付け加える。




「その前、ミケア大帝国での武功です」




「嫉妬……か、怖いな」




俺も注意しないと…他の隊長達に御見上げでも買って行こう。




「はい、隊長達より爵位や土地を持ってしまった彼は多くの敵を作りそして…現在を見れば何が起こったか分かりますね」




生半可な道じゃなかっただろう。




「長い付き合いだと思っていたけれど、知らなかったな」




「あー!!そう言えば、私聞いたんだよ。子供の頃の話!!ロレインなんて言ったと思うアイツ」




バンと机を叩いてサラが声を荒げる。


温厚だったサラが少し白虎騎士団に染まってしまったと思ったのは内緒だ。




「……忘れた…だよ。ムカつかない?」




足を組んでロレインの真似をするサラが可笑しくてアルフレッドとオーウェンは顔を隠して吹き出すのを堪えた。




「~~、あー可笑しい」




「もーそんなに似てた?」




少し楽しそうな顔をするサラを見て、この二か月間は悪い物では無かったのが垣間見えた。




「それで、それで、どうだったの?子供の頃」




アルフレッドはオーウェンと顔を合わせた。




「きっと長い話になるよ、だから少しだけ」




オーウェンも深く頷く。


やった、と眼を輝かせてサラは椅子に座り直す。




「僕達は、騎士見習いとして宮廷で勉強を学んで居たんだ」




それは、歳が七つになった頃だった。




「中々、筋が良いな。坊主名はなんて言う?」




「アルフレッド、アルフレッドです」




武芸修行で、剣術を習っていた時自慢じゃないが僕はかなり優秀な方だったんだ。


教師は、まだ若いフォーグ団長で


「ギャンギャン泣くな。男だろ?だからガキは嫌いなんだ。おい、アルフレッドお前友達だろ、何とかしろ」




「えっ!?」




泣いていたペアレスの面倒を僕に見させていたんだ。酷い話でしょ?


それが、ペアレスとの出会い。




「ペアレスって人が初めの友達だったんだね」




今さっき紹介したオーウェンと違って、サラはまだペアレスとは会った事が無いからな、今度機会があったら紹介しよう。




「うん、その次にオーウェンが入学して来たんだ」




「皆より遅かったんだね。オーウェンは」




「はい、私は他の場所で学んでいたのですが…父の事情で」




オーウェンは、申し訳なさそうに苦笑いする。


きっと、深い事情があるのだろう。




「へー、それで」




サラも何か感じたのか、話の続きを欲した。




「オーウェンは、僕と同じぐらい優秀でね。学問、武芸、宮廷作法。全て生徒の中で一番だったんだ」




本当な所、剣しか並べていなかったけれど




「ふーん、同じぐらい優秀だったのに二人共一番だったの?」




サラが痛い所を付くが、気にしないように続ける。




「切磋琢磨していく内にお互い認め合って僕達は仲良くなったんだ。ペアレスの面倒をよく押し付けられた仲だったしね」




「彼の面倒は、私達しか見れませんでしたから」




「そんなに酷かったの!?」




オーウェンは、懐かしそうに目を細めた。




三人で遊ぶ様になった時には、刃のない練習用の剣で模擬戦をしていた。


その時期から、街で噂になり初めたんだ。悪さをする白い子供に商人が手を焼いているってね。




「それって」




サラが変わって嫌そうな顔をする。察したのだろう。




「そう、それがロレイン。と、今日はここまでにしよう」




えー、と続きを所望するサラ。


他にも気が付いたら話を盗み聞いていたのか観客がテーブルを囲んでいた。




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