解けるよね?東雲さんなら

雨宮 徹@クロユリの花束を君に💐

解けるよね、東雲さんなら

 僕は雪道をゆっくりと歩く。滑って頭を打たないように。


 それにしても、都市部でこれだけ雪が降るのも珍しい。近所の子ども達は大喜びで雪だるまを作っている。なんと微笑ましい光景だろうか。



 それとは裏腹に、ここ数日は雪だるまの頭部破壊という事件が相次いでいる。雪だるまだから殺人ではないけれど、悪質なイタズラだ。




 家に帰ると、妹が熱心に本を読んでいる。タイトルは『うさぎの飼い方』。そういえば、妹は小学校でうさぎの飼育係だったな。勉強なんて、熱心だな。理由を聞くと、最近、うさぎが餌を食べてくれないからだとか。



 うさぎの断食なんて聞いたことがない。「先生に相談した?」との質問に「バカにしないでよ、お兄ちゃん」との返事。これは反抗期の始まりだな。



「愛ちゃんもね、心配なのか、うさぎ小屋に来てくれるの」



 愛ちゃんなら僕も知っている。よく家に遊びに来るから。




「ふーん、まことはその謎を解いて欲しいわけ?」



 クラス一のミステリーオタクの東雲しののめにも、これは解けまい。



「まさか。そんなことはどうでもいいんだ。単なる雑談さ。ここからが本題なんだけど……」



 僕は古めかしい名簿をバッグから取り出す。



「ほら、校門にあるブロンズ像、ボロくなってきただろ? 先生は作者自身に直させたいらしいんだ。それで、過去の卒業生名簿をひっくり返してるわけ」



「真も大変ね。で、作者は見たかったの?」



「いや、見つからないから相談に来たんだけど。名前は……確かアンドウ アキラさんだったかな。ブロンズ像の後ろに、作成年と名前だけしか彫られてないんだ。それ以上の情報はなし」



「それだけの情報で探せと。先生も酷な宿題を出したわね。ねえ、まさか男性の名簿だけ見てるなんて間抜けなことはしてないよね?」



「いや、男性の分だけさ」



「真、それはあなたが悪い。アキラなんて、女性の名前にも使うでしょ? 固定概念を捨てなさい」



 確かに作成者の名前は「安藤あんどうあきら」だった。これは東雲の言う通り、僕が悪い。言い方はともかくとして。



「それよりも、雪だるまの頭部破壊事件の方が面白いじゃない」



「面白いはないだろ」と僕。



「真、あんた知ってる? あの事件、雪だるまに共通点があるのよ。事件はあなたの妹の通ってる小学校を中心に円を描いてるの」



「へえ。それは知らなかった。それで、まさか犯人が分かったなんて言わないよな?」



「そのまさかよ。今さっき大体の目星がついたの。真、言う通りの雪だるまを作ってよ」



 僕が作るのか。いくら東雲が運動嫌いでも、それくらい自分でやって欲しい。



「こんな雪だるまを作ってちょうだい」



 東雲はお世辞にも上手いとは言えない絵を描いた。



「こんなんでいいのか?」



「そう。この通りに作って。余計なことはしないように」



 かなり念入りな釘の刺し方だ。よし、帰ったら作ってやるか。



「それと、犯人を捕まえるために、雪だるまに張り付いていること」



 こんな寒い日に!?



「犯人も寒い中、わざわざイタズラするのよ。あんたも我慢しなさい」




 その日、僕は東雲の指示通りの雪だるまを作った。帽子代わりにバケツを被せて、鼻にニンジンを使って。というか、ニンジン一本無駄になったんだが。どうしてくれるんだ!




 東雲の言う通りに犯人を待っていると、夕方に愛ちゃんがやって来た。何やら、キョロキョロとしている。妹は外出中だからうちに用はないはずだ。



 そんなことを考えていると、愛ちゃんが。まさか、愛ちゃんが犯人!?



「愛ちゃん、君だったの? 雪だるまにイタズラしていたのは」



 愛ちゃんは気まずいのか、顔を下に向けたまま、首を縦に振る。



「でも、なんで?」



「うさぎさんに、ニンジンをあげたかったから」



 ニンジン? そうか、愛ちゃんがうさぎ小屋に入り浸っていたのは、餌をあげるためだったのか。それなら、妹にお願いすれば良かったのに。



「イタズラはだめだよ。でも、なんで頭を壊したの? ニンジンを抜くだけじゃあ、だめなの?」



 愛ちゃんが睨みつけてきた。




「お兄ちゃん、そんなことも分からないの?!」



 まさか、愛ちゃんにまでバカにされるとは。どうやら、妹と一緒で反抗期らしい。それにしても、目的を分からなくするために、そんな手の込んだことをするとは、最近の小学生はだいぶ賢いらしい。



「愛ちゃん、もうしないって約束してくれる?」



「もちろん」





「やっぱりね。でも、今回ばかりは自信がなかったわ」



「え、犯人が分かってたんじゃないの?」



「真もバカね。あくまで、予想よ。こんな広い街の中で、犯人が分かるわけないじゃない」

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