アインの観測者

あさひ

第1話 相棒

 木漏れ日が心地いい

午後の田舎町「願掛町≪がんかまち≫」

木々が生い茂る古風な町である。

 神社が数か所と公民館に

少しスーパーが二軒ほどある

田舎の中の田舎なのだ。

 電車に揺られているはずの少年は

ここで物語を紡ぐのである。


 電車には目に刺さるぐらいに

木漏れ日が猛威を奮っていた。

 居眠りしようものなら

日差しと揺れで吐いてしまいそうである。

「うっ……」

 電車に揺られる一人だけの少年は

早くも内容物を抑えずにはいられない。

 電車に備え付けのトイレは

相変わらずに閉まっている。

「なんでこんな時に?」

 一言だけ放った後には

もう喋れないぐらい喉を登頂してきていた。

「……」

 ダメだと思った刹那だった

電車がようやく駅につきそうだとアナウンスが流れる。

「よ…… かった……」

 まあ結局だが

駅員さんに心配そうな目で背をさすられるわけだが

それは別の話だ。

 清々しい顔で駅の日差しを手で隠しながら

背伸びをした姿を

駅員さんに発見され

安堵のため息を後ろに感じる。

「あっ…… どうも……」

 にっこりと笑う駅員にホッと胸を撫でおろすと

駅の改札へと歩いていった。

 展望は目の前に大きな山が遠目に見えて

右側に高速道路だろうか

コンクリートの柱が並ぶ。

 しかし目的地は左の

神社があるであろう一般道であった。

「道はこっちだよね」

 スマホの画面には地図らしきものが

映っている。

「この道の先を左……」

 顔を前に向けた時に

ふと視界に何かが映った。

「誰だろう?」

 小さいが芯が通っていそうな

少女がご機嫌に笑っている。

「ようこそ! 都会人!」

 都会の人が珍しいのか

田舎の少女がこちらに手を振っていた。

「神社はこの奥の道か」

 無視した

完全なスルーだ

もはや芸術点を獲得できるほどの

見事なスルーである。

「こらこら……」

 服を捕まれようやく

反応した。

「なんですか?」

「こんな美少女を無視するのか?」

 疑問を疑問で返す

ムッと頬を膨らませる少女に

さすがに話を聞く。

「どうしたの? 学校は行かないのかな?」

「大人ですけどぉ」

 この見た目で大人だと言い張られても

説得力がない。

「お酒は買えるのかな」

「酒盛りか? よいなぁ」

 顎に手を当てながら

よだれを垂らす姿はまるで

おっさんである。

「裂きイカを炙ってから……」

 その言葉にお腹の虫が

呻いた。

「で奢ってくれと?」

「ちがーうっ!」

 じゃあどんな用事だと

顔に出すと簡潔に答える。

「願いがあるんだろう?」

「なんで知ってる……」

 ふふんと鼻を鳴らす少女は

自慢げに探偵を模倣しだした。

「ここは観光地であり、アイン様の伝承の地である」

「なるほど」

 観光で来る人で慣れていたのかと

安堵する。

「てっきり君が人食いなのかと思った」

「なんだ? 人食い?」

「サイトに書いてあったんだよねぇ」

 スマホでその画面を開き

少女に見せてみた。

「ほうほう……」

 興味深く見ているが

内容がわかっていないのか

眉間に皺が寄っている。

「どこの国の言葉だ?」

「日本語だよ……」

 現代の言葉が通じてない

わかっていない。

「まるで過去の時代から来たみたいだね」

「なんでわかった?」

 冗談なのか本気なのか

わからない返事に惑うが

どうやら本気らしかった。

「この町には妖怪がいるらしいんだよねぇ」

「わしじゃな」

 あっけらかんと答えた少女は

よく見ると周りのガラスに映っていない。

「どうした?」

 目の前の少女が

この世のものではないことを知った。

 足がほとんど透けているどころか

全体的に色素が薄い。

「幽霊? というか妖怪か……」

 そんな状況でも冷静に少年は

目の前のことに向かっている。

「おぬしの名前は?」

「え?」

 教えていいのか迷っていたが

どうせ逃げられないと悟ったのか

本名を嘘を混ぜずに言った。

「本渡ゆき≪ほんどゆき≫」

「おなごの様な名じゃの?」

 現代語と古典が混ざる言葉だが

どうやら周りの人から教えてもらったらしい。

 少女はボロボロの紙を

確認しだした。

「それは?」

「神社に来る若者からもらったんじゃがのぅ」

「それって何年前?」

「確か「ちょこら」という菓子が買えんくなった」

 その菓子は二十年ほど前に

販売を中止した人気のお菓子である。

「だいぶ前だね……」

 これで完全に目の前にいるのが

妖怪だということが分かった。

「じゃあ妖怪さんの名前は?」

「さっき名乗ったがのぅ」

 会話を記憶で戻してみると

名前らしきものを言っている。

 アイン様という言葉しかない

この目の前にいるのは

アインという神様であり

目標の存在だ。

「君が願いを叶えるアイン様?」

「そうじゃと何回も言っておるじゃろうが……」

 願いは一つだった

想いというのが正しい表現ではあるのだが

唯一の一つである。

「願いを見つけたい」

「?」

 言っていることがわかってない

というより意味がわかってない。

「どういうことじゃ?」

 願いがない

そして叶えたいこともない

ただ何かを求めるという気持ちが知りたいのだ。

「それは願いというより好奇心じゃのぅ」

「うん」

 願いを見つけるのが

今回の望みである。

「わしに見つける手助けをしろと申すのか?」

「そうだね」

「ではこの街に来る者たちの手伝いになるぞ?」

「じゃあそれで行こう」

 こうして神様と名乗る少女と

相棒を組むことになった本渡ゆきは

この街に来る者たちの願いを叶えることになった。


 第一話 相棒 完


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アインの観測者 あさひ @osakabehime

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