ギフト

簪ぴあの

第1話

「やっぱりな……」

自然にその言葉が口をついて出た。目の前の若い医師が、困った顔をしている。どうやら、この手の経験がまだまだ足りないようだ。

「先生、医学の素人でも、自分の体のことは、わかっていますから……酒ですよ。酒がいけなかったんです。どうか、先生、無理をして、俺のことを治そうとなさらないでください。まあ、痛みくらいはとっていただきたいですが……先生、そんなお顔をなさらずに……」

俺のほうが、医師を慰める羽目になった。結局、入院して手術をすることになったが、少しばかりの時間稼ぎに過ぎないということはわかっていた。

 入院した俺の世話をやいてくれるのは、妹の有紀だけだ。

「まったく……こんな時くらい、駆けつけて、横で泣いてくれるひと、いないわけ……」

有紀だけは俺に遠慮なくものを言う。

「あいにくな……俺は一匹狼なんだよ。職場のやつらも、俺がいなくてほっとしているだろうよ。」

「兄さんはね、言うことは正論なんだけど、きついのよ。確かに、私達の親が揃いも揃ってお馬鹿だから、その分、兄さんがしっかりして、私の面倒をみてくれた。だけど、兄さんも少しはまるくなってくれないと、誰もよりつかないよ。」

「悪いな。結婚しているお前に面倒をかけて。ダンナは大丈夫か?舅、姑もいるのにな……」

「あのね、これでも、色々、乗り越えてやってきてるの。ダンナもお義父さんお義母さんも、兄さんが思っているほど、わからずやじゃないから。」

「面倒、かける分、お前には、いくらかは残してやるからな。酒は飲んだが、貯金はあるぞ。」

「兄さんったら……」

有紀は後ろを向いて涙を拭いているようだったが、振り返ると、

「兄さん、会っておきたい人とかいないの?ほら、永井さん……飲み友達の……」

「永井か……あいつ、どうしているだろうな……」


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