アラン・フィンリー探偵事務所 ~ありふれた人探し~(不問×女)

Danzig

第1話

アラン・フィンリー探偵事務所 ~ありふれた人探し~



サラ:(モノローグ)

良く晴れた休日

あれは、午前10時を少し回った頃だったろうか、私がいつもの様に庭の手入れをしていた時、

誰も来るはずもない、こんな田舎の一軒家に、一人の人物が私を訪ねて来た。


アラン:

こんにちは。


サラ:

あら。


サラ:(モノローグ)

私は一瞬目を疑った。

その人物は、左腕に怪我をしているようではあったが、最後に会った時とあまり変わらない姿でそこに立っていた・・・

私にとっては、きっと生涯忘れることはないであろう人物


アラン:

お久しぶりです。


サラ:

ええ、お久しぶりね、アラン


アラン:

お元気でしたか?


サラ:

そうね、元気と言えば元気なのかしら

あなたの方は?


アラン:

そうですね、僕も元気と言えば元気です。


サラ:

そう・・・

でもどうして、わざわざこんな田舎までいらしたの?


アラン:

ちょっとこっちの方に用事が出来まして、

久しぶりにあなたの事を思い出したら、顔が見たくなったものですから


サラ:

そう・・・


(何かを想像するサラ)


サラ:

まぁどうぞ、中に入って。

お茶でも入れるわ


アラン:(モノローグ)

僕は彼女に促(うなが)され、「サラの庭」と書かれた表札を横に見ながら、庭の中に入って行った

彼女の庭は、手入れの行き届いた姿をしていながらも、神経質さを感じさせないほど、自然で美しかった。

僕は庭の奥にある、石造りの少々小さ目の家に招かれた


サラ:

そこの椅子に座っていて頂戴、いま紅茶を入れるわ


アラン:

いえ、お気遣いなく


アラン:(モノローグ)

僕は部屋の中をくるりと見渡した


アラン:

僕がここにお邪魔するのは初めてですね。


サラ:

そうね、あなたとはロンドンで別れたきりだったから・・・

それにしても、初めてでよくここが分かったわね。


アラン:

以前、あなたから手紙を頂いていましたからね。

住所が分かっていれば、特に難しい事ではありませんよ、僕はそういう職業ですから。


サラ:

ふふ、そうだったわね。


(紅茶を運ぶサラ)


サラ:

さぁ、紅茶をどうぞ。

マフィンは今朝焼いたものだけど、お口に合うかしら。


アラン:

有難うございます。


アラン:(モノローグ)

僕は椅子に座り、紅茶を口にした。


サラ:

庭で獲れたハーブを使っているのよ。


アラン:

どうりで・・・美味しいです。


サラ:

そう、よかったわ。

ところでアラン、今日はゆっくりしていけるのかしら?


アラン:

いえ、折角ですが、まだこちらで、やらなければならない事がありますので、すぐに失礼します。


サラ:

そう、折角来てくれたのに残念だわ。


アラン:

すみません。


サラ:

いいのよ、会いに来てくれただけでも嬉しいわ。

今の私は、人と話す事なんて殆どないから、懐かしい顔を見られただけで十分よ。


アラン:

もう、ロンドンに戻るつもりはないのですか?


サラ:

ええ、そうね。

ここはエレンが余生を過ごすつもりで買った土地だから、私はもうここから離れる事はないわね。

それに、ロンドンには、彼女のものはもう何も残ってないから、今更ロンドンに戻ったところで仕方がないのよ。


アラン:

そうですか・・・



アラン:(モノローグ)

僕が彼女と出会ったのは、まだ僕がロンドンで探偵稼業を始めて間もない頃だった。


(数年前)

(ロンドンのとあるビルの一室)


アラン:

ふぁ~


アラン:(モノローグ)

退屈な昼下がり、

探偵稼業を初めてまだ間もない僕には、特にこれといった顧客もなく、そうそう飛び込みの依頼がある筈(はず)もない。

僕はその日、朝の新聞も一通り読み終えて、特にやる事もなくぼんやりとしていた。


(コンコンコン)


アラン:(モノローグ)

そんな時、探偵事務所の扉を叩く音がした。


アラン:

どうぞ、開いていますよ。


サラ:

失礼します。


アラン:(モノローグ)

扉を開けて入って来た女性は、すこし俯(うつむ)いた様子だった。

まぁ、探偵事務所を訪ねてくるような人物は、大概何かしらの悩みを抱えているものなのだが・・・


アラン:

ご依頼ですか?


サラ:

ええ


アラン:

そうですか、では、そちらへお掛けください。

今、紅茶をいれますから。


サラ:

はい・・・


アラン:(モノローグ)

女性はゆっくりとした仕草で、ソファーに腰を掛けた。

僕は、紅茶の入ったティーカップを二つ、ソファーの前のローテーブルに置いた。


アラン:

お待たせしました、アラン・フィンリー探偵事務所へようこそ。

今日はどういったご依頼でしょうか?


サラ:

はい、あの・・・

妹を・・・・探して頂きたいのです。


アラン:

人探しですか?


サラ:

ええ


アラン:

そうですか、では、詳しくお話して頂けますか?


サラ:

はい。


アラン:(モノローグ)

依頼人は静かに話を始めた


サラ:

私はサラ・クィンシーと申します。

探して頂きたいのは、私の妹のエレン・クィンシーです。


アラン:

ほう。


サラ:

妹とは今までいつも連絡を取り合っていたのですが、4日ほど前から、彼女との連絡が取れなくなってしまっていて・・・


アラン:

失踪(しっそう)したという事ですか?


サラ:

分かりません


アラン:

警察には?


サラ:

警察には2日前に届けました。

でも、なんだか事務的な手続きをしているだけのように思えてしまって、どうにも頼りなくて・・・


アラン:

それで、探偵に?


サラ:

はい・・・、

でも私は、探偵に仕事を依頼をするというのが初めてでして・・・

どこにお願いすればいいのか迷っていた時に、偶然、ここを知ったものですから・・・


アラン:

そうですか。


サラ:

ここでは、こういったお願いも聞いて頂けるのでしょうか?


アラン:

ええ、失踪者(しっそうしゃ)の捜索、いわゆる「人探し」は探偵の仕事ですから、大概、どこの探偵でも依頼は引き受けて貰えますよ。


サラ:

そうですか・・・よかった・・・


アラン:

正直、僕は開業して間もない探偵です。

そういう事ですから、僕が言うのもなんですが、もっと実績のある探偵事務所にお願いしたほうが・・・


サラ:

いえ、折角ですから、あなたにお願いする事にします。

お願いします、妹を探してください。


アラン:

そうですか、わかりました。

では、もう少し詳しく妹さんの事をお聞かせください。


サラ:

はい。


アラン:(モノローグ)

それから、サラ・クィンシーと名乗る女性は、妹の事について話始めた。


サラ:

エレンは一つ下の妹で、小さい頃からいつも一緒に遊んでいました。

周りからはよく「双子のようだ」と言われたものでした。

私達は学生の頃に両親が亡くなったものですから、二人で支え合って生きてきました。

これがエレンの写真です。


アラン:

有難うございます。

よく似てらっしゃいますね。


サラ:

ええ


アラン:

で、ご一緒に住んでいらしたんですか?


サラ:

いえ、社会人になっても暫くは一緒に暮らしていましたが、今の住まいは別々です。

お互い連絡を取りながら、それぞれの家をよく行ったり来たりして・・・


アラン:

なるほど。


サラ:

エレンと連絡が取れなくなったのは4日前、私が掛けた電話にエレンが出なかった時からです。

いつもは直ぐに出てくれるのに、その時は全然電話に出なくて・・・


アラン:

ほう・・・それで?


サラ:

それで、心配になって、エレンの家まで行ってみたんです。

そうしたら、ドアに鍵が掛かっていて・・・


アラン:

留守だったんですね。


サラ:

そうなんです・・・

でも、エレンが私に黙って出かけるなんて、今まで無かったものですから・・・

それで、心配になって、家の中も見てみたのですが、エレンの姿はなくて。


アラン:

彼女の家の鍵を持っていたのですか?


サラ:

ええ、私達はお互いの家の鍵を持っています。

何かあった時の為にって・・・


アラン:

そうですか。


サラ:

それから2日経っても、エレンからは連絡がなくて・・・それで・・・


アラン:

それで警察に。


サラ:

ええ・・・

ですが、それから2日も経つのに、警察からは何の連絡もないので・・・その・・・


アラン:

探偵に頼んでみようと。


サラ:

はい・・・


アラン:

なるほど、わかりました。

そういう事であれば、今回の依頼をお引き受けしましょう。


サラ:

有難うございます。


アラン:

何か他に、エレンさんが立ち寄りそうな場所とか、彼女の知り合いとか、知っている事を全て教えてください。


サラ:

わかりました・・・


アラン:(モノローグ)

サラは一通りの情報を残して帰って行った。

僕はこの時、この依頼が、ただのありふれた人探しだと思っていた。



サラ:(モノローグ)

私は、アラン・フィンリー探偵事務所を後にした。

正直、あのアランという探偵に頼んでよかったのだろうか・・・

事務所からの帰り道、そんな後悔のような不安のような気持ちが私を包んでいた。

家に帰ってからも、私は落ち着く事が出来ず、少しウィスキーを口にした。



アラン:(モノローグ)

サラ・クィンシーが帰った後、僕はサラの置いて行った情報から、幾つかの場所を回り、エレンを探した。

エレンの行きつけのカフェや、ヘアサロン、マーケットで、エレンが立ち寄った形跡を探す。

そして、サラから教えてもらったエレンの友人に連絡を取り、彼女の居場所に心当たりが無いかを訪ねて回った。


サラ:

大丈夫・・・きっと大丈夫よ・・・・


サラ:(モノローグ)

不安は次第に大きくなっていく。

私はリビングのソファーに座り、何度も自分にそう言い聞かせていた。


アラン:(モノローグ)

何人かエレンの友人から話を聞いたところで、エレン・クィンシーの人物像が浮かび上がる。

それと同時に、サラとエレンの関係性も分かってきた。


僕の調べた限りにおいて、サラとエレンの関係は、僕の想像したものとはかなり違っていた。

そして、それを確かめる為に、僕は調査報告を兼ねてサラに会う事にした。



サラ:(モノローグ)

アラン・フィンリー探偵事務所を訪ねた次の日の夕方、

私がパソコンの画面を見ている時に、エントランスのベルが鳴った。


サラ:

はい、どなたですか?


アラン:

僕です、アランです。


サラ:(モノローグ)

エントランスに居たのは、アランだった。


アラン:

今日は調査報告を兼ねて、少々サラに聞きたい事があって来ました。


サラ:

そうですか・・・では、どうぞお入り下さい。


サラ:(モノローグ)

私はエントランスの鍵を開け、アランを中に入れた。


アラン:

すみません、突然お邪魔してしまって。

どうしても早めに確認しておきたい事があったものですから。


サラ:

いえ、いいんですよ。

そちらの椅子に座っていて下さい、今、紅茶を入れますね。


アラン:

いえ、お構いなく。


サラ:(モノローグ)

私がキッチンで紅茶を入れていると、リビングの方からアランが話しかけてきた。


アラン:

パソコンをされていたのですか?


サラ:

ええ、私はトレーディングをしているんです。

今はニューヨークの市場(しじょう)が開いている時間ですから、ちょっと見てたんですよ。


アラン:

そうですか、お仕事中にすみませんでした。


サラ:

いえ、いいんですよ、さぁ、紅茶が入りましたから、どうぞ。


アラン:

有難うございます。


サラ:(モノローグ)

アランは、ソファーに座り、私が入れた紅茶を、おもむろに口にした。


サラ:

ところでアラン、調査報告という事でしたが・・・何か分かった事があったのですか?


アラン:

ええ、分かった事は、あなたとエレンの関係です。

エレンの複数の友人が教えてくれました。


サラ:

・・・そうですか・・・


アラン:(モノローグ)

サラが少々神妙(しんみょう)な顔つきになった気がした。


エレンの友人の話によると、サラは人当りは良いが、内面は非常に我がままで、奔放(ほんぽう)な性格だという。

そして、その我がままな性格ゆえか、サラはエレンを奴隷か召使のように扱っていたようだった。


アラン:

話を続けてもいいですか?


サラ:

ええ・・・どうぞ・・


アラン:(モノローグ)

元々、サラはトレーディング、いわゆる株式投資で生計を立てており、エレンは普通の会社勤めをしていた。

二人の仲はごく普通の関係だったようだが、ある日を境に、サラのトレーディングは好調になり、サラはかなりの収入を得るようになった。

それから、二人の関係性に変化が現れ、ある日、サラが自分が生活費を払うからと、エレンの会社勤めを辞めさせた。

自分の気が向いた時にエレンがいないと面白くないという理由からだという。

そして、それからサラの態度が次第に酷くなっていったようであった。


サラ:

やはり、気づかれたのですね。


アラン:

ええ。


サラ:

すぐに気づかれるとは思っていました。


アラン:(モノローグ)

サラとエレンが別々に暮らしているのも、サラの性格ゆえの事であった

サラは非常に気分屋で、エレンが近くにいないと面白くない、

だからといって、一人になりたい時にエレンがいると鬱陶(うっとう)しいという理由で、自分の家の近くのアパートメントに部屋を用意し、そこにエレンを住まわせていた。

エレンは生活費と僅かな小遣いを与えられて、働く事も許されずに、常にサラに監視をされているような状態だったという。


サラ:

ごめんなさい・・・


アラン:

どうして事務所で話してくれなかったのですか?


サラ:

お話したら、依頼を断られると思ったものですから・・・・


アラン:

確かに、断っていたかもしれませんね。


アラン:(モノローグ)

エレンの友人は、みな口をそろえて「彼女がいなくなったのは、サラから逃げる為だろう、そして、もし自分がエレンの居場所を知っていたとしても、サラには教える気はない」と言っていた。


アラン:

エレンの友人の中には、彼女の居場所を知っている人がいるかもしれません。


サラ:

ええ・・・そうですね。


アラン:

ですが、友人らからエレンの居場所を聞き出すのは難しいと思います。

それに、僕がもし、エレンを探し出したとしても、彼女が戻ってくる事は無いかもしれません。

警察から連絡がないのも、ひょっとしたら、それが理由なのかもしれませんよ。


サラ:

・・・そうかもしれませんね。


アラン:

でしたら・・・


サラ:

それでも、私はエレンに会いたいんです。


アラン:

会って、どうするつもりですか?

エレンが失踪(しっそう)した原因は、あなたにあるかもしれないんですよ。


サラ:

アランの仰るとおり、エレンの失踪した原因は私にあるかもしれません。

でも私は、エレンに会って謝りたいんです。

エレンが居なくなって、ようやく分かったんです、自分がどれだけ彼女に酷い事をしていたのかを。

ですから、あの子に謝って・・・出来れば・・・・もう一度、昔のように仲良く・・・


アラン:

仰る事はわかりますが、随分と身勝手な話ですね。

それに、あなたには「昔のように仲良く」という事が出来ますか?


サラ:

努力します。

ですからアラン、どうかあの子を探して下さい。


アラン:

・・・・


サラ:

お願いします


アラン:

ですが・・・彼女を見つけたとしても、彼女が・・・


サラ:

エレンが戻りたくないなら、それでもいいんです。

ただ、今はエレンに会いたいんです。

会って、謝りたいんです。

もし、エレンが私から離れて、遠くで暮らしたいというのなら、私が今まで稼いだお金を全部エレンに渡します。

ですから・・・もう一度・・・


アラン:

うーん・・・


サラ:

お願いします。


アラン:

・・・そうですか・・・分かりました。

あなたがそこまで言うのであれば、もう一度エレンの友人の所を回って、エレンの居場所を探してみる事にします。


サラ:

有難うございます。


アラン:

ですが、もし、エレンが帰って来たしても、あなたのエレンへの態度が変わらなかった場合、

今度は失踪(しっそう)では済まないかもしれませんよ。

この意味は分かりますね?


サラ:

・・・はい、分かっています。


アラン:

では、また新しい事が分かりましたら連絡します。


サラ:

・・・はい、よろしくお願いします。


アラン:(モノローグ)

僕はサラの住まいを後にして探偵事務所へと向かった


サラ:(モノローグ)

アランがエントランスを抜けて、表通りへ出て行く様子が部屋の窓から見える。


サラ:

アラン・フィンリー・・・


サラ:(モノローグ)

彼に依頼をしたのは、果たして正しかったのだろうか・・・

そんな想いで私はアランの消えて行った方向をいつまでも見つめていた。


(翌日)


アラン:(モノローグ)

サラの元を訪ねた次の日から、僕はもう一度、エレンの友人の所を回ってみる事にした。

だが、エレンの友人たちの反応は、みな同じだった。

僕がいくら丁寧にサラが反省している事を説明しても、「知らない」という返事しか返っては来なかった。


アラン:

これが最期か・・・


アラン:(モノローグ)

僕はエレンの友人リストに残っている最後の人物を訪ねた。

ロンドンから少し離れたハンプシャーに住むローラ・スミスという女性。

彼女は僕の説得に頷(うなづ)き、そういう事ならといって、エレンの情報を教えてくれた。

僕は、少しづつ断裂(だんれつ)していく紐が、最期の一本でなんとか繋がっていてくれたような、そんな妙な安堵を覚えた。


サラ:(モノローグ)

私はパソコンに向かいながら、気もそぞろに紅茶を口にした。

アランが家に尋ねて来たあの日から、私はトレーディングの画面を見ながらも、まったく集中できなかった。

「アランは彼女を見つけてくれるかしら・・・」

何をするにも、私はそんな事ばかりを考えるようになっていた。


アラン:(モノローグ)

エレンは、サラに内緒で部屋を借りていたようだった。

場所は、リバーサイド・コート 402番地のアパートメント。

ローラが言うには、エレンはそこに一人で隠れ住んでいるのではないかというのであった。

そしてローラは、「電話の向こうのエレンは、まるでうつ病のようだったから心配している」とも言っていた。


リバーサイド・コートは、エレンがサラから宛(あて)がわれたアパートメントからは、それ程離れていない。

僕はローラに話を聞いてから、急いでロンドンに戻り、その場所へと足を運んだ。


リバーサイド・コートのアパートメントに着くと、僕はエントランスでエレンの部屋番号を推した

しかし、何度ベルを鳴らしたも、返事はない・・・



アラン:

確かに隠れ住んでいるのであれば、ベルを鳴らしても返事はないか・・・


アラン:(モノローグ)

僕は報告を兼ねて、一旦、サラへ連絡をする事にした。


(電話を掛けるアラン)


サラ:

はい、サラ・クィンシーです。


アラン:

僕です。


サラ:

あぁ、アラン・・・

どうでした? エレンは見つかりましたか?


アラン:

いや、まだエレンとは会えていませんが、エレンが居そうな場所は分かりました。


サラ:

本当ですか?


アラン:

ええ、リバーサイド・コート 402番地だそうです。

サラはこの場所に何か心当たりはありますか?


サラ:

いいえ、私には・・

エレンがそんな所に部屋を借りていただなんて・・・


アラン:

そうですか・・・


サラ:

アラン? どうしたんですか?


アラン:

いや・・・エレンの友人の話では、そこに居るのではないかという事だったのですが・・・

何度ベルを鳴らしても、何の反応もなくて


サラ:

それは、エレンはそこに居ないという事ですか?


アラン:

いや、もっと悪い状況ではないかと・・・


サラ:

え・・・それって・・・もしかして・・


アラン:

ええ、ひょっとしたら、エレンはもう死んでいる可能性があるかと。


サラ:

そんな・・・


アラン:

とにかく、警察に連絡をして、一緒にそこに行ってみましょう。


サラ:

ええ


サラ:(モノローグ)

私は電話を切ってから、アランの言った住所へと向かった。

リバーサイド・コートは、今私が住んでいるイーストサイド・レーンからも近く、程なくして、私はアランと合流した。

アランは私を待つ間に、警察とアパートメントの管理会社にも連絡をしてくれていた。

警察と管理会社の人間が来るまでの間、アランはこれまでの経緯を説明してくれた。


サラ:

そうだったんですか・・・


アラン:

ええ、ですから最悪の場合を考えて、警察と管理会社の人間も呼びました。

僕の思い過ごしであればいいのですが・・・


サラ:

そうですね・・・


サラ:(モノローグ)

警察が来るまでの間にも、私は何度もベルを鳴らしたが、やはり、返事が返って来る事は無かった。


アラン:(モノローグ)

それから暫くして警察、そして遅れて管理会社の人間がやって来た。

そして、警察立ち合いのもと、エレンが借りていたという303Bの扉が開けられた。


サラ:

エレン!


アラン:(モノローグ)

入り口でサラが呼びかけたが返事はない。

慎重に警察と共に部屋の中に入ると、奥の部屋のベッドの上でエレンは眠る様に死んでいた。


サラ:

エレン!


アラン:(モノローグ)

ベッドの横のテーブルには紙袋と薬品が置かれており、エレンが服毒自殺を行った様子が伺(うかが)えた。

僕は当初、今回の人探しは、それ程難しくはない「ありふれたもの」と思っていた。

だが、捜索(そうさく)対象の死という、何とも苦々しい結果になった事で、何ともいえないやるせない思いに包まれた。


サラ:モノローグ)

警察からは、エレンの死を事件と自殺の両面から捜査を行うと言われ、私も事情聴取をされたが、すぐに自殺と断定された。

警察の話によると、エレンが自殺と断定された理由は、

発見時の状況や、私が説明した、エレンの失踪から発見に至るまでの経緯が不自然でなかった事、

自殺をした部屋の契約者がエレンであった事、

そして、自殺の時に飲んだ薬も、エレン自身が購入したものである事が分かったからだと説明された。


アラン:(モノローグ)

エレンの携帯電話からは、Silent Passage(サイレント・パッセージ)という闇サイトへのアクセス記録が見つかった。

この「サイレント・パッセージ」は、自殺志願者に対して自殺のノウハウや、自殺用の毒薬を提供する闇サイトで、自殺の多いイギリスでは、捜査当局で問題視しているサイトだ。

その都度、巧みにアドレスを変えて、捜査当局の手を逃れ、ネットを彷徨(さまよ)う自殺志願者が、たまたま見つけた場合、毒物を購入できるという。

エレンはアパートメントの契約をする少し前から、ネットで自殺の方法を検索しており、偶然このサイトに行きついたであろうと推測(すいそく)された。

エレンはここで「サイレント・ナイト」という毒物を購入しており、代金はエレンの口座から支払われていた。

「サイレント・ナイト」という毒物は、飲み物に混ぜて飲むと、苦しまずに眠る様に死ねるという薬らしい。

そして、ベッドの横にあったこの薬の成分が、エレンの死体から検出された事から、警察はエレンの死を自殺と断定したのだった。


サラ:(モノローグ)

私は警察から、エレンの死亡推定時刻はおよそ6日~7日程前で、失踪の当日に自殺したようだと説明された。

身体(からだ)は既に腐敗が始まっており、早急に葬儀を行いたいという私の願いを警察は聞き入れてくれた。

エレンを見つけたその二日後、私は警察の病院からエレンの遺体を引き取り、すぐに葬儀を行う事にした。

エレンも腐敗した自分の身体を、他の人には見られたくはないだろうと思い、葬儀には誰も呼ばず、私一人だけで静かに行った。


(教会)


サラ:(モノローグ)

人けのない午後の教会、

私以外には誰もいない筈(はず)のこの教会で、棺(ひつぎ)の前に座る私に、後ろから声を掛ける人物がいた。


アラン:

こんにちは。


サラ:(モノローグ)

振り返ると、そこにはアランの姿があった。


サラ:

あぁ、アラン。


アラン:

僕も彼女にお別れをしようと思いまして。


サラ:

そうだったの・・・ありがとう。


サラ:(モノローグ)

アランは無言のまま私の横に座った。

そして少しの沈黙のあと、アランが口を開いた。


アラン:

ところで・・・・


サラ:

え?


アラン:

遺体は埋葬(まいそう)されるのですか?


サラ:

あぁ・・・その事・・。

火葬(かそう)にする事にしたわ、もうロンドンには遺体を埋める場所もそんなに残っていないみたいだから・・・


アラン:

そうですか・・・

サラはこれからどうするのですか?


サラ:

そうね、エレンが居なくなって寂しくなるけど、私の暮らしは変わりそうにないわ。


アラン:

そうですか・・・


サラ:(モノローグ)

そういうと、アランはまた黙り込んだ。

暫くの沈黙の間、教会の中が静けさで満たされていった。


(少しの間)


アラン:

サラ・・・


サラ:

え?


アラン:

このままでいいのですか?


サラ:

・・・それはどういう事?


アラン:

このまま彼女を火葬してしまうと、もう戻れなくなってしまいますよ。


サラ:

何を言っているの?

あなたの言っている意味が分からないわ。


アラン:

「自首をするなら、今のうちですよ」という事です。


サラ:

何を言い出すかと思えば・・・どうして私が・・・・


アラン:

彼女を殺したのはあなたでしょ?


サラ:

何を・・・

あぁ・・・私がエレンを殺したようなものだって事が言いたいのね。

・・・そうね、確かにエレンを殺してしまったのは私ね。

彼女には本当に、悪い事をしてしまったわ・・・

でも、それで自首ってどういう事?

私は警察に行ったけど何も言われなかったのよ


アラン:

いえ、そういう事ではありません。


サラ:

じゃぁ、どういう事なの?


アラン:

「物理的に、彼女を殺害したのは、あなたですね」という事です。


サラ:

な・・・何をバカな事をいうの。

私はエレンを失って悲しんでいるのよ、それを私がエレンを殺害しただなんて、失礼にも程があるわ。

あなたがそんな人だったなんて、思わなかったわ。


アラン:

本当にバカな事でしょうか


サラ:

ええ、そりゃそうでしょ。

私がエレンを殺せる訳がないじゃない、私はエレンがあの部屋を借りている事すら知らなかったのよ?


アラン:

いいえ、あなたはエレンがあの部屋を借りている事を知っていました。


サラ:

そんな・・・どうしてそんな事が言えるの?


アラン:

僕が電話であなたに「リバーサイド・コート 402番地に心当たりはないですか」と聞いた時、

あなたは「そんな所にエレンが部屋を借りていたなんて知らなかった」と言いましたね。


サラ:

ええ、言ったかもしれないわね。


アラン:

僕はその場所がアパートメントだとは言っていませんよ。

それに、突然の失踪であれば、友人とか、他の誰かに匿(かくま)って貰(もら)っている可能性の方が高いでしょう、

なのに、どうしてあなたは、そこがアパートメントで、しかもエレンが部屋を借りていると言えたのですか?


サラ:

そ・・・それは・・・・


アラン:

あなたがそれを知っていたからですよね?


サラ:

そ、そうかもしれないけど、あの部屋はエレンが自分で借りて、薬も自分で買って、その薬を自分で飲んだのよ、それは警察だって認めているじゃない。

魔法か何かを使わない限り、私、サラ・クィンシーには、妹のエレン・クィンシーを殺す事は、どうやったって出来ないのよ。


アラン:

そうですね、確かに僕も、あなたの言う通り、サラ・クィンシーには、エレン・クィンシーを殺す事は出来ないと思いますよ。


サラ:

ほら、ご覧なさい。

あなただって認めてるじゃない。


アラン:

しかし、彼女を殺したのはあなたです。


サラ:

まったく、何を言っているの、本当に訳が分からないわ。

もう、いい加減にして頂戴。


アラン:

確かに、サラには、エレンを殺す事はできません。

ですが、エレンには、サラを殺す事は出来るんですよ。

だから、彼女は死んだんです。


サラ:

な・・・

ま、まったく、何を言い出すかと思えば、それじゃまるで私が・・・・

まるで・・・私・・が・・・


アラン:

もうやめにしましょう、エレン。


サラ:

・・・・


アラン:

あなたは、姉のサラではなく、妹のエレン・クィンシーですね。

そして、そこで眠っている遺体が、あなたが殺した、姉のサラ・クィンシー、

違いますか?


サラ:

・・・それは・・・


アラン:

あなたはサラを殺した後、サラに成りすまして、僕の所に妹探しの依頼をしに来た。

そして僕と一緒に遺体を見つけ、火葬にする事で、この成りすましを完成させるつもりだった・・・


サラ:

どうして・・・


アラン:

今日、ハンプシャーに行って、ローラ・スミスにあって確信しましたよ。

あなたが、エレンだという事を


サラ:

・・・そう・・・分かっていたのね・・・


アラン:

ええ、まさかとは思っていましたが・・・


サラ:

いつから気付いていたの?


アラン:

違和感があったのは、エレンの友人達を訪ねている時です。

彼女達の語るサラのイメージと、あなたの印象が、なかなか一致しなかったんですよ。

あとは、エレンが借りたアパートメントが、サラのマンションから近かった事ですね。

逃げるように失踪するのなら、もっと遠くに行くはずだと思ったものですから。


サラ:

・・・そうだったの

開業間もない探偵さんだから、大丈夫だと思ってたけど・・・あなたがこんなに優秀な探偵だったなんて・・・

失敗したわ。


アラン:

申し訳ありません

でも、どうして探偵に依頼をしたのですか? 警察だけにしておけば、こんな事には・・・


サラ:

私も最初はそう思ったわ

でも、警察に依頼しても音沙汰がないし、このままだと本当にサラの遺体が腐ってしまうと思ったのよ。


アラン:

そうか・・・遺体が腐ってしまえば、遺伝子レベルで本人の特定がされるから・・・・


サラ:

ええ、そうなれば、遺体がエレンじゃないと分かってしまう可能性が高くなるから。


アラン:

なるほど、それで探偵に依頼をして、遺体が腐敗する前に見つけて貰おうと。


サラ:

ええ

友人リストは私が作って、ロンドンから遠いローラだけに、あのアパートメントの住所を教えておいたの。

あの子は優しい子だから、多分、情にほだされて、警察や探偵に住所を教えるだろうと思って・・・

だから、直ぐに見つけて貰えると思ってたわ。

それに、ハンプシャーなら、わざわざ訪ねて来る事もないから、私とばったり会うなんて事もないだろうと思ったの。


アラン:

そうだったんですか・・・


サラ:

いろいろやり過ぎたのかもしれないわね。

まさか、あなたに知られてしまうなんて。


アラン:

僕は、あなたがエレンかもしれないと思っても、どうしても確信が持てなかったんです。

それは、僕がサラの家に行った時、あなたはまるで自分の家のように振舞っていた、

それに、トレーディングにも慣れている感じがしました。

だから、僕はあなたがサラだという可能性を捨てきれなかったんです。


サラ:

フフ、そりゃそうよ。

私がどれだけあの家で召使のように使われて来たか・・・私はサラよりもあの家の事は知っているわ。

それに、トレーディングで稼いでいたのは、サラじゃなくて私だったのよ。


アラン:

それで・・・でも、どうして。


サラ:

サラは我がままで奔放(ほんぽう)な人だから、会社勤めが出来なかったの。

それでトレーディングで生活をしようなんて、甘い考えで投資を始めたんだけど、あの性格でしょ、うまく行く訳もなくてね。


アラン:

それであなたが。


サラ:

ええ、見かねた私が、キチンと勉強をしてトレーディングをしたら、運もよくて、かなり稼げるようになったの。


アラン:

でも、それなら別にサラを殺さなくても・・・


サラ:

トレーディングで結構な額を稼ぐようになると、サラはまるで人が変わったようになってしまってね・・・

これまでもサラは、私を小間使いのように扱っていたけど、それ以上に自分の自由にしないと気がすまなくなってしまって。

最初は私も、サラが姉だからと我慢していたんだけど、それがいけなかったのね、

気が付いたら、もう彼女は手の付けられないような状態になってしまっていて・・・

私ももう耐えられなくなって、いっそ死んでしまおうと、ネットを彷徨(さまよ)っていたら、偶然、「サイレント・パッセージ」という闇サイトに辿(たど)り着いて・・・


アラン:

それで、自殺ではなくサラを殺そうと。


サラ:

ええ、そこでは薬を使った人殺しの方法も細かく書かれていたわ、それで今回の計画を立てたのよ。

部屋を借りて、薬を手に入れて、サラをあの部屋に連れて行ったの。

あなたの為に新し部屋を借りたから、家具の配置を見て欲しいと言って・・・

そして、飲み物に薬をいれて、サラに飲ませたのよ。


アラン:

それは分かりましたが、随分(ずいぶん)と杜撰(ずさん)というか・・・直ぐにバレてしまうとは思わなかったんですか?

例えば、あなたから預かった写真を、僕がエレンの友人に見せれば、それがエレンではないと分かってしまうでしょうし、

警察で身分証明書の提示を求められたり、疑って捜査をされたら直ぐに分かってしまいますよ。

もし警察に、まともな刑事がいたら・・・

それに、今日だって、もしこの葬儀にあなたの友人が出席していたら・・・


サラ:

そうね、私とサラは顔がかなり似ているから、写真ならある程度は誤魔化せると思ってたわ、

でも、私達がいくら似ているとはいえ、友人と直接会えば、無理よね。


アラン:

今回、ここまであなたの事がエレンだとバレなかったのは、本当に運と偶然が重なったに過ぎないんですよ。


サラ:

ええ、私もそう思うわよ。

でも、私はプロの殺し屋じゃないのよ、上手な人の殺し方とか、アリバイの作り方なんて分からないもの。


アラン:

まぁ、普通の人であれば、確かに・・・


サラ:

この計画を立てた時から、ずっと私は、まるでタイトロープを渡っているような気分だったわ。

少しでも風がふけば落ちてしまう・・・そんな気分だった。


アラン:

・・・そうでしたか・・・


サラ:

でもね、アラン。

私はもともと死のうと思っていた人間だから、タイトロープから落ちる事はそんなに怖くはなかったのよ。


アラン:

そうかもしれませんが・・・


サラ:

ねぇ、アランは知ってる?

犯罪はね、最初の一度だけは、成功する確率がとても高いそうよ。


アラン:

ええ、まぁ・・・


サラ:

私はそれに賭けてみようと思ったの。

でも、やっぱり落ちちゃったわね、もう少しだと思ったんだけど・・・


アラン:

では、自首をするのですか?


サラ:

ううん、自首はしないわ

自首をしても、私の気持ちは、それほど変わらないだろうから


アラン:

でも、このままでは、あなたは一生サラとして生きていく事になりますよ?


サラ:

いいえ、

あなたが警察に通報するから、私はエレンとして服役する事になるでしょ。


アラン:

いえ、僕が警察に通報する事はありませんよ


サラ:

あら、どうして?

市民は犯罪を警察に通報する義務があるでしょ?

ましてや、アランは探偵なんだから、警察にいい印象を与えておいた方が、この先得なんじゃないの?


アラン:

そうかもしれませんね。

でも、僕はときどき正義というものが何なのか、よく分からなくなる時があるんですよ。

確かに、健全な市民としては、事件を警察に通報すべきなのでしょうが、

今回の件に関しては、僕には、そういった社会の正義よりも、もっと別な・・・

そうですね、例えば、探偵としての守秘義務の方が大切な気がしてなりません。


サラ:

そう・・・変わった人ね


アラン:

ところで、自首をしないとなると、これからエレンはどうするつもりなんですか?


サラ:

そうね・・・

さっきは、変わらないなんて言ったけど、実はヨークシャーに私が余生を過ごそうと思って買っておいた土地があるの。

そこでサラとして、のんびりと暮らそうかしら。

凄く田舎だから、私を知っている人に会う事もないだろうし、幸い、死ぬまでくらいなら、お金は無くなりそうにないから。


アラン:

そうですか・・・ロンドンにいるよりも、その方がいいかもしれませんね。

では、お元気で


サラ:

ありがとう、落ち着いたら、手紙でも出すわ

アランが警察に貸しを作りたくなったら、いつでも来て頂戴。


アラン:

ははは

そういう事はないと思いますが、僕もヨークシャーに行くような事があったら、会いに行きますよ。


サラ:

フフ、楽しみに待っているわ


アラン:(モノローグ)

そして、エレンは、葬儀の後、妹を亡くしたサラ・クィンシーとしてヨークシャーに旅立ち、後に一通の便りをくれた。


(現在)

(サラの家)


サラ:

懐かしいわね。


アラン:

そうですね。

僕が開業して間もない頃だったので、今でもよく覚えていますよ。


サラ:

私もよく思い出すわ。

ここは時間が止まっているような所だから。


アラン:

そうですか。


サラ:

ええ、

アラン、もう一杯紅茶はいかが?


アラン:

いえ、もう辞めておきます。


サラ:

そう・・・

じゃ、私もこの紅茶を飲んだら用意をするわね。


アラン:

何の用意ですか?


サラ:

警察の方を外に待たせているんでしょ?

あまり待たせたら悪いじゃない。


アラン:

いや、今日は僕一人で来たんですよ。

あなたの事を誰にも話した事はありません、探偵には守秘義務がありますから。


サラ:

そういえば、そう言っていたわね。


アラン:

今回の案件がちょっと特殊な案件で、あなたの事を思い出したんですよ。

あなたとの事が無ければ、僕は死んでいたかもしれません。


サラ:

そうなの、

それは、その左手に関係ある事かしら。


アラン:

そうですね、これだけで済んでよかったです。


サラ:

そう、

何かのお役に立てたようなら、なによりだわ。


アラン:(モノローグ)

その時、僕はおもむろに壁に掛けてある時計を見た。


アラン:

あ、そろそろ僕は帰ります。

まだ仕事が残っていますから。


サラ:

あらそう、

何もお構いが出来なくてごめんなさいね。


アラン:

いえ、紅茶、ご馳走様でした。


サラ:

また何かあったら来て頂戴ね。


アラン:

ええ、エレンも元気で。


サラ:

今はサラよ。


アラン:

そうでしたね。


アラン:(モノローグ)

僕は、この小さいながらも綺麗に手入れされたエレン・クィンシーの庭を後にし、ヘリンへと向かった。

そして、ヘリンでの仕事を何事もなく終えて、ロンドンに戻り、またいつもの日常が始まる。


(間)


アラン:(モノローグ)

平穏を取り戻した退屈な日常


(コンコンコン)


アラン:(モノローグ)

朝の新聞も一通り読み終えて、特にやる事もなくぼんやりとしていると、事務所の扉を叩く音がする。


アラン:

どうぞ、開いてますよ。


アラン:(モノローグ)

扉を開けて入って来たのは、見知らぬ人物だった。

そして僕は、いつもと変わらぬ口調で、その人物に声を掛ける。


アラン:

ご依頼ですか?

では、そちらへお掛けください。

今、紅茶をいれますから


アラン:(モノローグ)

そしていつもの様に、紅茶の入ったティーカップを、ローテーブルに置く


アラン:

お待たせしました。

「アラン・フィンリー探偵事務所」へようこそ。




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アラン・フィンリー探偵事務所 ~ありふれた人探し~(不問×女) Danzig @Danzig999

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