15 不誠実な説明

 睡眠不足のままスクールに行っても、解決策は何も思い浮かばなかった。

 レオシュは、考えもなくただクラスを見渡してみた。ふと、二コーラと目が合った。彼女は屈託のない笑顔を向けたが、彼の方は、引きつったように表情を崩すのが精一杯だった。

 そうして目的もなく視線を旋回させたところで、二コーラやジェトゥリオでさえ無理なのに、それ以上に親しい人間のいないこのクラスで、重大な秘密を打ち明ける相手など、見つけられるわけがない。

 一日中、そうしてあちらこちらに目を走らせてはみたものの、彼は結局、誰にも話しかけることはできなかった。


 一旦帰宅すると、いつものようにMRに乗って、レオシュは例の場所に向かった。スクールを出る時からずっと、MRのサドル上でも、ルジェーナに何と言おうかを考えていた。正直に、誰にも何も話せなかった、とはさすがに言えそうもない。どんな風に、この状況をごまかせばよいものか、彼は考えあぐねていた。


【こんにちは、レオシュ】

 ルジェーナは、すでにその場所で、挨拶の文字を表示させて待っていた。

【こんにちは。待った?】

【少しだけ】

【ごめん】

 レオシュは、平然とした様子を演じることが苦しかった。

【ちょっと早く着き過ぎただけだから】

【そう】

 何と言って切り出そうか、と彼は迷った。

 いつもよりは少し早くその場所に到着したので、多少は考える時間があるだろうと考えていたから、すでに待っていたルジェーナを見て、余計に慌ててしまった。

【なかなか、思うようにはいかないものね】

【どういうこと?】

 そんなわけはないのだが、レオシュがまだ誰にも話せていないことを、ルジェーナが知っているような気がしてしまった。

【一時待機場所のことよ】

【一時待機場所?】

 意外な言葉だったので、ついそのまま聞き返してしまった。

【このドームを出た後、レオシュたちに一時的にいてもらう場所のこと】

 さらっと書かれた〝たち〟という複数形が、レオシュの心を動揺させたが、何とか平静な顔を維持した。

【その一時待機場所がどうしたの?】

【準備するのに、結構な時間がかかるのよ】

【そうなの?】

 ほっとした気持ちが顔に出ないようにするのは、かなりの集中力が必要だった。

【私たちのドームでも予想外のことが起こる可能性もあるから、このドームとの中間辺りに設置しようと考えているの】

【なるほどね】

【でも、使えると思っていた移動式の仮眠施設が故障しちゃって】

【困ったね】

 レオシュは、極力残念そうな表情をして見せた。

【修理するにも、新しいものを調達するにも、それなりに時間がかかりそうなの】

【どのくらいかかるの?】

 彼は、心配そうに、そう尋ねた。

【そうねえ。二週間あれば大丈夫だと思う】

【二週間?】

 もっと長い時間がかかるものと勝手に想像していたレオシュは、思わず驚いてしまった。

【そうなのよ。二週間もかかるのよ】

 ルジェーナは、どうやら彼の驚きの表情を、逆に解釈したようだった。

【そりゃあ、大変だ】

【でも仕方ないわ。英雄であるレオシュたちに野宿させるわけにはいかないもの】

【英雄だなんて、よしてよ】

【この前も話したけど、この計画はレオシュなしでは考えられない。レオシュは、私や私の仲間たちにとって、英雄なの】

【照れちゃうよ】

【だから、一時待機場所についても万全を期したい】

【分かった】

【それじゃあ、決行は二週間後。二週間あれば確実だから。いい?】

【二週間後だね】

 レオシュがそう言って笑うと、ルジェーナも微笑んだ。

 改めて彼は、彼女と会うまでと彼女と会ってからでは、自分がまったく違う人間になったような気がしていた。

【それで、友だちは?】

 急に、核心を突かれて、レオシュは返答に困った。

【ああ、何とかなりそう】

【そう。よかった。ちゃんと話せたのね】

【うん。ルジェーナに言われたように、自分から話しかけたら、意外と自然に会話できたんだ】

【ほらね。言った通りだったでしょ】

【そうしたら、ちゃんと真剣に聞いてくれて、ぼくの言うことなら信じるって。協力してくれるって】

自分でも分からない内に、出まかせが次から次へと頭に浮かんだ。

【友だちって、そういうものよね】

【うん。また友だちと話せるようになったのも、ルジェーナのお陰だよ】

【きっとレオシュが誠意を持って話したからよ】

【本気で話せば通じるものだね】

【それで、何人くらい集まりそうなの?】

 そう聞かれた時に、頭に浮かんだのは、やはり二コーラとジェトゥリオのことだった。

【話したのは二人だけなんだけど、その二人がほかの人たちに声をかけてくれることになっているから、あと何人かは集まるよ】

【何とか十人くらいは集めてほしいな】

【そのくらいなら大丈夫だと思う】

 レオシュは、自分の調子のよさ、いい加減さにうんざりした。

【十人いてくれれば、バルブを確保するのに十分よ】

【そうか。もう一度念を押しておくよ】

【お願いね】

 ルジェーナは、片手で拝むような仕草を見せた。

【それじゃあ、二週間後に。何時に集合すればいいのかな?】

 ルジェーナに二週間も会えないのは寂しいが、それよりも、課題から逃れたいという気持ちの方が勝っていた。

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