第二章 屍の山と天の待ち人

パレディア城の宿舎を走る一人の騎士は不安を抱えていた。


見張っていた捕虜が、熱病で倒れたと知らされたのである。




「サラ!!」




部屋の持ち主を叫びながら扉を破る勢いで開ける。


中では、サラと彼女を看病する女医が一人居た。




「もう、大袈裟だよ…」




サラの顔は火照っているようだが、元気そうに言葉を返された。




「初めは、高熱でしたが今はだいぶ落ち着いてきています。安心してください」




「それは良かった」




失礼します。と、女医が部屋を後にする。




「ゴメンね、お祝いしようと思ったのに」




「何を謝るんだ。お祝いなんていつでも出来る。今はただ休もう」




「うん、おかえりなさいアルフレッド」




「ああ、ただいまサラ」




弱々しいサラを休ませる為部屋を出ると、廊下にはロレインが立っていた。




「ロレインお前」




「女に力を使わせたのか?」




「えっ…?」




アルフレッドの戦の労いをロレインが遮る。




「女の勝手か、やっぱりな…」




「それは、どういう事だ!?」




「場所を変えるぞ、聞かれると面倒だ」




時刻は夜、誰もいなくなった騎士の訓練場でロレインとアルフレッドは話を再開した。




「ロレイン、此処で良いだろ。続きを聞かせてくれ」




「ああ…お前先の戦で奇跡を起こしたらしいじゃねーか」




「それが何の関係がある。サラの事だ!!」




「大アリだ」




「……胸に刺さった矢が、たまたまペンダントに当たって無傷だった。それがどうした?」




「そんな偶然あるか?加えて、お前を心配させまいと女医と嘘を吐いたようだが、あの女の高熱は死んでいてもおかしくは無いモノだったそうだ」




「何が言いたい?」




「ハァ…お前の無事に力を使った代償にアイツは死にそうになったって言ってるんだ」




呆れた様に溜息を交えてロレインが言う。




「高熱の原因も分からず仕舞い、そして異常な回復力。あの女医もお手上げらしい。こんな理由の付かないモノに考えられるのは、残りの不思議な力しか残ってないだろ」




「そうだったのか…」




そんな事も知らずに俺は何て恥ずかしい奴なんだ。




「それと、もう一つ…一番の問題がある」




「これ以上の問題があるのか?」




「女の力に気づき始めただろう奴がいる。確実なのがフォーグのジジィだ。後は恐らく、副団長のオスカー。で、これから王の勅命で捜索が始められるだろう」




「団長達はまだ分かるが、何故王が?」




グランデルニアとの交渉でサラの存在は団長に知らせている。それが副団長の耳に入っていてもおかしくは無い。しかし、何故そこに王が?




「ミケアとの一戦、俺はサラに似た女で敵を釣ってみたんだ。敵さんはまんまと釣れてな、おかげで勝てた訳だが。確実に力の事がグランデルニアから他国へと回っている。これはサラと言う願望機を争う戦争が始まるぞ」




「どうすれば、敵も味方も…」




今回の事で、サラは力を使う事で死んでしまう可能性も分かった。


リスクがあり過ぎる。下手に使ったら全て無くなってしまう。




「俺に考えがあるが、乗るか?」




「聞かせてくれ、だが考え次第だ」




ロレインは不敵な笑みを浮かべて考えをアルフレッドに聞かせた。




「なっ、でも…それしか無いかも知れない」




「フッ、なら始めるぞ」




数日後、ロレインが予想したとおりにレグネッセス王はパレディア城にサラを受け渡すよう使者を送って来た。しかし、サラは既にパレディア城を離れていた。




「お前しかいないだろう。何とか言ったらどうだ」




サバナ城、白虎騎士団ゴドフロウ団長が領主を務める領地で数日前から、白虎騎士団の隊長達が不審死する出来事が続いていた。




それに得をすると疑いがかけられた若き天才がゴドフロウに呼び出されていた。




「知らねーよ。弱いから死んだ。それだけだ」




「まぁ、俺も強い奴は嫌いじゃない。だが、上が居なくなったら統率も取りづらくなる。お前なら死んだ奴等より上手く出来るのか?」




「ああ、任せて見れば分かる」




「……良いだろう…お前を白虎騎士団副団長に任命する。だが、下手をしたら分かってるだろうな?」




レグネッセス随一の巨漢であるゴドフロウが、首に手を当て脅して見せる。


ロレインは、それに不敵な笑みを浮かべて了承した。








レグネッセス王は、サラと言う願いを叶える願望機を今か今かと待ちわびていた。


先日サバナ城で見つかったという知らせが入り今日彼女が連れてこられるというのだ。




「陛下、今しがた到着したそうです」




「そうかそうか、どれどれ早く連れてこんか」




王直属の大臣が衛兵に合図を出すと王の間が開かれる。




「……むっ、何だ祖奴は罪人か?」




王は、あまりにも想像とかけ離れた者と対面して混乱した。


何故ならば、目隠しに耳栓、さるぐつわを結ばれた少女が連れてこられたからである。




「どういう事か説明してもらおう。貴殿は確か?」




「はい陛下。私は先日、白虎騎士団副団長に任命されたロレインと申します」




「そうか、それで?」




「ハッ、彼女は元グランデルニア人。パレディア城での恨みか知りませんが、数日前から離れたサバナ城内に潜んでいた様です。彼女の力は強力で五感を奪わなければ力を封じる事が出来ませんでした。その最中で白虎騎士団の隊長達が…」




「何と…」




レグネッセス王は、恐怖を感じてか一歩退く。




「どうか陛下、隊長達の無念の思い。このロレインに任せては貰えないでしょうか?この女を利用したく存じます」




「どういう事か?述べてみよ」




「はい、彼女の恨みは分かる所があります。しかし、死んでいった隊長達の思いも無碍には出来ない…ならば彼女を利用し、彼女を狙う他大陸を逆に乗っ取るというのはどうでしょう?それが叶えば死んでいった隊長達の思いも浮かばれる筈です」




大臣が青ざめながらレグネッセス王に視線を移す。




「出来ると思うか?」




「はい、自分は戦に絶対の自信があります故」




「気に入ったぞ、大臣!!戦の準備じゃ」




元々好戦的で大の戦好きのレグネッセス王は先の戦で調子付きこれに大賛成だった。


レグネッセスは、まず初めにパレディア城で大敗を期したミケアに向け戦争を仕掛ける事にした。この戦争を期に世界は戦乱の時代へと進んでいくことになる。




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本日も連続投稿をします。よろしくお願いします。

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